スティーヴ・アオキの精神はパンクそのものだ! ISHIYAが世界トップDJのドキュメンタリーを観る

スティーヴ・アオキという人物をご存知だろうか? 現在、世界のDJ長者番付で5位に入る、年収24億ともいわれるアメリカのトップDJだ。アオキと言う名の通り日系人で、父は有名な実業家であり冒険家でもある青木廣彰。アメリカの鉄板焼きチェーン「BENIHANA」の創業者で、通称“ロッキー青木”と呼ばれている。

いまや大成功を収めて世界のトップDJとなったスティーヴ・アオキだが、Netflixで配信中のドキュメンタリー映画『スティーヴ・アオキ I’ll Sleep When I’m Dead』を観ると、父親であるロッキー青木からの計り知れないほど大きな影響が、彼の原動力となっていることがよくわかる。過激なライブパフォーマンスは、命知らずの冒険家として知られた父親の破天荒さをそのまま受け継いだかのようだ。しかし、幼少時代のスティーヴはいつも父親の目を気にしていて、認められたいがゆえに様々なことにチャレンジするものの、陽の目を見ることはなく、あまりパッとしない学生時代を過ごす。父を誇りに思いながらも、なかなか成功への道が見つけられなかった少年時代のスティーヴにとって、救いとなったのはハードコア・パンクだった。大学進学の際は、幼少期を過ごしたニューヨークではなく、カリフォルニアのUCサンタバーバラ校を選んだ。理由は、DIYハードコアが盛んだったからだと本人が語る。

スティーヴのライブパフォーマンスで有名な、ケーキ投げやダイビングなどは、DIYハードコアに影響を受けたものにほかならないだろう。筆者自身も長年、DIYハードコアシーンの中にいたからこそ、彼のパフォーマンスがその精神を引き継いだものであることがよくわかる。シーンは非常にアンダーグラウンドな世界ではあるが、アメリカでは巨大なマーケットであるとともに、従来の音楽シーンとはまったく違った独自の方法でオーディエンスを獲得している。スティーヴの斬新なアイデアやパフォーマンスは、まさにDIYハードコアシーンが育んだものだ。

サンタバーバラ時代にDIYハードコアに没頭したスティーヴは、音楽が生き甲斐となる。もしシーンと出会わなければ、DJとしてのスティーヴという存在はなかったか、もしくはまったく違う形となっていたはずである。固定観念に囚われることなく、自分のすべてを表現するハードコアという音楽スタイルは、スティーヴにぴったりだったようだ。1997年頃というと、ニュースクールと呼ばれるハードコアが台頭した時期でもあり、その影響を直に受けているのだろう。ハードコアバンドのボーカルをしているシーンも、映像に収められている。

そしてスティーヴは、仲間4人で2DKの部屋を借り、狭い部屋で毎週3〜4回ライブを開催する。“ピックルパッチ”と名付けられたそのライブには、450組ものバンドが出演したという。このハウスショーというやり方は、筆者が経験してきたアメリカアンダーグラウンドDIYハードコアシーンそのものであり、もっとも過激で面白いものだ。狭い空間で繰り広げられるライブは狂気以外のなにものでもなく、日本では決して体験できない「これぞパンク!」といえるライブのスタイルである。スティーヴは当時、菜食主義や政治活動も行なっていたと語っているが、これもDIYハードコアの影響によるものだろう。

その後、スティーヴは現在のレーベル「DIM MAK」を19歳で設立する。ここから、スティーヴ・アオキのサクセスストーリーが始まったといっても過言ではないだろう。「やってできないことは何もない」ということを、スティーヴはDIYハードコアから学んだようだ。

しかし、一番認められたかった父親に、音楽という道は理解されなかった。どうしても父親に認められたいスティーヴは、音楽でも成功を収められることを証明するために、22歳でロサンゼルスに移り住んだ。音楽の道は非常にリスクが高いが、そのチャレンジ精神もまた、スティーヴが父親から受け継いだものだろう。冒険心の塊で、リスクを恐れず自分の信じた道を突き進む姿勢は、父親の姿に重なるとともに、DIYハードコアの精神そのものでもあると、筆者は強く感じる。

確固たる意志と熱意を、父親とDIYハードコアから受け継いだスティーヴは、ロサンゼルスでDJとしての活動も始める。そこで友人と組み、毎週火曜日に「DIM MAKチューズデー」というイベントを開催する。DIYハードコアのライブスタイルを受け継いだイベントで、ロックのアティテュードを取り込み、従来のダンスミュージックやDJ界にはない新しいムーヴメントを生み出した。

その後、数々の成功を手中にし、世界中を飛びまわる売れっ子DJとなる。年間300本ものライブを行なうのは狂気の沙汰である。当然、身体にも変調を来すが、スティーヴは止まることを知らない。まるで止まると生命が途絶えるかのごとく、精力的に世界中を飛びまわる。無休で働き続ける姿もまた父親譲りで、「血は争えない」という言葉を体現しているとしか思えない。この親子には驚愕するとともに、アメリカのエンタメ界で日系人が成功するためには、生半可な努力では叶わないことが切実に伝わってくる。

スティーヴ・アオキの音楽は、一聴するとパンクやアンダーグラウンドシーンとはほど遠く感じるかもしれない。しかし、その精神と方法論、ステージパフォーマンスは「パンク」そのものであり「ハードコア」そのものだ。パンク・ハードコアとは、生き様の問題である。スティーヴ・アオキは「生き様としてのパンクスである」と、筆者は信じて疑わない。(ISHIYA)

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