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音楽一家 【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第2話】

  • 2014.12.2
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桃香は小さい頃から父親の影響でジャクソン5やMotownサウンド、アメリカンPOPを聴いて育った。

母親は趣味でジャズピアノを弾いていたので、ひと通り音楽の基本は教えてくれた。桃香は小さい頃、日常で起こったことをピアノに合わせて歌うのが日課だった。

「きょうのおやつはケーキだよ。小人と一緒に小さなスプーンでゆっくーり食べようね」

というような即興歌を小さい指で鍵盤を叩いて歌い、周りを楽しませた。父と母が桃香が歌うたびにハグして喜んでくれたせいか、歌手になりたいという小さな夢を持ったのもこの頃だ。高校時代はアメリカンPOPサークルに参加し、メンバー達とコピーバンドを結成した。

先輩に連れて行かれたライブハウスで自分が作った歌を歌った時、音楽関係のプロデューサーに声をかけられ、ちょっとハッピーなことが起こった。プロデューサーと組んで仮歌でCD制作に加わるチャンスをもらったのだ。それ以降、若手のプロデューサー達からアルバム造りのたびに声をかけられるようになった。

恵まれた音楽環境の中で、いつかデビューしたいという夢が膨らみ続けた。大学に入ってからは月3回ボーカルスクールに通い、歌を習っている。自分の部屋にいる時は音楽を聴くか歌を歌うかのどちらかだ。たまに大きな声でサビを歌い、階下に居る母親の美里から注意を受ける。

「ママー、ママだって、若いときはおうちでピアノ弾いて、おばあちゃんにうるさいって言われてたんじゃないの」

「そうね、そうだったわ。でも、今はお隣さんが近いから、そこはご配慮しなくちゃね」

「私が売れたら、お隣さんも花束持ってくるって」

桃香は音楽があふれる家で天真爛漫に育っていた。

1年前の春から働き始めた会社は横浜にある音楽機器の会社。音楽好きの社員ばかり働いているので常に音楽に触れていられる。定時で終わる日と土日のボーカルレッスンの後は必ず自由が丘に遊びに来ることにしている。

同僚の鮎子は「せっかく自宅が横浜にあるんだから横浜で遊べばいいじゃない。わざわざガオカに出かけなくても」とことあるごとに言う。

そう合理的に割り切れるものではない、自分にとって自由が丘が第2のホームタウンなんだ、この街にいるとうきうきするし、いやなことを忘れる。創作意欲も湧く。「感じいいモノ」が無数にある、その「感じいいモノ」を歌にすると、自分まで感じよくなる。そう信じていた。

(続く)

(二松まゆみ)

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