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「二度の訪問で二度スマホをすられた」旅ガール清水みさと、三度目の【ロンドン】旅の「奇跡」って?

  • 2025.10.13

訪れた国は約40カ国。サウナと旅をこよなく愛するタレント・モデル・俳優の清水みさとさんの連載エッセイ。2回めは何度すりにあっても愛してやまない街、ロンドンについて。

【連載】清水みさと「旅をせずにはいられない」vol.2 試される女、ロンドンにたつ

試されてる気がする。
 
生きてるとそういう瞬間が山ほどあって、たいていそれは、うまくいかないときだ。
 
書いたはずの原稿をうっかり全部消してしまったとき、集合場所が桜新町なのに桜木町に行ってしまったとき、寝てもいないのに、目の前で平然と飛行機を逃したとき(実話です)。
 
そうやって「やっちまった〜!」みたいなときに、いちいち落ち込んでたらキリがない(多すぎて)。
 
だから、「試されてるぜ、やれやれ」と、カッコつけたり、心の涙を拭って「へのかっぱだよ!」と笑ったりして、33年やってきた。
 
人生なんて、本当はもっと甘やかしてほしいのに、なぜか根気よくわたしを試してくる街もあって、しかもそういう街に限って、こっちが懲りずに好きだったりするんだからややこしい。
 
そう、ロンドン。
大学生の頃、「ノッティングヒルの恋人」を観て以来、ずっと恋している街だ。

初めてひとりでロンドンを訪れたとき、バイクでiPhoneをすられた。
 
二度目は、バーで財布をすられ、おまけに、全財産を失って空港までの電車のチケットを買えず、ロンドンに住む友人に頼んでチケットを買ってもらったのに、なぜかわたしが握りしめていたのはレシートだった(改札も通れない不運)。
 
それでも嫌いになれなかった。
曇り空すら絵になるロンドンの街並みは、どこを歩いても映画の中を漂っているみたいで、もし向こうからヒュー・グラントが現れても、きっと驚かないと思うのだ。

だから、片思いで終わるのだけはどうにも癪だった。普通ならもう懲りて行かないんだろうけど、わたしはどうしても、三度目の正直をやらなくちゃと思っていた。
つまり、もう一度、懲りずに行くってこと。
 
9月。友人とアイスランドに行く機会があり、無理矢理ロンドンを経由地にした。別に、フィンランドでもドイツでもよかったけど、三度目の正直をやらなきゃいけなかったから(くどいようだけど、ほんとうに)。
 
「イギリスよ、わたしと対等になろうじゃないか!」って感じで、少し高くついたロンドン経由のチケットを購入した。
 
出国のチェックインカウンターで、「ETAはお持ちですか?」と言われて目が覚めた。
 
どうやら今年から、イギリス入国には電子ビザが必要になったらしい。もちろんそんなこと知りもしなかった。
しかも、カウンター〆切ぎりぎりに到着したわたしに残された時間は、たったの10分。
 
「ビザがなければ、飛行機に乗れません」と言われたとき、多分わたしの顔は、ちびまる子ちゃんに出てくる藤木くんより青ざめていたと思う。
 
がたがた震える指先でアプリをダウンロードし、申請後、奇跡的に2分で許可が降りた。
 
完全に試されすぎてるし、運がよすぎるし、こうなってくるともうよくわからないよと思いつつ、体の力が抜けるほど安堵した。
 
出鼻をくじかれながらも、なんとか14時間かけてたどり着いたイギリス。
ETAのおかげで、顔をスキャンするだけで、あっけなく入国できてしまった。

曇りがちなロンドンでは珍しく、空が透き通るように晴れていた。
 
季節はすっかり秋で、日本ではまだ夏の湿気がしぶとく居座っていたから、大好きなハイド・パークを散歩しながら、「地球にまだちゃんと秋があった〜!よかった〜!」と、思わず声が出た(秋がいちばん好き)。

三度目ともなると、なんとなく勝手がわかっていた。
 
それに、1ヶ月間ロンドンで暮らしたこともあるから、Googleマップを見なくても足はちゃんと覚えている。
時間がたっても、体ってちゃんと記憶してて、えらい。
 
そして今回は、やけに慎重なわたしである。
電車に乗るときはクレジットカードを手でぎゅっと握りしめ、誰にも見られないように、常時、萌え袖でタッチ。
道路沿いと夜道は避け、歩きスマホは完全封印。鞄の紐をぎゅっと握りしめ、「背中から覇気を出せ」とアドバイスをもらったので、めちゃくちゃ背筋を伸ばして歩いた。
 
でも、ロンドンにいると、やっぱり懐かしかった。
ピリッと気を張っているのに、心のどこかがほっとしていて、異国でそんな気持ちになれることが、うれしくてたまらなかった。

(Maison Bertaux)

(Jolene Bakery & Restaurant)

SOHOにある行きつけの大好きなカフェでスコーンを食べて、新しくできたドーナツ屋でまた頬張り、友人に教えてもらったサウナに行った。
 
三度目のロンドンは、慎重のあまりこれといって新しいこともせず、静かにときが過ぎていった。
 
だけどなぜだか胸がいっぱいで、何も起こらないことが、いちばんのご褒美みたいに思えた。
 
試されすぎる女、ついにロンドンで何も起こらない奇跡を成し遂げた。
別にやらなくてもいいことを、わざわざやってるところがわたしらしい。それでもこうしてまた来て、「ほら、悪くないじゃん」って思えてる自分が、ちょっと好きだった。

滞在中のロンドンはずっと天気がよくて、曇り空すら絵になる街が、珍しく毎日ごきげんに晴れていた。
 
「懲りずに、また来てくれてありがとう」
そんなふうに言われている気がして、うれしくて笑った。
わたしはロンドンに「またね!」と手を振った。
 
うん、試されるのも、悪くない。
 
ナイス! わたしの人生。

photograph & text:MISATO SHIMIZU

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