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〈70代でふたたびモデルの世界へ〉「ママ、もったいないよ」と浅野忠信らに背中を押され…母・順子さん(75)が語る、驚きの“奇遇”と「70代の夢」

  • 2025.10.26

ドラマ「SHOGUN 将軍」でゴールデングローブ賞助演男優賞(テレビドラマ部門)を受賞し、国際派俳優として注目される浅野忠信(51)。長女の佐藤菫(SUMIRE、30)、長男のHIMI(25)もモデルやシンガーソングライターとして活躍中。そんな一家の面々を陰で支えてきたのが、浅野忠信の母、浅野順子さん(75)だ。

順子さんは、戦後、日本に駐留していたアメリカ人調理兵の父と元芸者の母の間に生まれ、1960年代、山口小夜子やキャシー中島も所属し、横浜・本牧のディスコで華やかに遊ぶことで知られていた美少女グループ「クレオパトラ党」の一員だった。さらに、60歳を過ぎて出会った恋人に才能を見出され、画家デビューしたという特異な経歴を持つ。

彼女と同時代を生きてきた畏友、ミュージシャンの近田春夫さん(74)を聞き手に迎え、稀代の女傑の半生を彼女のアトリエで掘り下げる。

全7回にわたる大河連載は、今回で大団円を迎えることとなる(全7回の最終回/はじめから読む)。

三つ編みがとてもよく似合う浅野順子さん。子どもの頃、母から「あなたはネイティブアメリカンの末裔なのよ」と伝えられ、それをずっと信じ込んでいたが、後年、それは誤解であることが判明した。

忠信出演作で一番のお気に入りは「FRIED DRAGON FISH」

近田 40年近くのキャリアを積み重ねてきた忠信さんの出演作は膨大な数にのぼります。「SHOGUN 将軍」をはじめ、海外の作品にもたくさん出演してるよね。

浅野 なかでも、2008年に日本公開された『モンゴル』は私のお気に入り。この映画で忠信が演じたのは、若き日のチンギス・ハン。セルゲイ・ボドロフというロシア人の監督は、ビジュアルのセンスを大事にするタイプで、そこがいいのよね。

近田 アーティストとしての順子さんのアンテナに引っかかったわけだ。去年、僕は石井岳龍監督の『箱男』を観たけど、あの映画での忠信さんの怪演は見ものでした。

浅野 私、試写会に招かれて、観に行ったのよ。忠信扮する偽医者が、箱の中からいやらしい視線で女性を覗いてるシーンがあるじゃない? こちとら母親だから、息子がああいう役を演じると、妙にリアルに感じちゃって、なかなか正視するのが難しくってさ(笑)。

近田 いたたまれなくなっちゃったのね(笑)。あの映画、安部公房の原作の雰囲気ともまた違ったテイストが醸し出されていて、なかなか面白かったよ。順子さんにとって、忠信さんの出演作で一番印象に残っているものというと何になるの?

浅野 あの子が19歳の時、1993年に放映された「FRIED DRAGON FISH: THOMAS EARWING'S AROWANA」かなあ。岩井俊二監督が手がけた単発のテレビドラマなんだけど、若い頃の忠信の身体の綺麗な感じが上手く表現されてて、好きなのよ。今まで、何回繰り返し観たか分からないぐらい。だから、台詞まですっかり覚えちゃった(笑)。

アトリエに飾られている、順子さんお気に入りだという浅野忠信さんの出演作『モンゴル』のポスター。

孫の佐藤菫(SUMIRE)とは似たもの同士?

近田 ちなみに、お孫さんは今何人?

浅野 全部で4人ね。長男のところが2人。上は29歳の女の子で、下は小学3年生の男の子。次男の忠信のところも2人。上が30歳の女の子、佐藤菫で、下が25歳の男の子、HIMI。

近田 じゃあ、もうすぐひ孫ができちゃってもおかしくない頃合いだね。

近田春夫さん。11月25日(火)に、半世紀を超すこれまでの音楽活動を概観する新刊『未体験白書』(シンコーミュージック・エンタテイメント)が発売される。12月11日(木)には、LOFT9 Shibuyaで発売記念トークライブも開催。

浅野 そうね。あの子たちがまだ小さい頃は、ベビーシッター代わりに、しょっちゅう孫の面倒を見に行ってた。あの頃のことを考えると、時の経つのは早いものよね。

近田 まあ、我々ももう70代半ばだからねえ(笑)。

浅野 両親ともに仕事が入ったりすると、私がご飯作ってあげてたし。そういう時は、菫と一緒にお人形さんのお洋服作ったりしてた。私、体も手もでかいくせに、ちっちゃいもん作んの上手いのよ。

近田 そうなんだ。お見それしました(笑)。

浅野 こないだも、とあるステージの衣装、菫と一緒に作ったわよ。6点ぐらいかな。

順子さんは1950年9月23日生まれ、近田さんは1951年2月25日生まれ。つまり、二人は同学年に当たる。

近田 そりゃ大したもんだね。順子さんと菫さんって、似たタイプなのかな?

浅野 似てるかもしれない。二人とも、つらいことや苦しいことがあっても、それを表に出さずに、隠れたところで忍んで泣いてるタイプだから。

近田 えっ、順子さんってそういうタイプだったの?(笑)

浅野 そうよ。本当は年中泣いてるわよ。菫を見ててもさ、今、いろいろ上手くいってないんだろうなあとか、大体分かんじゃん(笑)。彼女には「何かあったらおばあちゃんのとこにすぐ電話するんだよ」って言ってるし、向こうも、私には相談してくんのよ。

近田 それは心強いアドバイザーだね。

浅野 一人で思い詰めちゃダメよ。

浅野順子さんは、10月25日に新宿K’s cinemaで映画『アニタ 反逆の女神』の公開を記念して行われたトークショーに出演した。トークのお相手は、プロデューサー・ディレクターの立川直樹さん。

孫のHIMI、義理の娘・中田クルミの活躍に思うこと

近田 忠信さんのお子さんは、弟の方も、俳優やミュージシャンとして活躍してるんだよね。

浅野 HIMIは、18歳の時、寺山修司の演劇『書を捨てよ町へ出よう』のオーディションに合格したのよ。初めての舞台だというのに、いきなり主演で、しかも最後にはパリ公演まであった。演出がまた融通無碍で、台詞も動きも毎回変わったんだけど、何とかやり遂げた。最後にはずいぶん痩せてたわね。感動しちゃった。

近田 彼は、音楽でも才能を発揮してるんでしょ?

浅野 去年の秋、ビルボードライブ横浜で、TOKUさんっていうヴォーカリスト兼フリューゲルホーン奏者と共演した公演を観たんだけど、ジャズのスタンダードもあれば、HIMIのオリジナルもあって、とってもよかった。

近田 順子さんは、忠信さんの今の奥さんの中田クルミさんとも、仲はいいんだよね?

浅野 もちろん。

近田 今、おいくつなの?

浅野 33歳。

近田 じゃあ、孫とあんまり歳が変わらないんだ。

自らの作品や美術書が並ぶ順子さんのアトリエ。

浅野 そうなのよ。頭のいい子でね、何でもきっちりやれちゃうの。家のリビングなんかも、自分でペンキを塗ったりタイルを敷いたりしてリノベーションしてさ。ご飯にしたって、お正月のおせち料理は黒豆や栗きんとんまで手作りするし。

近田 若いのにそんなことできるんだ。黒豆って難しいよね、皺が寄っちゃってさ。

浅野 親御さんがきちんとしてたんでしょうね。ちなみに、若い頃から一緒に遊んでたナポレオン党の仲間の息子が、クルミちゃんの妹と結婚したのよ。だから、今になって親戚になっちゃった(笑)。奇遇よね。

「ママ、もったいないよ」心に残った息子たちの言葉

近田 ゴールデングローブ賞の授賞式の中継じゃ、着物姿のクルミさんは相当目立ってたよね。

浅野 彼女は努力家だから、着付けも勉強したし、着物も自分で選んだのよ。

近田 モデルという華やかな職業からすると、意外な素顔だよ。モデルといえば、順子さんも、最近、ファッションモデルとしての活動を積極的に展開してるよね。

浅野 はいはい。ロエベ、ケイタマルヤマ、イッセイミヤケなどのブランドから、お仕事をいただいております。

現在、浅野順子さんには、さまざまな雑誌からの取材依頼が舞い込んでいる。

近田 うわあ、錚々たる有名ブランドばっかりじゃん。

浅野 そういう洋服には上手くこの体が収まらなかったりして、恥ずかしくなることも多いんだけどさ(笑)。

近田 モデルとしての活動に関しては、誰かマネジメントしてくれる人がいるの?

浅野 私が絵を描き始めたころからずっと注目してくれている若いクリエイターの男性がいて、その彼が、モデルのエージェントを買って出てくれてるのよ。私、ギャラの交渉とか、そういう細かいこと全然できないから、本当に助かってる。

近田 順子さんは、画家としても、絵に値段が付けられないって言ってたもんね。

浅野 そうそう(笑)。今後の夢は、同年代のお洒落な女性を集めて、ファッションショーを開くことなのよ。

近田 いいねえ。そういった形で、ますます順子さんの存在が知られるようになるのなら、本当にうれしい限りですよ。

浅野 1、2年前かな、息子たちに「ママ、もったいないよ」って言われたのよね。もっともっと華やかな場所で活躍できたはずなのにって意味らしいんだけど。

順子さんのアトリエの壁を飾る浅野忠信さんの写真。

近田 その言葉に全面的に同意するよ。だって俺、順子さんをさらに日の当たるところに引っ張り出したくって、この対談企画したんだもん(笑)。

浅野 長男からは、「ママはいつも最初だけだね」とも指摘された。確かに私、そういうとこあんのよ。何を始めても、夢中になるのは出だしだけで、興味を失ったら、すぐに別の方向行っちゃうから。

近田 えー、今までつらつらとお話をうかがってまいりまして、その性向に関しましては重々承知しておる次第です(笑)。

浅野 息子たちから投げかけられたその二つの言葉が胸に響いてさ、画家としてもモデルとしても頑張ってるわけよ。今になって、チャンスが巡ってきたんだとするなら、楽しんでやれたらいいなあって。だって、もう75歳なんだもん。体が動くのって、あとせいぜい10年じゃん。

共通するユーモア感覚

近田 息子さんたちがそう言った理由って、順子さんが母親だからじゃないと思う。あくまでも客観的に、浅野順子という才能を評価したことの帰結だよ。50歳超えて分別ついた男が、今さら身内を無意味に持ち上げたってしょうがないんだから。

浅野 そういうこと言われると、うれしくなるわ。

近田 若い子たちにとって、こういう先輩の存在は、一つのロールモデルになる。これまでの波瀾万丈の経験を、縦横無尽に活用してほしいところだよ。

ヴィンテージマンションの一室にある順子さんのアトリエは、観葉植物が随所に配された緑豊かな空間。

浅野 まあ、まだまだ話してないこと、話せないことも多いんだけど(笑)。

近田 画家・浅野順子に張り合うつもりはないけど、そういや、僕もスマホでいろんな絵を描いてるのよ。

浅野 そうなんだ。見せてよ。

近田 子ども向けの無料のお絵描きアプリを使ってさ、電車に乗ってる時なんかに描いてるんだ。写真を取り込んで、色を塗ったりするのは楽しいよね。

浅野 どんなモチーフを描いてるの?

近田 いろいろだけど、ミュージシャンの絵は多いね。(スマホの画面を見せながら)ほら、これはドナ・サマー、これはロッド・スチュワート……。

近田さんの描いたT・レックスのマーク・ボラン。

浅野 私も、レディー・ガガとか描いてるのよ。スマホでも、毎日決まって3、4点は絵を描いてる。全然整理してないから、どこにどの絵があるか、分からなくなっちゃうんだけど。

浅野順子さんがスマホで描いた作品。

近田 順子さんと僕の絵には、共通するユーモア感覚があると勝手に思ってるんだ。

浅野 こうやって見せ合いっこすると、確かにそう感じるわね。

近田 アートをはじめとして、順子さんのセンスは、現代の日本社会において、あまりにも示唆に富むところが多いよ。先生、これからも、引き続き勉強させてください!(笑)

【完】(第一回から読む))

CREA編集部は、去る7月4日に代官山蔦屋書店で浅野さんと近田さんのトークイベントを開催。大好評を博した。

浅野順子(あさの・じゅんこ)

1950年横浜市出身。ゴーゴーダンサー、モデルなどを経て結婚し、ミュージシャンのKUJUN、俳優の浅野忠信の2児を儲ける。ブティックやバーの経営に携わった後、独学で絵画を描き始め、2013年、63歳にして初の個展を開催。その後、画家として創作を続ける。ファッションアイコンとしても注目を浴び、現在は、さまざまなブランドのモデルとしても再び活動を繰り広げている。

近田春夫(ちかだ・はるお)

1951年東京都世田谷区出身。慶應義塾大学文学部中退。75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。その後、ロック、ヒップホップ、トランスなど、最先端のジャンルで創作を続ける。文筆家としては、「週刊文春」誌上でJポップ時評「考えるヒット」を24年にわたって連載した。著書に、『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(リトルモア)、『グループサウンズ』(文春新書)などがある。最新刊は、宮台真司との共著『聖と俗 対話による宮台真司クロニクル』(KKベストセラーズ)。

文=下井草 秀
撮影=平松市聖、橋本 篤

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