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『VOGUE JAPAN』9月号、編集長からの手紙。

  • 2016.7.29
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『Bella Bellissima』スーパーな輝きを放つ超人気モデル ベラ・ハディッド。 Photo: Giampaolo Sgura, Stylist: Anna Dello Russo

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本物のロールモデルの輝きとは?

今月号の表紙に登場するカバーガールは、ベラ・ハディッドです。19歳にして世界中の名だたるショーのランウェイに登場し、有名ブランドのキャンペーンの顔となり、同じく人気モデルのジジ・ハディッドの妹で、SNSで520万人以上のファンを持つ、文字通りのトップモデルであり時代を代表するイットガール。スーパーモデルたちが活躍した90年代、こんなに早くたちまちトップに駆け上がるモデルはいなかったのではないでしょうか。今は、すべてのスピード感があきらかに違ってしまいました。その最たる要因は、ネット社会の発達、特に若い世代にとってはSNSによるコミュニケーションにあると言えるでしょう。

人々は、世界のどこにいても、ランウェイでのモデルたちの華やかなプロの顔から、レッドカーペットのドレス姿、家族とのプライベートな素顔までを、一瞬のうちに「共有」します。そして、それらのイメージを共有することで自分自身も彼女たちの近しい「仲間」のような感覚を抱くことを楽しみます。モデルたちもSNSでの発信=自己プロデュースに日々余念がありません。そんな憧れのイットガールたちはまさに若い女性たちの「ロールモデル」と呼べる存在となっているのです。(今月号では、SNSが生んだイットガールたちのファッション(p.078)や人気の秘密に迫ってみました (p.092))。 

 一方で、かつてのスーパーモデルたちの多くは母となり、女性として成熟した新たな「ロールモデル」となっています。その代表といえるのがシンディ・クロフォードです。今号では、14歳になる娘のカイアとともに美しい母娘のポートレートを披露し、スーパーモデル・ブームから現在までに得た経験による人生や仕事に対する考え方、子どもたちへのアドバイスを語っています。シンディは、モデルの仕事も「デジタル化がすべてを変えてしまった」と言いながらも、「時間を守る」、「(仕事で従事する)産業を自分自身の計画に役立てる賢さをもつ」、「ダイエットせずにウェイトコントロールする」等々、時代が変わっても決して変わらない信念を伝えています。

まさに、30年近く第一線で活躍してきた女性だからこその説得力ある重みがその言葉から感じられます。シンディのスーパーモデル時代を一緒に生きてきた世代の女性たちだけでなく若い人々にとっても、彼女が今もなお素晴らしいロールモデルであり続けていることに疑いはありません。ジーン・クレールは「ロールモデル」について孔子の言葉を引いてこうコメントしています。「傷のない小石より傷のあるダイヤモンドのほうがいい」(p.086)。それは、すべてがハイスピードで「最新」を求める世の中にあっても、時間をかけ、傷つくことも含めた経験を積むことの大切さについての真実の言及です。

私は、その「傷のあるダイヤモンド」という鮮烈で美しいイメージを、キューバで再発見したことを思い出しました。今年の初夏、シャネルのクルーズコレクションのショーで初めて訪れたキューバの首都、ハバナ (p.144)。そこでは、お土産物も含めあらゆるものや場所に、革命に命を燃やしたひとりの青年の肖像を見ることができます。チェ・ゲバラ。あまりにも有名すぎる彼の顔をデザインした T シャツは遠く離れた日本の私たちにもすっかりおなじみです。旅、友情、理想、恋、闘争......。革命運動の只中で若くして亡くなった彼のストーリーは「青春と革命」の象徴として結晶し、永遠のロールモデルとなったのです。

そこに欠かせなかったのがあの世界一有名でクールな肖像。比類ないビジュアルイメージがあったからこそ、チェの存在はここまで広まったと言ってもいいでしょう。今だったらさしずめインスタグラムで「いいね!」が何千万もつくのと同じようなこと。ハバナの革命記念館に飾られていた彼の遺品のベレー帽と赤と黒のストライプ・ニットは、今、この瞬間でも最もおしゃれなアイテムとして「いいね!」の嵐になること間違いないものでした。ロールモデルにはスタイルが必要。そして傷つくことを恐れない姿勢も。それでこそ、ダイヤモンドは世界でひとつだけの個性を持って光り続けるのでしょう。

参照元:VOGUE JAPAN

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