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髪には欠かせない日本の伝統! ヘアメイクアーティストが案内する素敵な「つげ櫛」の世界

  • 2014.11.19
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新しいものが生まれては消えていき、毎日のように情報がアップデートされる現在。特に美容やファッションの分野に関しては、少し前に「新しい」と言われてたことが、今では「古い」と言われるなど、トレンドの変わりいくスピードがとてつもなく早い気がします。

もちろん、仕事を通してトレンドを切り取っていくのが僕の仕事ではあるのですが、一方で流行り廃りに左右されない、本当に「イイモノ」を追究していきたいと感じる日々です。

取材+文:Tomoyuki Iwashita

今回は誰でも持っている、髪にはかかせない道具「櫛(くし)」、その中でも髪へのこだわりが強い日本人が愛して止まない「つげ櫛」を紹介したいと思います。

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今はプラスチック製が主流ですが、日本髪には欠かせなかった道具が「つげ櫛」。僕も用途に合わせて5本所持しています。

現代の髪型に使う必要がないと思われがちの「つげ櫛」ですが,実はそんなことはないんです。「つげ櫛」は髪を梳かす時に静電気が起きず、また櫛に含ませてある油分が髪に適度なツヤとまとまり感を与えてくれるので、パーマやカラーで傷んだ髪には最適な道具と言えます。

そこで、使えば使うほど自分の手に馴染んでくる世界に二つとない「つげ櫛」をお客様の要望どおりに仕上げてくれる東京・上野の「十三や櫛店」15代目店主・竹内敬一さんに櫛づくりの作業を見せていただきながらお話を伺いました。

<江戸時代から続く創業278年の老舗、東京・上野の「十三や櫛店」15代目店主・竹内敬一さん>

—「つげ櫛」の材料となる「つげ」について簡単に教えてください。

いい「つげ」の木が育つところは限られていて、昔は日本には3カ所くらいありましたが、今は鹿児島県のみになってしまいました。櫛になるつげは10m間隔で植え、その木が櫛の材料になるまで40年かかります。「木」というのは植えたままだと年輪に偏りができてしまいますから、それを防ぐために10〜15年経つと反対側にも陽が当たるように植え替えをして育てていくんです。

—いい材料を手に入れるだけでも大変なんですね。

でも、材料を仕入れてすぐに櫛づくりの作業に取りかかるわけではないんです。まずは木材を乾燥させる行程に。そして乾燥させた板は反ってしまうので、それを直す作業、その後、板を燻す作業と移り、櫛に使える板になるまでには「最低4年」は掛かるんですよ。

—どんな方が主に購入されていくのでしょうか?

年配の方が多いイメージかもしれませんが、うちのお客様は意外と「20〜30代の女性」が中心なんです。みなさん髪のケアにとても敏感なのだと思います。友だち同士やサイトの口コミをきっかけに購入しにくる方が多いんですよ。

そんな話を伺いながら、竹内さんの作業は進んでいきます。今回見せていただいた作業は、櫛の歯を磨く作業から仕上げまでです。

<「やすり」を使って歯の隙間を一本一本丁寧に磨いていく>

櫛の歯を磨く作業は「やすり」で行うのですが、紙やすりだと紙に付いている砂が剥がれて櫛に食い込んでしまい、髪を梳かす時に髪を傷ませてしまうそうです。そうならないために使用するやすりは「鮫皮」(下写真左)と「トクサ」(下写真右)のもの。まず目の粗い「鮫皮」のやすりで磨き、その後目の細かい「トクサ」のやすりで磨いていきます。

「トクサ」は京都に一軒だけある「トクサ」専門の農家の方から取り寄せているそうで、そこからやすりとして使用出来るものをセレクト。お米を使ってやすりの棒に貼りつけて使用するのだそうです。

<これが「トクサ」。植物のざらざらしたところがやすりに使用される>

歯の間を丁寧に、かつスピーディーに。洗練された匠の技で、あっという間に仕上げていきます。そして、この時点では板状のままですが、これを櫛の形に削っていきます。

糸ノコで形を切り…

かんなで形を整え…

最後に鹿の骨でツヤを出して…

できあがり。

ファストファッションが主流で「一生使えるもの」というのは少なくなってきた現代、精魂込めて大切に作られた物を体の一部のように大切にすることで、さらに心が豊かになっていく気がします。実際「つげ櫛」は大切に使えば数十年は使え、どんどん自分の髪に馴染んでいくそうです。

自分に合った「つげ櫛」を作ろうとすると、オーダーしてから手元に届くまで長くて3ヶ月くらい掛かることもあるそうですが、みなさんも「大切な一本」「一生の一本」を見つけに、ぜひ東京・上野の「十三や櫛店」を訪れてみてくださいね。

十三や櫛店 TEL:03−3831−3238

〒100−0005 東京都台東区上野2−12−21

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