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『ラ・ラ・ランド』はオスカー戦線を走り抜くことができるか? 米在住ライターによる5つの考察

  • 2017.1.1
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12月25日のクリスマス・デーに伝えられたジョージ・マイケルの突然の訃報は、今年のオスカー戦線における『ラ・ラ・ランド』快進撃のストッパーとなってしまうかもしれない。オスカーのフロントランナー『ラ・ラ・ランド』はこのまま1月5日のアカデミー会員投票日まで突進し続けるだろうか、それともーー。

『ラ・ラ・ランド』は、昨年のアカデミー賞で3冠に輝いた『セッション』のデイミアン・チャゼル監督の最新作で、女優志望のミア(エマ・ストーン)とジャズ・ピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)が夢を追うロサンゼルスの恋人を演じている。12月8日にニューヨークの2劇場とロサンゼルスの3劇場で限定公開され、16日に全米200館に拡大、25日には更に全米734館に超拡大公開された。12月26日付のボックスオフィスでは、興行収入1,758万ドル(約20億円)を突破している。この夏のベネチア国際映画祭から始まったプレスの『ラ・ラ・ランド』賞賛モードも、12月の放送映画批評家協会賞で作品賞・監督賞を含む8冠、年明けに行われるゴールデングローブ賞の最多7部門ノミネートで一息ついたところだ。現時点でオスカーのフロントランナーと言われている『ラ・ラ・ランド』は、このまま2月26日のアカデミー賞授賞式まで逃げ切るだろうと予想する。その理由は5つある。

■1.映画の都ロサンゼルスに愛されている

タイトルの『ラ・ラ・ランド(La La Land)』 はロサンゼルスの別名。プレミアに出席したロサンゼルス市長のエリック・ガルセッティは「この映画以上の観光パンフレットはないね。60カ所以上でロケが行われ、ロサンゼルスは映画スターだけでなく、ロマンスが生まれる街でもあることを示してくれた。映画のためならいつだってフリーウェイを閉鎖するよ!」と語った。オープニングで使われているフリーウェイだけでなく、そのほかのロケ地もロサンゼルス市民にとって馴染み深いところばかりで、アンジェリーノ(ロサンゼルス市民)に愛される映画となっている。アカデミー賞投票権を持つアカデミー会員の多くがロサンゼルス在住映画関係者であることから、地元票の獲得が見込まれる。

ちなみにミアとセバスチャンのデートシーンで使われているエンジェル・フライトは、施設だけが残っており2013年より運行中止。このエンジェル・フライトは、同じくロサンゼルスを舞台にした『(500)日のサマー』でトムとサマーが愛と現実を語る丘の横を走っている。

■2.映画業界人に愛されている

『ラ・ラ・ランド』は各映画祭でお披露目されるとともに批評家が絶賛評を書き始め、オスカー予想の定番であるトロント映画祭の観客賞も受賞した。映画批評サイトRotten Tomatoesにおける『ラ・ラ・ランド』のトマトメーター(おすすめ度)は93%と上々。ちなみに、過去のオスカー受賞作のトマトメーターは、2016年(第88回)『スポットライト 世紀のスクープ』(96%)、2015年(第87回)『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(91%)、2014年(第86回)『それでも夜は明ける』(96%)、2013年(第85回)『アルゴ』(96%)。ただし、トマトメーターだけで言うと対抗作の『Moonlight』が98%、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が97%と高評価を得ているところが気掛かり……。

■3.観客にも愛されている

近年のアカデミー賞作品賞受賞作は、史実や実在する人物を元にした作品が多く、常にどこか政治的背景がつきまとう。これは、娯楽作として生を受けた映画が、世の移り変わりとともに、世相を反映する鏡(もしくは、社会にアンチテーゼを突きつける媒介)としての役割を担い始めたことに所以する。それらの作品は、高い志に基づいて作られた映画であるし、世に疑問を投げかけることは映画の使命でもある。だが、正直、「いい映画だけど二度と観たくない」と感じることも少なくない。この『ラ・ラ・ランド』には、芸術を志す者の葛藤やビジネスとアートの折り合いといった業界政治的な側面も含んでいるが、表面上は普遍的なボーイ・ミーツ・ガール物語で、誰もが頭を使わずに楽しむことができる。なにより、鑑賞中から幸福感に満ち溢れ、映画館で映画を観る行為を特別な体験に変える。過去のオスカー受賞作と真逆で、SNSには「映画が終わってすぐにまた観たくなった」「リピ決定」といった反応が溢れ、近年稀に見る批評家と観客の率直な感想が乖離していない作品となった。

また、アメリカ映画協会によるレイティングは「PG-13」(13歳以下は保護者の同意を推奨)で、際どい暴力描写や性描写や言葉の暴力もなく、家族みんなで観られる映画ということも高評価につながっている。

■4.トム・ハンクスにも愛されている

北米プレミアが行われたテルライド映画祭にて。同じく映画祭で上映されたクリント・イーストウッド監督の『ハドソン川の奇跡』に主演したトム・ハンクスは記者会見で、自身の主演作を先置いて『ラ・ラ・ランド』を激賞した。「誰も知らない歌を歌うミュージカルなんて、スタジオが絶対作りたくない作品だよ。今の映画界のトレンドでは、すでに知名度の高い原作の映画化や続編ばかり作られているのだから。でも、僕ら映画製作者は、『今まで観たことのない映画を観たい』と願う観客の視点に立ち返って考えなくては。大手スタジオが望むものが何もない『ラ・ラ・ランド』が興行的成功を納めるかどうかはチャレンジだね。だけど、こんな素晴らしい映画が受け入れられなかったら、僕らはもう終わったも同然だ」

アカデミー賞主演男優賞を二度受賞しているトム・ハンクスであっても、1票の投票権しか持たない。だが、彼の発言は今の映画界を如実に表している上に、劇中でライアン・ゴズリングが演じたジャズ・ミュージシャンのセバスチャンがもがく悩みと同じだ。この発言は、多くのアカデミー賞会員の襟を正すことだろう。

この賞賛発言から4ヶ月後、デイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングは、映画館でのQ&Aセッションでこう語った。

「僕らはセットでずっとトム・ハンクスの話をしていたからね」(ゴズリング)
「(ハンクスの初監督作)『すべてをあなたに』は音楽映画では珍しく、ジャズ・ドラマーを主人公にした作品だったから」(チャゼル)

そして、30年前にミュージシャンを目指す若者の青春物語である『すべてをあなたに』で主演デビューを飾ったトム・エヴェレット・スコットが、『ラ・ラ・ランド』においてある重要な役で出演している。

■5.2016年のアメリカに必要とされている!

そもそも、2016年はアメリカにとって辛すぎる現実をつきつけられた年だった。昨年11月の大統領選以来、まるで死刑執行を待つ罪人のような面持ちで1月の大統領就任を迎えようとしている。『ムーンライト』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も素晴らしい作品であることは間違いないが、労働者階級の辛い現実を映画館でも見せつけられてしまうと、アメリカ人の心の拠り所が失われてしまう。せめて、映画館では楽しく美しい夢を観させて欲しいと願う気持ちが、『ラ・ラ・ランド』のアカデミー賞受賞への道を推し進めていくことだろう。

少し心配することがあるとすると、12月25日に流れたジョージ・マイケルの訃報によって、劇中の微笑ましいシーンに別の意味合いが生まれてしまうこと。これだけは誰も予想できなかった。幸せなミュージカルの世界から現実へと引き戻されてしまう感覚は、『ラ・ラ・ランド』のオスカーへの道を阻んでしまうかもしれない。2016年のアメリカは、それほどまでに夢のような映画への現実逃避を欲している。(小川詩子)