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O型と穴開けパンチ 【彼氏の顔が覚えられません 第4話】

  • 2014.12.4
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心理学で配られたプリント。夜、部屋の中。ベッドの上に寝転がって眺めてる。

O型は合理的で根気に欠ける。A型は積極的で単純。B型は安定志向で型にはまり気味。AB型は革新的でマイペース。どれもよく聞くようなことが書かれてる。

その日の授業は、血液型別の性格分析かと思ったら、違った。

「いま、みなさんの中から『わかるわかるー』なんて声も聞こえましたが、ここに書かれていることはデタラメです」

プロジェクターでスクリーンに映し出されたプリントに、先生は赤ペンで修正を入れる。OをABに、AをOに、BをAに、ABをBに。

「バラバラに入れ替えていたのに、誰も疑問を持ちませんでした。厳密なところには何も触れず、誰にでも当てはまるようにしか書かれていないから。血液型での性格分けなんて、その程度です」

ハッとした。なるほど、確かに。今までかたくなに天動説を信じてたのに、ロケットでいきなり宇宙まで飛ばされた気分。「ね? 丸かったでしょ、地球」みたいな。じっさい目で見せられたら、素直に自分の間違いを認めるほかない。

だけどカズヤは、隣で寝てた。「授業終わったらノート写さして」って言って。

「だって俺、B型だから」

授業後の、カズヤのセリフ。聞いて、やれやれ、ってつぶやきたくなった。

B型だから、なんだっての。自分は寛大だ、って? 私も「O型の典型だね」ってよく言われる。理由は「よく人の顔を忘れるくらい、大ざっぱだから」。忘れるんじゃない、覚えられないのだ。

いつもそうやって、O型だからと差別されてきた。…なんて、大げさ? でもまぁ、そんな素朴な悩みさえ、これからは持たなくていい。そう思えば、ちょっとは楽かな。ただでさえ、私の生活にはストレスが多すぎる。

ベッドから起きる。机まで向かい、引き出しを開ける。目的のものはなく、閉める。穴開けパンチ、どこ置いたっけ。テレビの下のキャビネットの引き出し。ない、ここにも。

うーん。

あ、思い出した。

カバンの中。いつも家で穴開けるのメンドクサイから、持ってってたんだ。結局、忘れてちゃ意味ないな。「イズミって、マメだね」カズヤからそう言ってほしかったのに。まったく、自分自身にやれやれ。

プリントに、パチン、パンチ穴を開る。本棚の「心理学」って書いてるフォルダにファイリングする。で、パンチを机の引き出しにしまう。ん、完璧。

さて、お風呂にしよ。そう思って、床を見渡す。パンツやら、スウェットやら、洗濯して取り込んだやつと、ただ脱ぎ捨ててそのままのやつが散らばってる。雑誌とか、ピザ屋のチラシとか、本棚からあふれた文庫本なんかも。

バスタオルはどこかしら。

なんて思ってると、ケータイが鳴る。LINEメッセージを受信する音。

「今からサークル飲みの二次会。終電逃すー。たのむ家泊めて」

カズヤから。すぐに返事を送る。

「ごめんムリ」

今はまだそんな段階じゃない。つまりその、二重のイミで。

(つづく)

(平原 学)

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