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満島ひかり、『カルテット』の不器用な恋に共感ーーこぼれ落ちる一筋の涙の見事さ

  • 2017.3.8
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放送開始が1時間10分遅れても、リアルタイムで見たいドラマ『カルテット』。ハートウォーミングな気持ちになったと思いきや、ゾッとするようなエンディングが待ち受けていた第8話。主軸となる、真紀(松たか子)、別府(松田龍平)、すずめ(満島ひかり)、家森(高橋一生)の片想いの行方が気になるのはもちろんだが、やはり見応えがあるのはそれぞれの切ない恋心を熱演するキャストの力量だ。

なかでも、すずめを演じる満島には、さすがのひとこと。すずめの一喜一憂が、ストレートに伝わってきて、胸が締め付けられた。物語は、真紀の離婚が成立したことにより、真紀に恋心を抱く別府にチャンス到来と、家森がけしかける。すずめも別府への想いを募らせていくのだが……。

「好きなことを忘れるくらい、いつも好き」これはすずめが、いつも飲んでいるコーヒー牛乳のことをさしてのセリフだが、家族の愛に恵まれなかった彼女にとって、髪の毛から同じニオイをさせ、ナチュラルに食べかけをシェアできる真紀や別府、家森こそ、もはや家族であり、「好きなことを忘れるくらい、いつも好き」な存在。

すずめは真紀のことが好きだ。その真紀のことを好きな別府のことはもっと好きだ。じゃあ、自分は何を望んだらいいのだろう。父親の詐欺に加担したとされ、散々辛い思いをしてきた。円満な人間関係をずっと築けなかったすずめにとって、愛する人の負担にならないことこそ、愛のカタチだったのではないだろうか。

4人のホームである別荘が売却されそうになるのを知ったすずめは、自立しようと奮闘する。無職でダメ人間(と別府の家族に思われている)な自分が、せめて別府に迷惑にならないように。そして、別府が想いを寄せる真紀とうまくいくことを願って行動することが、自分にできる最大限の愛なのだと考えたのではないか。

大人になろうともがきながらも、いちばん不器用な道をひた走っているすずめは、見ていてとても切ない。以前、すずめは有朱(吉岡里帆)から「女からキスをしても男に恋は生まれない」「ペットボトル1本分の距離を保つこと」と恋愛の極意を教わった。でも、実際は恋する別府には自分からキスをしてしまい、恋愛対象ではない家森に対して“ペットボトル1本分”の距離で「(真紀と別府がくっつくように)協力してほしい」と、お願いする始末。

しかも、その家森の片想いの相手こそすずめなのだ。家森がリビングで「僕は女性を好きにならないようにしている。向こうが僕を好きになる確率が極めて低いから」と発言したとおりの図に、切なさが際立つ。興味のない相手から告白をされても「ありがとう」としか言えないもの。むげに断ることで傷つけたくないが、かといって気持ちには応えることはできない。どちらにせよ、想いを伝えれば好きな相手を困らせることになる、と人はいつの間にか学ぶものだ。ならば、言わずに自分の夢の中で温めよう。大事に思うからこそ、距離を取る。むしろ、自分以外の人と幸せになってくれるのであれば、それでいいじゃないかと、思い込む。これでいい、これでいい……と、自分に言い聞かせて。そんな恋をしたことのある視聴者なら「もうやめてくれ」と言いたくなるほど、実にしんどいシーンだったのではないだろうか。

すずめは、第1話からよく眠っていた。その多くが、都合の悪い話に耳を塞ぐかのような寝落ち。だからこそ、真紀と別府のデートをしているとき、机に突っ伏して見た夢が幸せ過ぎて、また切ない。ナポリタンを食べるとき白い服が汚れないようにと、別府がエプロンをかけてくれる。下りのエスカレーターにのるときは、別府が手をとってタイミングをはかってくれる。そのときの顔は、明らかにふだん4人でいるときとは違う恋する表情だ。

さみしさや世知辛さに、ずっとひとりで耐えてきたすずめ。日常に潜むリスクを、自分ごとのように察知して、一緒に対応してくれる人がいてくれたら、どんなに心強いだろう。ようやく、この人かも知れないと思う相手を見つけたのに、誰かに譲るのは、きっと白い服でナポリタンを食べる行為に近いのだろう。やってしまった……と痛い目にあって、その大切さを再確認するのかもしれない。

夢から現実に戻るとき、こぼれ落ちる一筋の涙は見事だった。すずめのピュアさ、あどけなさ、そして心の奥底にある物悲しさを、嫌味なく演じてしまう満島という女優には感服だ。もちろん彼女の演技力には述べるまでもなく定評があったし、出演作品を見るたびに心を打たれていたが、この作品ほど「演技がうまいことを忘れるくらい、いつもうまい」女優だと痛感したことはない。(佐藤結衣)