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スヌーピーの“オシャレ感”の秘密! 落ち込んだとき、励ましてくれるPEANUTSの世界【 第3回 昔の子ども、今の子ども。】

  • 2017.2.22
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左から中山三善 様(スヌーピーミュージアム館長) 、草刈大介 様(クリエイティブ・ディレクター)

子どもから大人まで、幅広い年齢層から愛されているスヌーピー。実は本国のアメリカを除くと、世界的にも断トツで人気が高いのが日本なのだとか。そんなスヌーピーの知られざるルーツを探るべく、六本木にあるスヌーピーミュージアムに行ってきました。

スヌーピーの歴史からキャラクターが持つ“オシャレ感”の秘密まで、同ミュージアム館長の中山三善さんと、クリエイティブディレクター・草刈大介さんに、その魅力をたっぷりと語っていただきました。

■スヌーピーの生い立ち
スヌーピーが誕生したのは1950年。『PEANUTS』というマンガに登場するキャラクターで、もともとは主人公のチャーリー・ブラウンが飼っているしゃべらない脇役の犬でした。でも作者のチャールズ M. シュルツ氏は、スヌーピーを徐々に子犬から人間以上の存在にしていったと言います。

草刈「シュルツさんが子どもの時に飼っていたスパイクという犬が、とても変わった犬だったみたいで。家族の中では人間の言葉を50くらい理解できると言われていたり、コーラを飲んだり、画鋲を食べちゃうなんてエピソードもあるんです。この時から、シュルツさんの心の中には、普通とは違う“変わった犬”のイメージがあったんですよね。

実は『PEANUTS』の前にも『リル・フォークス』などいろいろなマンガを描いているけれど、そのすべてにおもしろい犬が出てきます。恐らくそこには、小さな時に飼っていたスパイクの影響がある。シュルツさんは『PEANUTS』の連載が長く続いていくに連れて、スヌーピーがスパイクみたいだったらどうだろう?と考えるようになったんです。

深層心理の中にあった“変わった犬”のイメージが、スヌーピーに人間以上のことをさせるようになったルーツであり、大きなキッカケになっています」

(c) Peanuts Worldwide LLC

■スヌーピーの今と昔
長年に渡って絶大な人気を誇り続けるスヌーピー。親世代、子ども世代という今昔で、人気のあり方に違いはあるのでしょうか?

草刈「今はキャラクター人気が先行していますが、昔はコミックの人気があったと聞いています。1967年に『PEANUTS』が日本で刊行されて、現代詩人の谷川俊太郎さんがマンガを翻訳しているっていうのが新鮮だったし、日本で出版されていたマンガと比べてすごくオシャレだった。

表紙は日本語だけど裏表紙が英語で書かれていて、カッコつけて裏面にして置いてみたり…当時の若い子たちは、コミックにすごく影響を受けていたんです。コミック発行から1年ほどでグッズが出るようになって、これは日本のキャラクターグッズの走りでもあります。

白黒のシンプルな絵柄が日本人はすごく好きだし、今までの日本のキャラクターにはないオシャレさがあった。なので当時は、コミックもグッズも両方人気があったんですよね。

今はキャラクターのほうが人気になってしまって、意外とコミックが読まれていない。爆笑するようなものではないけれど、ユーモアがあるコミックのおもしろさが伝わっていないので、ミュージアムではその本来の部分を伝えたいっていうのがありますね」

シュルツ美術館にある壁画の製作者である大谷芳照さんが手掛けた壁画。約4500枚のコミックを立体的に組み合わせて作られており、大迫力のスケールで来場者を迎えてくれる。

■スヌーピーの変遷
スヌーピーにとって、もっとも大きな進化は四足歩行から二足歩行になったこと。他にも50年の歴史の中で、鼻が丸くなったり、お腹がポッコリ出てきたり、容姿が少しずつ変化しています。

草刈「意図してやっている部分と、描いていたら自然とそうなったっていうのが混ざっているんじゃないかな。たとえば子犬の姿だと、犬小屋の上に乗る姿が想像できないじゃないですか。でも胴長になって手足が動くようになると、人間のすることができるようになる。

そうすることで、もっともっと人間みたいなことをやらせてみようとか、動物の真似をさせてみようかとか考えるようになったのではないかと。60年代になると、二本足で立って、普通の犬じゃできないことをさせるようになりますが、当時はずっと立っているわけではなくて、完全に立つようになるのは70年代になってからなんです。

でも、なぜか晩年の頃になると、普通の犬のように座っているポーズが増えている。実はシュルツさんが新たに犬を飼ったっていうのもあって、それが影響しているっていう話もあるんですよ。マニアックな話ですけどね(笑)」

スヌーピーの歴史を追ったアニメーション、子犬時代のスヌーピーの影絵、「ハッピーダンス」という3つの映像は、すべて映像制作会社のロボットが手掛けたオリジナル作品。

■『PEANUTS』に登場するキャラクターの秘密
子ども同士が日常のあれこれを話す様子を描いた『PEANUTS』には、個性豊かなキャラクターたちが登場します。主人公のチャーリー・ブラウンをはじめ、それぞれモデルとなった人物とは?

草刈「『PEANUTS』には主要なキャラクターが10人ほどいますが、とくにチャーリー・ブラウンはシュルツさん自身の投影だったと言われています。町の中を歩いても誰からも気付かれない…そんな平凡な自分を、チャーリー・ブラウンに重ねていたようです。

でも、必ずしもチャーリー・ブラウンのすべてがシュルツさんの投影ではないんですよ。シュルツさんのことを知る人が言うのは、“全部のキャラクターがシュルツさんの分身である”と。すべてのキャラクターについて、それぞれある部分はシュルツさんの分身であるけれど、そうでない部分もある。

キャラクターの名前は、だいたい彼が出会った人の名前から取っているけれど“その人物=キャラクター本人”っていうわけではなくて。すごくおもしろいですよね」

草刈「小さな子どもからは、スヌーピーが圧倒的に人気です。一般的にいうと、その次がウッドストックで、次がチャーリー・ブラウン。コミックが好きな人はそれぞれに思い入れがあるし、それぞれ性格付けがしっかりしているので、“自分=このキャラクター”みたいなものが必ず見つけられるようになっているんです。

口が悪くて有名なルーシーや、優しいライナス、勉強が苦手だけど自由に生きているペパーミント パティや、インテリ系のマーシー…。とくにペパーミント パティとマーシーの2人の友情は、今までのキャラクターにはできない役割ができる点でシュルツさんがすごく気に入っていて、60年代後半に初登場してからは、チャーリー・ブラウンと同じくらい出てきます。

キャラクターは全部で70くらいいますが、メインは10人プラス2匹(スヌーピーとウッドストック)。あとはスヌーピーの兄弟関係ですね。ちなみに4月からスタートする展覧会では、そんなオールスターの紹介をします。今回の展覧会でスヌーピーのことがわかり、次回で『PEANUTS』の世界がすべてわかる。そんな流れになっています」

人気シャンデリアアーティストのキムソンへさんが手掛けたオリジナルのシャンデリアとソファ。スヌーピーのぬいぐるみを100体以上使って作られている。

■『PEANUTS』が伝えたいメッセージ
日本では「名言集」が発売されるなど哲学的な捉え方もされる『PEANUTS』ですが、本来シュルツ氏が届けたかったこと…それは、ちょっと落ち込んでいる人への励ましと、ハッピーを見つけるための勇気でした。

草刈「そもそも『PEANUTS』は、“コイツまた同じこと言ってる”とか“また失敗した”とか、前からの連なりで常に笑える、微熱のおかしさがあるギャグマンガ。深読みするといいことを言ってたりするけれど、シュルツさんは小難しいことを言おうとしていたわけではなくて、朝、新聞を読んだ時にクスっと笑ってもらいたいなっていうのがあって。

もちろんそれ以上の思いも込めていたとは思うけど、哲学的な部分が前に出すぎるのはちょっと違うのかなって思います。登場する子ども達を通じて、我々が日々感じたり、考えたりしていることが描かれている。特に恋の話が多くて、いろんな一方通行の恋があるけれど、絶対にうまくいかないんです(笑)。

それは、シュルツさんが結婚したかった人にプロポーズしてフラれたっていう苦い経験のせいだと言われているけれど、失恋したってしんみりすることはなくて、そこには必ず笑いもある。失恋も人生の一部だし、みんなが必ず経験していることだから、マンガを通して励ます感じですよね。

友達や親との関係とか、日常のあらゆることでちょっと悩んだとき、『PEANUTS』を読むとなぜか励まされている感じがする。劇的なことは何ひとつない。でも、子どもが言うからすごく受け入れやすくて、かつおもしろいんです。

チャーリー・ブラウンが象徴的ですけど、人生で成功することってあまりなくて、うまくいかないのが当たり前。そこでくよくよしないで、ハッピーなことを自分で見つけていこうよってね」

入場の際に配布される、その日付に掲載されたコミックが印刷されたメモリアルチケット。毎日4つの年代(4種類)の絵柄が用意されており、ランダムに配られる。

■これからのスヌーピー
2015年には映画も公開され、誕生から60年以上経った今なお発展し続けるスヌーピー。中山さんと草刈さんが思う今後の展開とは?

草刈「スヌーピーの人気は、アメリカでも日本でも高まっています。ビジネスとしてうまくいってるっていうのもあるけれど、今、求められている何かがあるんじゃないかと思います。それは大げさなことじゃなくて、自分と周囲の人のことを考えるのが大切な時代なんじゃないかっていうこと。これから、もっともっと人気が出ちゃうと思いますね」

中山「2013年に六本木ヒルズでスヌーピー展をやったときに感じたのは、笑顔の多さ。展示室を観たあとにショップ行くと、みんなの目の色が変わるんですよね。それを見て、“すごい!普段の展覧会とは違うぞ”と。アメリカにあるシュルツ美術館は、当然ながらシュルツさんの美術館。

そこは、シュルツさんが何をしてきたかを世に伝える場であるけれど、スヌーピーミュージアムは分館なので、スヌーピーの源がどうゆうものなのかをきちんと説明していく役目がある。“新聞に連載されていた”とか、“全部で18000話くらいある”とか、そうゆう基本的なことを伝えていく。

お客さんも楽しめるし、シュルツさんの奥様や本館も喜んでくれることなので、このミュージアムはとてもわかりやすい役割を担っていると思います。ここに来て初めてスヌーピーの歴史を知った人が、違う角度からもっと深いスヌーピーファンになる。そんなお客さんの期待することが、次のスヌーピーに繋がっていくんじゃないかと。

シュルツさんはお亡くなりになっていますが、スヌーピーはまだまだ進化していくと思いますね」

約400点の商品は、DVDを除いてここでしか手に入らないオリジナルグッズ。「展示されていた原画の商品を買ったり、子どもにお土産を買ってあげたり。グッズはミュージアムの楽しみのひとつですよね」と草刈さん。

■キャラクターとしてのスヌーピーの魅力
人々を惹き付ける力があるスヌーピーには、「単純に絵が好き」というファンも少なくありません。なんとなく感じるオシャレ感…その秘密は“媚びない”というキーワードにあるようです。

中山「スヌーピーは、コミックとしては大人向け。でもキャラクターとして見たときに、他のキャラクターとは媚び方が違う気がします。スヌーピーのほうから“私かわいいでしょ?”って、まったく主張しない。それは、もともとのスヌーピーの性格があってこそなんですよね。

キャラクターとして可愛くあるために描かれているわけじゃないから、作られたものとは本質が違う。だからこそ、小さな子どもが喜ぶものから、大人が可愛いと感じるものまで幅広く人気があるんじゃないかと」

草刈「たしかにスヌーピーは媚びていない。すごくシンプルで大人っぽい。それがキャラクターとしての人気を維持している秘密だと思います。スヌーピーの引き算された余白がある絵は、彼が何を考えているかを想像する余地がある。その感じが心地いいんです。日本人はやり過ぎが好きじゃないけど、かといって寂し過ぎるのも好まない。

その絶妙なところをみんなが見つけちゃったのでしょうね」

中山「細かく言うと、グッズについては描かれている絵を変えたり加工したりしないっていうライセンス上の約束を世界中で守っています。グッズを作るときにはクオリティ管理のために、すべてアメリカ本国のチェックを受けるんですよ」

草刈「商品全般でいうと、日本のクオリティはものすごく高い。大人がキャラクターグッズを持つっていう文化は、日本だけですからね。だから『PEANUTS』の仕事している大人たちは、日本の商品をすごくいいなぁって言っています」

■ミュージアムの見どころ&親子で楽しむポイント
会場の中は、大人向けでありつつもオリジナルの映像や覗き穴、展示物など、子どもが興味を持つような仕掛けが盛りだくさん!子どもと大人、それぞれが違う視点で楽しめるスヌーピーミュージアムは、子どもと出かける初めての美術館にもピッタリです。

草刈「現在開催している第2回展のテーマは「もういちど、はじめましてスヌーピー。」。スヌーピーのことをみんな知っているようで全然知らないので、なぜ作者がスヌーピーを思いついたのかとか、スヌーピーについてもっと知ってほしいと思います。

1950年のスヌーピー誕生から2000年までの代表作を原画で展示して、ハッピーダンスなど有名なシーンは映像でも紹介しています。ミュージアムの中には全部で1000くらいのスヌーピーがいますが、これは二度とない機会。スヌーピーのシャワーを浴びて、ますます好きになってもらいたいですね」

中山「あくまで美術館なので、走り回るなど他のお客さんのご迷惑になってしまうのは困りますが、高低差がなく比較的安全に作られているので、今までに事故は一度もありません。触ってはいけないものはアクリルケースに入っていますしね。

ミュージアムの来場者を見ると、小さなお子さんのいる親子連れもいますが、大人になった娘さんと一緒に来場する人も多いです。そういった意味でも、親子で来ている人の割合は、ほかの美術館より多いと思います。中には3世代で来場する方もいますし、幅広い年齢層の方が楽しめる美術館になっています」

草刈「子どもは、コミックの内容まではわからなくてもいいと思います。キャラクターとして小さな時に好きだったという記憶は、確実にすり込まれていきますから。

僕も子どもの時、家にスヌーピーのコミックが置いてあったけど、どこがおもしろいのか正直よくわからなかった。でも、愛着があればきっと馴染みのあるものになるし、ミュージアムがそのキッカケになってくれればと思います」

「ミルクセーキやパンケーキなど、観てるだけで楽しくなるメニューがいっぱいあります。テラス席は食べ物をこぼしても大丈夫なので、子連れには特にオススメです」と中山さん。

スヌーピーミュージアム
" target="_blank">www.snoopymuseum.tokyo

文/nakamura omame

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