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「怒られずに済んだ」という成功体験をつくらない【『みんなの学校』流 親子関係のつくり方 第3回】

  • 2016.11.9
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トラブル発生、親としてわが子にどう向き合うか

「間違ったらやり直せばいい」と、親が言えるか? の続きです。

子どもがトラブルを起こしたとき、「『うちの子が何をどう思って、その行為をしたのか?』ということを親がきちんと理解していない限り、子どもは『やり直し』ができない」と木村先生は言う。では、そんなとき、親はどうしたら良いのだろうか?

© Olesia Bilkei - Fotolia.com

■大なり小なり、悪いことをするのが子ども

―― 先生は、トラブルを起こした子どもに対処する際、「トラブル行為そのものを叱っても意味がない」とおっしゃっていますが、それはどうしてですか?

木村先生(以下、木村):だって「自分が一番悪い」っていうのは、本人が知っているから。三歳児でも「人の物は、とったらあかん」ってわかるよ。

とったらあかんってわかっているけれども、とる。「やったら、あかん」とわかっているのに、やってしまう。そうすると、大人は「やったらあかん!」って叱るでしょ。そうなると子どもは「大人の怒りからどうやって逃れるか?」しか考えないじゃないですか。

―― たしかにそうですね。

木村:そこに強者(親)と弱者(子ども)の関係が生まれる。でも、このときに親と子どもが対等な関係でおれたら、子どもは素直に、「なぜ自分は、それをしてしまったか?」を考えようとする。

ここで必要なのは、「悪いことをわからせる」ということを「教える大人 VS 叱られる子ども」という図式にしないこと。これでは対等じゃないでしょ? 親が一方的に教えるだけだから。

―― でも、親としては悪いことをした子どもを前に「なぜそれをしたのか考えてごらん」なんて言えるような心持ちには、とてもとても、なれません。

木村:子どもは本来、叩いたり、蹴ったり、わめいたり、物を壊したりするものなんですよ。それが、本来の子どもの姿。そういう部分は、どの子にも大なり小なりあるんです。問題になる子とならない子の違いは、それがバレるかバレへんか、ただそれだけのことです。

子どもは、いろいろな問題を経験しながら、だんだん大人になる。だから、そういうことを経験しないで大人になった子は、つまづくことが多いと思います。

■「悪いこと」を封じ込めても、子どもは育たない

―― 「悪いこと」を封じ込めるだけだと、大人になって爆発した時が怖い?

木村:もちろん、もちろん。そういうこともあるし、むしろ「悪いことを隠せた」ということが、その子にとっては成功体験となってしまう。

―― どういう意味ですか?

木村:悪いことを隠すことができれば、「悪いことをしても、うまく隠せれば怒られないで済む」という成功体験になるじゃないですか。

子どもは、というか人間は、成功体験を得たら、次に必ずまたそれを使います。そうなったら、「自分がやった悪いことを、いかにバレないで、この場を切り抜けるか?」ということばかりを考えるようになる。そうすると、「本来の自分を高めることができない」というところに、確実につながります。

―― それは本当に怖いですね。

木村:それを防ぐためには、親自身が「子どもがトラブルを起こすのは、当然あることだ」というスタートラインに立てていないと。今、そのスタートラインに立てている親は少ないですよね。なぜなら、子どもがトラブルを起こすと、親が困るから。

■親は、「自分が困らないように」を中心に対処をする

―― 親(自分)が困る。たしかに、本当にそれしか考えていないかもしれません(汗)。

木村:それは親だけでなく、教員も一緒です。子どもにトラブルがあったら、教員が困る。困らないようにするにはどうしたらいいか。そこしか考えていないんです。親も教員も同じ。本当は「いちばん困っているのは子ども」やのに…。教員や親は「自分が困らないように」ということで、トラブルの対処をするでしょう?

―― それだけしか考えていませんね。

木村:「とにかく謝りなさい!」と言って、「だって俺な…」なんて子どもが言い出そうものなら、「言い訳しない! まだ反省していないの!」と言う。

―― 映画『みんなの学校』の中で、子どもたちがトラブルを起こしたとき、木村先生のところに相談に行く場面が出てきますが…

木村:ベテラン教員に、こんなふうに聞かれたことがあります。「(ベテラン教員の)私には子どもは絶対に心を開かないのに、校長には1秒で心を開く。私と校長の違いは何や?」と。

―― それ、私も聞きたいです!

木村:子どもに対して自分、つまり大人が「対等な人間として存在しているか」ということです。その違いだけ。

大人は、どうしても子どもより上の立場から物事を考えて「反省させないとあかん」と思ってしまうでしょ。そうなると、子どもは「悪いことをした。今から大人に怒られる」と心が委縮して、心を開くどころの話ではないんです。

■一番困っているのは、その子自身

―― 本当にそうですね。

木村:でも私も、その考えにたどり着くまで、教員時代、失敗を山ほどしてきています。何度も何度も、何度も失敗して「子どもが困った状況」を、それはもうたくさん作ってきました。そこから私は学んだんです。言うてみれば、「やり直し」の人生ですよ。

あのときに困らせてしまった子どもに対して、私は「ごめんね」しか言えない。けれども、少なくとも、その子が困ったことで、私がやり直しをさせてもらった。

だから、自分が今、目の前にいる子どもには、そこから学んだことを持って関わろうと思う。ただ、それだけのこと。どんなに大きな悪さをしようと、いつも一番困っているのは、子ども。親でも先生でもない。そこを忘れたら、絶対にあかんと思います。

■今回取材にご協力いただいた木村泰子先生の著書

『大人がいつも子どもに寄り添い、子どもに学ぶ!

「みんなの学校」流 自ら学ぶ子の育て方』

(木村泰子・著/小学館 本体1,500円+税)

(楢戸ひかる)

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