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『VOGUE JAPAN』3月号、編集長からの手紙。

  • 2017.1.30
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「ALL THINGS ELEGANT」究極に洗練された一枚のドレスなら、それを纏うだけで、もう最高にエレガント。気高く、自由に、シンプルに。 Photo: Victor Demarchelier Stylist: Aurora Sansone
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無理せず、賢く、美しく。Easy Eleganceの恩恵。

パリコレクションの最後のショーが終わった直後、私たちヴォーグジャパンチームはいつもホテルのミーティングルームに集まります。NYから始まりパリで終わる約1カ月間、つい数時間前まで見てきたコレクションを振り返り、次のシーズンのテーマを話し合う恒例の"ファッション会議"のためです。6カ月分のテーマをディスカッションするなか、いつも、すんなりと決まるものもある一方、まとまるまで時間のかかるものもあります。

2017年の春の到来を告げる今月号のカバータイトル「EasyElegance」は長年の会議のなかでも最もEasyに全員一致で決まったテーマのひとつとなりました(p.063)。私たち自身にも、世界中の女性たちにも、今最も求められているのが「イージーなエレガンス」だと、直感的に感じられたからなのだと思います。

私たちが生きる世界の情勢は2017年に入ってさらに予測困難で不透明な状況になりつつあり、デジタル化がハイスピードで進む社会には、便利さとともに未知の複雑さも多く生まれています。さて、そんななか、忙しい現代女性をストレスから解放し、面倒なく、まとうだけでシンプルにおしゃれを楽しめる服があったとしたら、喜ばない女性はいないのではないでしょうか。それこそが、優れたデザイナーたちの腕の見せどころ、と言っても過言ではありません。

今シーズン注目されるイージー・エレガンスのお手本をファッション史の中に探すとすれば、そのひとつには1950年代のモードが浮かんできます。第二次世界大戦後に再びファッションを謳歌し始めた女性たちは、同時にかつてなく活動的にもなり、エレガンスを機能的に実現させるデザインが生まれてきました(ジーン・クレールはその代表的デザイナーにアメリカのクレア・マッカーデルの名を挙げています。p.082)。そのポイントは、美しいシルエットと控えめだけれど洗練されたディテール、そして着心地のよさ。

2017年春夏のランウェイでは、セリーヌ(CÉLINE)クロエ(CHLOÉ)ディオール(DIOR)などの多くのショーでイージー・エレガンスなルックが発表されました。それらのコレクションの多くが女性デザイナーの手によるものであることは、その表現と精神が深く結びついていることを表しているようにも感じられます。

イージー・エレガンスな精神は、ファッションだけでなくライフスタイルにも通じる生き方の表れでもあります。そこで、今号では自分のこだわりを主張しながらも賢く美しく暮らす女性たちの「整理術」を取材しました(p.104)。

アートディレクターの平林奈緒美さんの仕事場では、アイデアにあふれた収納術を拝見。工業用品やジャムの瓶など自分が好きなものから幅広く収納グッズをチョイスし、欲しいものがなければ作るという自由な発想法がポイントでした。「元の用途にこだわらず、自分が使いやすく好ましいと思うものを活用すればいい」と語ります。また、アートディレクターという仕事柄にもかかわらず「デザインがまわりにたくさんあると疲れませんか?」と語る平林さんの言葉も新鮮に響きました。それはもちろん、デザインそのものに対する否定ではなく"主張しすぎるデザイン"が"心地よさ"に勝ってしまうことへの疑問、と理解できます。

そしてもうひとつ、私の心に響いたのはこの考え方です。「本のサイズに合わせて棚を整理するときりがないので」、「先に収納の制限やルールを作って、その範囲のなかで取捨選択し、工夫すればいい」ということ。例えば、縦に入らないなら横にすればいい、というように。

まさに、これこそがイージー・エレガンスな生き方の秘訣なのではないでしょうか。

複雑な状況やあふれる情報のすべてに対応しようとせず、まずはルールを作り、自分の心地よさに耳を傾けながら取捨選択すればいい。さらに言えば、そこに知恵を絞った工夫も生まれてくる。「無理」は新しい「無理」を呼んできます。気持ちに余裕があればこそ、新しい出来事や予期せぬ事態に柔軟に対応できたり、ときにはそれを楽しむことも可能になるのでしょう。

そのためには、自分の生き方をどこかで極力シンプルに保つことが必要です。

私がこのレターを書いている今日は2017年の1月7日。松の内も終わるこの日、私にとってイージー・エレガンスの象徴でもある美しい夕日が遠くの山の端に沈みます。明日から本格始動する新しい年の過ごし方の嬉しいヒントが、少し見つかりました。
参照元:VOGUE JAPAN

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