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4児を育てあげた日本初 “ボンドガール” 浜美枝さんが語る、「幸せな女性の人生」とは?

  • 2016.7.27
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半世紀前、日本の女優で初めて「007」に “ボンドガール” として出演を果たした、浜美枝さん。

4児(!)の母として幸せな家庭を築き、現在も美しく心豊かな人生を謳歌されている浜さんが、最近『孤独って素敵なこと』(講談社)という潔いタイトルの著書を上梓しました。その中には、子育てや生き方に悩む女性にぴったりの珠玉の言葉がたくさん。

左: 『孤独って素敵なこと』 (講談社)

育児中はストレスで、心因性のアレルギーに悩まされたそうですが「母親としての幸せだけでなく、一人の人間としての幸せも手に入れたい」と願っていたとか。そして、自分が社会で求められることに喜びを感じ、「何かを乗り越えて達成していくおもしろさ」を手放さずに生きていきたい、と思い続けてきたそうです。

そんな浜さんに、育児中の母親たちへのアドバイスも含め、お話を伺いました。

■一度、ゼロに戻って考えることも必要。育児中、大事なのはまず睡眠!

―― 30代半ば頃、何もかもうまくいかない時期があったそうですね。

「次女が0歳で長男が2歳、長女が3歳の頃、毎日ワイドショーに出演していて、子育てでもへとへとなのに眠れなくて、自分が空っぽみたいな空虚な精神状態になってしまって…。何をやってもダメ。99.9%決まってた仕事もキャンセルになっちゃう。そういうことが重なってなぜだろうと思った時、自分に何か問題があるんだわ、と思ったんです」

―― そんなにお忙しかったら、当然かと思うのですが…。

「自分の何がいけないんだろう、って考える性格なんですね。わりあい冷静に自分を客観視してみて、自分では認めたくないことだけれども、きっと今、私は美しくない。世の中から求められる状態の浜美枝じゃないんだわ、と思ったんです。

で、これは一度まっさらになって、まず睡眠を取ろう、健康的になろうと自分で順番を決めました。三人の子どもを両親に見てもらって東京と行ったり来たりしながら、仕事も中途半端にするくらいなら辞めよう、と。もちろん経済的な影響はすごく大きかったのですが、私は6畳一間で子ども時代を過ごしていますから、そういうことに執着しなかったんですね」

―― 女優さんとしてのステイタスは? 個人的な話で恐縮ですが、かつてゴダールからの映画出演の依頼を断った、とご著書で読んだ時は、思わずのけぞりました。

「いえいえ、本当にそうだったんです。キャリアが大事とかそういうこと、あんまり思わないんですよね(笑)。そして、ゼロになってみたら、意外に心地よかったんです。精神的なストレスもだいぶ取れていった。そこから新たにスタートした感じです。やはり、それ以前は疲れた顔して、笑顔もそんなに出ないで、ゆとりもなかったんだと思います」

―― 女性は、自分の好きな自分でいないとうまく立ち行かないものですよね。

「私、4番目の子を妊娠6ヵ月半で流産したのですが、その時はもうどうすることもできませんでした。自分の力では何をどう努力しても、自分の感情をコントロールできないんです。

その時、たまたま仕事で南アフリカに行き、お休みが1日あったので、ヨハネスブルクまで自分で運転して喜望峰へ足を延ばしました。大海原に足を踏み入れた途端、心身がスーッと浄化され、失った命のことは忘れられないけれど、そこで立ち止まってはいけない、丁寧に生きていかなくては…と思えたんです。

自然の大きさは何より人の心を癒してくれるのではないでしょうか。旅もまた、苦しみや悲しみを浄化して、生きる気持ちを取り戻させてくれる、と私は信じているんです」

本当に辛い時、自分を癒す方法を知っているか否かで、人生はずいぶん違ってくると思います。浜さんの言葉は私たちに生きる勇気を与え、エールを贈ってくれます。

■「妻に家事を求めて、結婚するな」と息子を育てた。男の子の教育が肝心!

現在は、住み始めてから40年になるという箱根の森の中の古民家で、大自然に囲まれながらお好きな美術品や選び抜かれた道具たちと、美意識が隅々にまで活かされた暮らしを楽しんでおられる浜さん。

「食べることが大好き!」で、育児中も料理だけは手を抜かなかったという彼女は、次男夫妻と同居する中、ランチだけは手作りするとか。

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「家にいる限り、お昼ご飯を作るのは私の役目なんです。それがものすごく楽しみ。お昼はしっかり食べて、夜は軽く…。あらゆるものを作ります。

次男のお嫁さんも子供がまだ小さいし、家で仕事をしていますから、長時間かけてコトコト煮たり…なんていうのは土日以外はできません。なので月曜から金曜までは、一週間で冷蔵庫のものを使い切ることを前提に、私が買い物もします。金曜日には冷蔵庫がきれいになっているように(笑)」

―― 浜さんのお得意の料理は何ですか?

「煮物だと思います。煮魚とか。今、イワシやサバが美味しいから、サバの味噌煮とかね。それからパエリアみたいなものもします。複雑なものはしません。お嫁さんがパンとかお菓子がすごく上手なんです。私はお菓子はどうも苦手。几帳面じゃないんですね。お嫁さんはきちっと計って作る。パンも美味しいし、スノーボールなんて絶品なんですよ」

―― スノーボールが絶品とは、素敵なお嫁さんですね。

「うちは息子二人ともいい嫁に恵まれて、娘が四人いるみたいな感じです」

―― 嫁姑円満の秘訣は?

「お互いにあんまり干渉しないんですよ。嫁も、私が出かける時、何時に帰るか聞かれるのが嫌なタイプだって知ってますから。私から、何時に帰りますってメールするくらいで。お互いに立ち入らないの。距離を保つ。

同居していても知らないことがいっぱいあります。嫁に言ったから息子に伝わるとは限らないし、その辺のところは非常に合理的な家族です。風通しがいいんですね。だから、私は世の中でいう嫁姑での嫌な思いって、したことがないです。長男の嫁は全然タイプが違いますけど、彼女もとてもチャーミングなんです」

―― 育児に関して、夫や義理の両親と価値観が合わない場合もあると思うのですが…。

「それは、最初から決めてできることではないと思うんですね。私たちもそうですけど、同居してどんなふうになるのか、彼らに子供がいない時から、生まれてからも手探りなんです。そういう中で、お互いの一番いい空気感というか、関係性を日々作りあげていくことだと思います。

相手が嫌なことはしない。してもらって嬉しいことは『ありがとう』って言う。そういう柔軟性がないと、あんまりがんばり過ぎてもいけないし。

私は、息子にそれだけはきつく言ってきたのが、『料理や洗濯をしてくれる人と結婚するわけじゃないのよ』と。そういうことは自分でやって、その上で『共に歩む人と、結婚てするものよ』。だから、小さい時から料理もさせたし、洗濯も洗濯機の中にパンツ突っ込んじゃうだけ、なんてことは絶対させませんでした。自分の下着は、お風呂場で自分で洗わせて…」

―― 男の子は、“自分で洗濯機に入れるだけでも上出来” と思ってはいけないですか?

「とんでもない! 逆に女の子は、私はほうっておいてもいいと思ってるんですよ。女の子って、愛してる相手であれば、してあげたいじゃないですか。美味しい料理を作ってあげたいし、基本的には、女性は人を愛する、命を育むっていうものを持ち合わせていると思うんです。そこを大事にして、男性がしてあげれば女性は変われるし、優しい気持ちでいられるじゃないですか。だから大切なのは、 “男の子の教育” ですよ。

息子は家事も育児も全部やります。子どもにご飯も食べさせるし、おしめも替える。同等です。それだけは、私が唯一、子育てでしてきたこと。もうそれだけですね。やっぱり、男次第。絶対そう思います。

働く女性と結婚したら特にそうですよね。育児まっ最中、母親だけが大変ではいけないです。日本の男性に変わってほしい、もっともっと!」

浜さんがお嫁さんと仲良しなのも、そんなふうに育てた息子さんが選んだ女性だから…、と思わずにおれません。男の子の育て方、参考にしたいですね。祖父母が甘やかす場合、関係が険悪にならないよう配慮しつつ、浜さんみたいに育てられるといいのですが。

■お嫁さんには、“一人になれる時間” をちょっとでも持ってほしい

もともと民芸や骨董が大好き。たまたま仕事で訪れた山陰の旅の途中、人の悲鳴のような声が聞こえて車を降りたら、古い家の解体現場で使われるチェーンソーの音だった…これをきっかけに古民家の廃材を集めて、いまの箱根の家を建てたという浜さん。

浜さんご家族が暮らす「箱根やまぼうし」。イベント開催時のみ広間などを開放し、オープンしている。 Copyright 2016 mies-living.jp. All Rights Reserved.

そこに “新たな命” を吹き込んで次世代へつなげたい、と日々の暮らしを大切に営んでいます。

―― 育児でいっぱいいっぱいだと、目の前のことしか見えなかったりしますが、「どう生きるかは、どう暮らすか」と本書に書かれていてハッとしました。

「30~40代って、一番その辺が悩むことじゃないでしょうか。愛する家族を大切にすると同時に、よりよい自分でありたいと思うなら、どうにかして “自分の時間” を作る。たとえば映画でも音楽でも、落語でもいいから “自分が感動すること” に絶えず身を置くことです。これを面倒だと思わないことね。

私、最近のブログに書いてますけど、『裸足の季節』という映画、本当に感動しました。疲れた時こそ自分を解放してあげる。美術館でもいいし、半日の小さい旅でもいい。日常から少しだけ自分を解放してあげるのは、生活の知恵として悪くないと思うんです」

―― 最後に、100万回聞かれてらっしゃると思いますが、「美貌の秘訣」を教えてください。

「よく眠って精神的なストレスを溜めなければ、30~40代は十分美しいです。一番大事なのは精神的なこと。人を愛してドキドキしたり、何か感動したりということが健康には一番いいと思います。わかっていても、なかなかそれができないんですよ。

あと、『さざなみ』という映画もよかったです。あれ、男の人に観てほしい。私、2度観ちゃいました。男性の監督なのに、どうしてここまで女心がわかるのかしらって、ブログに書いちゃいました(笑)。育児中のママたちも、なるべくたくさん映画をご覧になって、心を解放して、いろんな生き方があることを知っていただきたいです」

―― 映画どころか、お茶一杯まともに飲めない状況のママもいると思うのですが…。

「そうね。だから私もお嫁さんに、ちょっとでも一人の時間をあげたいと思っています。一人になる時間がないということがどんなに辛いことか、よくわかっていますから、お嫁さんにはそういう思いをさせたくないです。

育児中こそ、なるべく女性がゆとりを持てて、自分のことも考えたりできるといいなあと思うんです。

お嫁さんは今、編み物をしたくても難しいけれど、 “かぎ編み” だったらできる、と。ミシンを使ったりする時間はないけれど、かぎ編みは楽しめている。じゃあ、読みやすい本があったら紹介してみよう、とかね。優しさを持っているお嫁さんだから、私も優しくなれる。幸せなことです」

―― 一家に一人、浜さんにいらしてほしいです(笑)。どうもありがとうございました。

別れ際、「最近のジェームズ・ボンド役、ダニエル・クレイグをどう思いますか?」と伺ったら、「自分が出演した後の『007』は観てないの。それ以前も観てないけど。『007は2度死ぬ』で共演させていただいたショーン・コネリーさんが、一番素敵だと思ってるから」と答えて、恥ずかしそうにニッコリ。とても可愛い女性なのです、浜さんは!

浜美枝 (はま・みえ)

1943年、東京都に生まれる。1960年、バスの車掌をしていたときに受けた東宝のコンテストを経て女優デビュー。1967年、映画『007は2度死ぬ』に、日本人として初めてボンドガール役として出演。その後、テレビの「小川宏ショー」「いい朝8時」「日曜美術館」などの司会としても活躍。女優業のかたわら、40代から箱根に古民家を移築し、4人の子どもを育てる。

農林水産省「食アメニティを考える会」会長、近畿大学総合社会学部の客員教授を歴任。現在は、文化放送ラジオ「浜美枝のいつかあなたと」のパーソナリティのほか、農政ジャーナリストとして国土庁・農林水産省の各種委員会のメンバーを務める。

新刊:『孤独って素敵なこと』(講談社)

http://www.mies-living.jp/index.html

(稲木紫織)

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