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再就職ママが餌食に? やりがいを搾取するブラック企業の実態と注意点

  • 2017.1.3
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こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。

今回は、子育ても一段落して「そろそろまた働いてみようかな」と考えていらっしゃるママのみなさんへ、「やりがいの搾取を目論んでいるブラック企業にご注意を」というお話です。

「時給は安いがパティシエへの道が開けるかも」といったうたい文句でアルバイトのスタッフをこき使う洋菓子店。

「お年寄りから“ありがとう”と言われたときの喜びはお金なんかに代えられません」というフレーズで低賃金のケアスタッフを募集する介護事業者。

都内でメンタルクリニックを開院する精神科医のT先生(50代女性)は、『やりがいという人間なら誰もが持っている自己実現欲求に巧みに付け入って、少ない報酬で労働力を搾取することは犯罪行為に等しい』と警鐘を鳴らしています。

●“やりがいの搾取”って何?

そもそも“やりがいの搾取”とは何でしょうか。

“やりがいの搾取”とは、今から10年ほど前に教育社会学者の本田由紀先生が提唱した概念で、人間が誰でも持っている「生きがい」や「やりがい」といった自己実現への欲求を利用して勤労者を低報酬でとことん働かせる企業運営の仕組みや構造のことを指します。

最近話題になった例でお話ししますと、2016年の11月に全日本教職員組合(全教)が発表したアンケート調査の結果で、全国の公立小中学校の図書館で非正規で働く司書の人の半数以上(52%)が年収100万円に満たない ことがわかりました。

司書の資格を取る人は本が好きで子どもの世話をするのが好きな傾向があるため、司書として働くことができているというそれだけで「やりがい」「生きがい」を感じる場合が多いのです。

非正規とはいっても司書である以上する仕事は正職員の司書とほとんど同じですし、拘束時間にしても正職員の司書と比べて極端に短いわけではありません。

それなのに年収が100万円にも満たない。

これではいくら仕事にやりがいを感じているとはいっても、それでもって自立した生活を営むための職業とはなりえません。

●子育て卒業再就職ママにとっても無関係の話ではありません

「別に、わたしの収入だけで生活していこうってわけじゃないし」「生活設計はあくまでも夫の収入がベース。わたしがまた働こうと思う理由は、子どもが手を離れたことでできた時間を使って自分の自由になるお小遣い程度のお金だけでも稼ごうかなって思ったから」。

ほとんどの子育て卒業再就活ママさんは、このようにおっしゃるでしょう。その通りだと思います。

ただ、みなさんにとっても“やりがいの搾取を狙ってくるブラックバイト先”というものは決っして無縁ではないことだけは記憶しておきましょう。

少し前ですが、“ポエム居酒屋”というものがマスコミでも話題に上りました。

「お金なんか二の次。大切なのはやりがいだ!」などと書かれたポエムともいえないような詩を店長が自ら掲げて、アルバイトの学生や主婦の人たちに唱和させるという、見ようによっては異様な光景ともいえる朝礼・夕礼を実践している居酒屋チェーンの話題です。

知名度があり職場環境もまずまず衛生的な会社なので、30代から40代くらいの子育て卒業ママもアルバイトとして数多くの人が働いていました。

ところがこの会社、店長が「○○さんの笑顔を待っているお客様がこれから来店するのだから、あと1時間頼むね」などと、主婦や学生のアルバイトの人たちに退勤のタイムカードをスキャンした後の残業を強要 し、多額の未払い賃金を抱えていたのです。

有名企業だしお客さんたちとのコミュニケーションも楽しいと感じて“やりがい”を持って働いていたママさんたちは、騙されてしまったわけです。

●やりがいの搾取は精神科医の立場から見ると“悪質な詐欺”

前述した精神科医のT先生は次のようにおっしゃっています。

『やりがいの搾取は、自己のアイデンティティーを確認したいという、人間が本来持っている基本的な欲求に付け入っているため、わたしたち精神科医の立場から見ると“悪質な詐欺”行為であると断言せざるをえません』(50代女性/前出・精神科医)

T先生によると、やりがい搾取の被害に遭ったという趣旨の訴えでクリニックに来院した患者さんに比較的多い職種として、塾の講師、不動産関連の会社の営業ならびに事務職、介護関連職、居酒屋やファミリーレストランのアルバイト店員などが挙げられるということです。

筆者自身の体験から申し上げますと、医療関連職は医師や看護師さん以外はやりがいの搾取に遭いやすいですし、小売業・卸売業などの物品販売業も縮小社会となったわが国の国内市場に限定すれば、やりがいの搾取に遭いやすいといえます。

また、商業デザインやアクセサリー製作、キャッチコピー・ライティングのようなクリエイティブ系の仕事を「自宅に居ながらネットで手軽にできます」のような触れ込みで募る形式の事業所のなかにも、「やりがいがあるのだから報酬が少々安くても仕方ないでしょう」的な運営姿勢の企業がときどき見られますので、子育て卒業再就活ママのみなさんにはぜひとも気をつけていただきたいと思います。

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)
●モデル/倉本麻貴(和くん)

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