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手ぬぐい押し小学生の型破りなクリスマス【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第7話】

  • 2016.12.27
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夫と妻、二人家族の友人に、おたくは毎年どんなクリスマスを過ごすんですかと尋ねると「カニを食いながら映画を観る」という思いがけない答えが返ってきた。映画は、一般にクリスマス映画には分類されていないけれど実はクリスマスにまつわる映画、という線で毎年チョイスするそう。

なんだかすごくいいなぁと思った。鶏肉を焼くとか、ケーキを食べるとか、竹内まりやを流すとか。これさえやっておけば合格、というような、世に溢れるクリスマスからは大きく道を外れていても、独特であればあるほど、それが成立する関係性の背後には、二人だけの、重厚な時間の蓄積がある。

「うちのクリスマス、毎年決まってシシャモを食べるんだよ」とか、子どもたちが大人になったとき小話の一つにでもなるようなクリスマスの慣習を私も作りたい。友人夫婦の過ごし方にそこはかとないロマンを感じながら、やっぱり今年も鶏肉を焼き、チョコレートケーキをこしらえ、マッシュポテトを練った。コテコテである。

世の中にはクリエイティブな人とそうでない人がいるが、こうして例年、コテコテから抜け出せない私は圧倒的に後者である。クリエイティブな人たちというのは先にあげた友人のように、他の人には見えない文脈に気づいて、具現化したり、実行したりして、価値を与えることができる。型にはまらないやり方を選ぶ。

そういう意味で、親の私が言うのもなんだが娘・夢見はかなりクリエイティブな方なのである。先日、クラスの友人たちが集まるクリスマス会に参加することになった夢見。集まった子ども同士で交換するプレゼントを持っていく必要があるというので、「どこに買いにいく?」と尋ねると、迷いのない表情で「手ぬぐい屋」と答えた。「手ぬぐい屋……?」念のため再度聞き返すと、「そう」と。

確かに夢見は昔から和柄や和小物が大好きなのであって、ついでに自分のプレゼントも買ってもらう魂胆らしい。うちでは一昨年、届いたプレゼントの包装から“サンタクロース=Amazon説”が持ち上がり、疑われたことに怒ったのか、以降サンタさんはやって来ず、プレゼントは親が買い与えることとなったのだ。

……自分のプレゼントにはまあ好きなものを選べば良いけども、同級生にあげるプレゼントの方はせめて、サンリオショップとか、イオンの文房具屋とか、最大公約数を選ぶべきでは。そんな苦言が喉元まで出かかって、でもぐっとこらえる。「まんだらけ」とは言わないだけ、彼女なりに相手のことを考えているのだ。夢見の希望通り、手ぬぐい屋に向かった。

店に入った瞬間、夢見はぱっと顔を輝かせた。興奮気味にあれこれ手に取りながら、「どの柄もよくて決められな~い!」と悲鳴をあげる。

そこで私は、とりあえず近くにあった鳥の柄が描かれているものを指して「これなんかどう?」と尋ねる。すると「だめだよ、百舌は秋の鳥でしょ」と一蹴。……最近では夢見の方が教養がある。もう何も言うまいと黙って見守っていると、「うわーかわいい!これどうかな?!」とついに声をあげた夢見。自信満々に掲げて見せてきたのは、まさかの鳥獣戯画柄であった。

「あ、あのね夢見、プレゼント交換って言ったらみんな、光るペンとか、匂いのするローラー消しゴムとか買ってくるんじゃないの? あなたの趣味は決して悪くない。悪くないんだけど、プレゼントに鳥獣戯画で、本当にいいの?」

個性は尊重したいと思う一方で、夢見からのプレゼントを開けた瞬間の友人の顔と、それの顔を見せつけられる夢見の心境を思うと、つい余計な口を挟んでしまう。その後も、竹柄や唐草模様など、なぜあえてそれを、というセレクトを繰り返す夢見。「私には一般的な感覚が分からない」と渋い顔で言いながらじっくり小一時間、狭い店内を吟味した結果、最終的には紅白梅の鮮やかな一枚に決まった。お正月使いと普段使い両方が可能である。

「手ぬぐいほど汎用性の高いプレゼントってないと思うの」と夢見は自信満々だ。

封を開けた瞬間に鳥獣戯画、ドーン!とかでない分少しは喜んでもらえるだろうと思う一方、手ぬぐいという品そのものが夢見の同世代女子にどんなインパクトを与えるのか。親心にやきもきしながら迎えたクリスマス会当日、事態は思わぬ展開を迎えたのである。

夢見の選んだ手ぬぐいは偶然にも、特に夢見と仲の良い友人Aちゃんの手に渡った。ところがなんとAちゃんが、それと全く同じ手ぬぐいをすでに自宅に持っていることが判明。それならと、夢見に回ってきたプレゼントとAちゃんのプレゼントを交換し……結果として手ぬぐいは、夢見に返ってきたのである。

予想していたどんな展開とも違う結末ではあったけれど、それでも、少なくとも私と夢見にとっては、最高のハッピーエンドだったと言って間違いない。だって、平成のこの時代に、夢見のほかにももう一人、クラスに手ぬぐいを常用する子どもがいることがわかって、しかもその子はほかでもない、夢見の親友なのである。これを奇跡と呼ばずして何と呼ぶというのか。

腐女子で、歴史オタクで、和柄好き。普段なかなか同世代の子たちと分かり合えない夢見だが、どこにあるのか分からない“普通”を漠然と迎合することなく、いつだって自分の感性に正直でいると、ふいにこんな幸せなサプライズな幸せが訪れたりするのだ。

型にはまらないからこそ出会える人がいて、型にはまらないからこそ味わえる体験がある。夢見を見習って、私ももうちょっと堂々とはみ出していこうという気持ちを新たにした、そんなクリスマスなのであった。

イラスト ハイジ
(紫原明子)

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