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心理学とユニフォーム 【彼氏の顔が覚えられません 第3話】

  • 2014.11.27
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「そっかぁ、イズミって、メガネかけてるだけでわかんなくなるんだ」

カズヤは言う。ふたり、同じ授業のあと。心理学。

「かけてても、かけてなくてもわかんないよ。私、人の顔覚えられないから」

「うっそ、マジ? じゃあ、俺の顔も?」

「だから、さっきからそう言ってんじゃん」

「ははは、ひでぇな、それ」

笑った。たぶん、カズヤってば信じてない。べつにいいけど。「おまえ、サイテーだな」ってののしられるよりはマシ。今までそうだったから。

恋なんて、する前から終わってきた。クラスの女の子に、「○○くんって、カッコイイよね」なんて言われるたび、わたしには○○君の顔が思い出せなくて(それ以前に、目の前にいるクラスメイトの子の顔すら認識できなくて)。カッコイイとか、一目惚れするとか、ぜんぜんイミわかんなくて。

でも、私に恋はムリだなって、決定的だったのが高校のとき。帰り道でいつも一緒になる男子がいた。野球部の子。ユニフォームに、大きく「川上」って名前が書いてあった。無口で、他の男子に連れられながら、

「こいつ、ヤマナシと一緒に帰りたいんだって」

そう紹介されたときに、体はたくましいのに、恥ずかしそうにうつむく姿が小さな男の子みたいで、かわいくて。

顔は覚えられないけど、いい人だな、せめて名前だけは覚えよう。何日も続いたあとで、ちゃんと感謝の言葉を言わなきゃって思って。

「えと、カワカミくん、だよね。いつも一緒に帰ってくれて、ありがと」

って、あるときそう言ったら、

「おまえ、マジで俺のこと、カワカミだって思ってたの?」

……え、どういうこと?

そう思ってるうちに、彼はため息混じりに、ユニフォームをつかみながら、ネタバラシを始めて。

「これ、カワカミから借りただけ。俺はアサクラ。で、昨日おまえと帰ったのは、タケダ」

「それって、つまり?」

「おまえ、からかわれてたんだよ、俺たちに」

……そっか。

全員野球部で、見た目もあんまり変わらなかったし。声を出さないで、ユニフォームが同じだったら、私、まったく気付かないんだ。

からかわれてたってわかっても、そういうことを思いつく彼らの発想が、面白いなって、感動さえしたのに。

「すぐ気付くと思ってたけど。さすがに、あきれた。おまえ、いいかげんイタイよ」

そんな風に、カワカミ君のユニフォームを着たアサクラ君に言われて初めて、ああ、私ってば、最低なんだなって。

顔覚えられないのって、ホントに「イタイ」んだ、私。このままじゃ、男の子と恋する権利もないんだな。そんなことさえ思えて。

なのに今じゃ、カズヤが隣にいて。

「カズヤって、怒んないよね」

「え……なにが?」

ノートと教科書を、カバンの中にしまいながら、カズヤは言う。

「いや、だって、さっき私、カズヤのこと気付かなかったのに、怒んなかったじゃん」

「ああ、だって俺、B型だから」

ケロッ、と。

こともなげに言って。

(つづく)

(平原 学)

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