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あの雑誌も負け組に… 各誌の命運を分ける 開催イベントとSNS展開術 MAGAZINE SURVIVES BY HOSTING EVENTS

  • 2017.1.23
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2017.01.23

大勢の人がリアルに集うパーティーという場には、ビジネスチャンスがゴロゴロと転がっている。懇談会や交流会、顧客向けパーティーなどの手法は長年行われてきたが、最近顕著にみられるのが一般消費者に向けたパーティービジネスだ。パーティー主催側が普段は味わえない非日常的な体験や場を消費者に提供し、物販やマーケティング、さらには参加者のSNS拡散による販促効果を狙ったモデルが浸透しつつある。

なかでも、そのビジネスモデルと親和性が高いのが、人気雑誌が主催する読者向けイベントだ。かつては100万部なんていう部数もざらに存在した雑誌業界もいまや低迷し、高い制作コストを支えていた広告クライアントも頭打ち。ここ十数年続く負のスパイラルに一筋の光を照らしてくれたのが、パーティーイベント事業なのだ。

フェスビジネスが支えるニッチ雑誌

当初は、媒体のプロモーション、読者還元の一環として行っていた読者向けイベントも、いまやひとつのビジネスとして確立され、その収益が柱となっている媒体も少なくない。その代表格といえば、『ロッキング・オン・ジャパン』。1985年に創刊し、日本のロックシーンを支えてきた編集長・渋谷陽一氏の功績は大きい。広告収益がなかなか見込めない音楽雑誌の世界に、当時ムーブメントが起こりつつあった音楽フェスを導入。2000年に立ち上げた「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」を皮切りに、「カウントダウン・ジャパン」など数々の音楽フェスを成功させ、いまでは「まんぱく」などのフードジャンルにも触手を伸ばす、一大イベント企業へと成長させた。

この影響もあってか、広告収益が芳しくないと言われてきた、専門誌による開催イベントも増えつつある。例えば、『Lightning』と『CLUB HARLEY』が共催し、アメカジや雑貨の即売会、車の試乗などを行う「稲妻ジャパンフェスティバル」。2012年から毎年開催し、来場者数2万人を超える実績を残しているが、発行部数から考えるとその集客力は想像を超える。その他にも、アウトドア、ランニング、ヨガ、自転車など、あらゆる専門ジャンルの媒体が、大小問わず様々なイベントを開催し、どれもなかなかの人気を博し、収益化しているのだ。

イベントは「見る」「知る」から「買う」が主題に

しかし、雑誌パーティーの花形といえば、やはりファッション誌。特に赤文字系といわれるキャンパス誌は、2000年代から盛んになった専属モデルのタレント化で、雑誌の売れ行きと共に、イベントの盛り上がりも活況を見せた。特に、蛯原友里、山田優、押切もえが活躍した時代の『CanCam』の独走ぶりは凄まじく、バブルの再来かと思えるほどの栄華を誇っていたが、その祭りもいまや終焉。現在の勝ち組といえば、トリンドル玲奈、マギー、河北麻友子を専属モデルに抱える『ViVi』だ。今年10月に開催された「ViVi Night TOKYO」は、ViViモデルズによるファションショーをはじめ、ぺこ&りゅうちぇるやトレンディエンジェルが出演し、各種メディアでも話題となった。一方、『CanCam』は2015年に行った『AneCan』、『Oggi』、『Domani』との合同ファッションショー以来、タイアップイベントがほとんどで、出版社単独の大きなイベントは行っていない。この差を生んだのは、専属モデルの人気格差だけなのか。公式WEBサイトやSNSを探ってみると、違う理由も見えてきた。

『ViVi』の公式WEBサイトはキュレーション・サイト風の作りで、独自の記事やニュースを掲載。ViViモデルズの他に、「ViVigirl」なる公認インフルエンサーも抱え、読者目線での情報配信に余念がない。かたや『CanCam』のサイトは、本誌の次号告知、タイアップ記事でほぼ構成。会員特典をつけたファンクラブへの加入ページなど、従来の出版社にありがちな上から目線の作りで、二十歳前後の女性たちにリーチしにくいのが如実にわかる。

この現象はティーン雑誌にも同様に見られるが、基軸はWEBサイトではなくSNSだ。人気モデル・藤田ニコルらを抱える『Popteen』は、WEBサイトはかなり簡素だがTwitterのフォロワー数は249,135(2017/1/20現在)。一方、老舗ティーン誌『Seventeen』は、WEBサイトは独自のコンテンツを配信し頑張っているが、Twitterのフォロワー数は161,441(2017/1/20現在)と、『Popteen』にはとうてい及ばず、内容もビジネスライクな側面が垣間見えてしまう。こうしたSNSによる販促力が、読者イベントの回数、集客力や盛り上がりにも比例しているようだ。

これらファッション誌系のイベントでは、協賛各社のブースが展開され、サンプリング、キャッチ&トライという商品を「見る」「知る」ということに販促効果とそれにともなう協賛費という収益を見込んでいた。しかし、昨今ではTGCの影響もあり、観客たちがショーを見ながら、すぐにスマートフォンで商品を購入できるというEC直結のスタイルが主流となり、その収益性はかつてないものとなりつつある。
この「買う」という行為を大々的に主軸とし大成功を収めているのが、VOGUEが仕掛ける世界最大級のショッピング・イベント「VOGUE FASHION’S NIGHT OUT」。毎年30万人近い集客を生み、表参道エリアの一大イベントとなっていると同時に、出版社に巨額の収益をもたらしているのだ。

パーティーに潜む雑誌のホンネ

この出版社のイベントビジネスへの本格的な参入は、若者向け雑誌に限った話ではない。『週刊ダイヤモンド』や『東洋経済』、『Forbes JAPAN』、『WIRED』といったビジネス誌の世界では、経営者やビジネスマンをターゲットとしたセミナーを開催。著名な経営者や専門家を招くトークセッションやワークショップ、懇親会など、ビジネスにおける出会いやチャンスを求める読者層の温度も高めなこともあり、参加費も数万円からお高いものだと10万円をくだらないイベントまで存在するのだ。

世の中のデジタル化が進む中で、出版社の対応は遅れがちと言われてきて久しいが、ここにきて各社にデジタルデバイドが生まれている背景には、イベント参入の有無が関与しているように見受けられる。雑誌の読者というこれまで姿の見えなかった顧客をデジタル上で囲い込み、リアルなイベントでさらに収益を上げることが、雑誌、広告の収益減を補う第三の柱として、彼らの生命線になりつつあるのだ。
とはいえ、雑誌イベントの収益化は、読者ニーズとフィットしていてこそ。これまで以上により読者に喜ばれる、参加者にメリットのある企画が増えている傾向はある。参加する私たちは雑誌パーティーという華やかそうなワードに踊らされるのではなく、内容をしっかりと吟味して上手く利用するのが得策だろう。(Text:Y)
(Illustration:ナガシマアヤカ)

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