1. トップ
  2. エンタメ
  3. 映画『チェンソーマン レゼ篇』で原作者・藤本タツキが明言した「元ネタ」映画10選を一挙解説

映画『チェンソーマン レゼ篇』で原作者・藤本タツキが明言した「元ネタ」映画10選を一挙解説

  • 2025.9.27
映画『チェンソーマン レゼ篇』の入場者特典のガイドブックにて、原作者の藤本タツキはインスピレーションを受けた映画作品を明言していました。ここではその10作品を解説しましょう。(※画像は筆者撮影)
映画『チェンソーマン レゼ篇』の入場者特典のガイドブックにて、原作者の藤本タツキはインスピレーションを受けた映画作品を明言していました。ここではその10作品を解説しましょう。(※画像は筆者撮影)

『チェンソーマン レゼ篇』が劇場公開中です。公開3日間で興行収入は12.5億円を超える大ヒットスタートを切り、レビューサイトの映画.comでは4.1点、Filmarksでは4.4点(9月下旬現在)という高スコアを記録しています。

その『チェンソーマン』の原作者である藤本タツキは大の映画ファンで、カジュアルに刺激を受けた作品を公言しています。今回の映画の入場者特典の第1弾の小冊子『恋・花・チェンソー・ガイド』でもインスピレーションの元になった映画がたっぷりと書かれていました。ここでは、一挙10作品を、『レゼ篇』本編のネタバレありで解説しましょう。※以下、『チェンソーマン レゼ篇』の重要なサプライズ要素、ネタバレに触れています。そちらの鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。

1:『人狼 JIN-ROH』(2000年)

藤本タツキが「話作りで下敷きにする部分が多かった劇場アニメ」と語った『人狼 JIN-ROH』は、銃殺シーンの残酷さのためにPG12指定がされた大人向けの作品。「架空の戦後」を舞台に童話『赤ずきん』を踏まえた物語が進行しており、全体的な作風はかなりダークでダウナー。「後味の悪い映画」としても知られています。

『レゼ篇』と共通するのは、出会った少女が、主人公にとっては敵対する(そうせざるを得ない)存在だった、という悲劇性。その少女が爆弾や武器の運搬をしていたことも、レゼが「ボム」という爆弾の悪魔だったことともシンクロしています。実際に藤本タツキは、ガイドブックにて「『人狼 JIN-ROH』で女の子が爆弾を爆発させるシーンがあるのですが、その起爆装置の紐を引くシーンがすごく好きで、これで(レゼが)変身したらカッコいいと思ったんです」「僕にとっての『恋』と『爆発』には共通点もあります。一瞬で、すさまじいことが起きるけれど、そのあとには何も残らないという」とも語っています。

『人狼 JIN-ROH』は藤本タツキが言うように恋愛映画というわけではありませんが、どのように恋(に近い気持ち)と爆発が描かれるのかは、ぜひ実際にご覧になってほしいです。

2:『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)

ガイドブックではなく、劇場パンフレットで「『レゼ篇』の下敷きの1つ」と藤本タツキが明言している『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』は、共に列車を降りた男女による、たった14時間だけの関係を綴るラブストーリーです。「ずっと会話をしているだけ」と言っても過言ではない内容ながら、ウィーンの美しい風景に見惚れ、2人の哲学的な言葉に惹かれていく。時には言葉以外でも心の変化が伝わってくる、恋愛映画の名作でした。

実際に藤本タツキは同作を「男女の距離が近づく様子が印象的」「女性が初めて会った男性に死んだ祖父の話をして、精神的にすごく近づいてくる」「その後、レコード屋の狭い試聴スペースで一緒に音楽を聴いて、肉体的にも接近する」と語りつつ、『レゼ篇』では「そういった精神・肉体の両面の接近を、電話ボックスのシーンで描こうとしました」と語っています。両方の作品から、「精神的にも物理的にも心の距離が近づく」共通点を見出せるでしょう。なお、ガイドブックでは「今ぱっと浮かんだ、好きな恋愛映画」について、藤本タツキは『ビフォア・サンセット』も挙げています。こちらは『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』から9年後に制作された続編で、劇中のキャラクターにとっても9年後の再会が描かれており、その「リアルタイムの時間の変化」も、良い意味で生々しく、時には愛おしく感じられる作品でした。

3:『台風クラブ』(1985年)

『台風クラブ』は藤本タツキが言うところの「台風が直撃した夜、学校に閉じ込められた生徒たちの話」であり、この映画で「夜の学校は何かおかしなことが起きる場所」という印象を植え付けられたのだそうです。

言わずもがな、その印象は『レゼ篇』では夜の学校に忍び込んでのデンジとレゼのデートで反映されています。藤本タツキは「もちろん2人でロマンチックな雰囲気もありますが、どこかおかしな空気を出したかった」とも語っており、『台風クラブ』でも思春期の少年少女の瑞々しい青春を描いているようでいて、「夜の学校」と言う場所だからこそのおかしな空気、というよりも「危うさ」を存分に感じられるようになっています。

その後にデンジとレゼがプールで裸になっての大はしゃぎも、『台風クラブ』での今では撮影自体が許されないであろう、生徒たちが下着姿で台風の中で踊るシーンを参考にしているのでしょう。

余談ですが、細田守監督の『おおかみ子どもの雨と雪』も『台風クラブ』に強い影響を受けた作品で、クライマックスではまさに台風のために学校に閉じ込められる様子が描かれています。

4:『ノーカントリー』(2007年)

レゼが学校でモヒカンの謎の男の首を絞めるシーンの引用元である『ノーカントリー』は、ギャングの大金を盗んだ男と、彼を追う不気味な殺し屋と、その2人を追う老保安官の思惑が交錯するスリラーです。乾いた雰囲気からの暴力描写が強烈で、特に殺し屋が「コイントス」で目の前の相手の運命を決める様から、その異常性がはっきりと表れていました。

藤本タツキが引用した理由は、「(殺人鬼に)殺される人が足をバタバタさせて靴の裏が削れて線になるシーンがあり、それがすごく好きです。それをやりたかったということしか思い出せないです」とのこと。

ここだけを聞くと悪趣味にも思えるところですが、隠されたレゼの暴力性と戦闘能力を初めてはっきりと見せるシーンとして、とても効果的だったと思います。

5:『スパイダーマン』(2002年)

劇中では、デンジがサメの魔人の「ビーム」に騎乗して戦おうとするシーンにおいて、「天使の悪魔」から「そういうことなの!? 違うんじゃないか!? なんかこうチェーンを腕から飛ばして建物に引っ掛けてさ!」とツッコまれています。

これは言わずと知れたアメリカンコミックおよび映画の『スパイダーマン』の移動手段からの引用。ガイドブックによると、本当は「スパイダーマンみたいに移動する」とシンプルに言いたかったところを、「他社様の有名作品だから難しい」という理由で長い説明セリフに変えたのだとか。

6:『シャークネード』(2013年)

さらに、藤本タツキが「ビームの腹に入っていたから助かったのも映画ネタ」と語っているのは、「Z級」のサメ映画としてカルト的な人気を誇る『シャークネード』。チープな画とトンデモな展開とツッコミどころが目白押しの作品ですが、それ故に愛されて(?)続編も5作も作られました。その『シャークネード』において、どのように「サメの腹に入っても助かる」様が描かれるのかは……観たことのない人のために秘密にしておきましょう。きっと、そのあまりのバカバカしさに、藤本タツキが言うように「絶対そんなことないだろ、と(笑)」になることでしょう。

7:『地獄でなぜ悪い』(2013年)(※かもしれない)

デンジがレゼに舌を食いちぎられるシーンにおいて、藤本タツキが「何かの映画でキスをしたらガラスを食わされているシーンがあって、それがいいなと思って」と語っている映画は、おそらくは『地獄でなぜ悪い』でしょう。

同作はPG12指定止まりとは思えないほどの、血しぶきが出まくる過激な映画撮影を描いた作品。キスでガラスを食わせてくる俳優は二階堂ふみで、その相手は星野源でした。

ここで『地獄でなぜ悪い』のタイトルが出ていないのは、単純に思い出せなかっただけかもしれませんが、もしかすると園子温監督の性加害問題を踏まえて、作品名を伏せたという配慮だったのかもしれません。

8:『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』(2004年)

藤本タツキは「『劇場版アニメ』と聞いて真っ先に思い浮かべる作品を『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』と答えた上に、「ちょっとだけ『レゼ篇』にも重ねています」と明言しています。

同作は西部劇の映画の世界に入り込んでしまう様が描かれており、悲劇性や暴力性も子供向け作品にしてははっきりと描かれる、シリーズではやや異色、賛否が分かれた作品となっています。

藤本タツキがちょっとだけ重ねていると言ったのは、おそらく『夕陽のカスカベボーイズ』が「報われない恋」を描いた作品だからでしょう。

劇中でしんのすけは14歳の少女に惹かれていき、やがて本気で恋をするのですが、彼女は映画の中の登場人物(それ以外にも解釈が分かれる存在)です。最終的にその恋心が成就しないことが分かっているからこその物語になっていることが、最後まで見ればより切実に胸に響くでしょう。

9:エンディング・テーマには『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)の影響も

米津玄師と宇多田ヒカルのデュエット曲のタイトルは『JANE DOE』。その「ジェーン・ドゥ」とは、ありふれた名前だからこその「身元不明の女性」を指す言葉です。レゼはソ連で実験材料にするために集められた「モルモット」であり、本当は学校に行ったこともなかった、身元が希薄な女性であるレゼの悲しさを示したタイトルと言えるでしょう。

さらに、音楽ナタリーのインタビュー記事で、米津玄師は「映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でビョークとトム・ヨークがデュエットしている『I've Seen It All』がすごく好きだったんです。ああいうニュアンスがすごく合うのではないかという感覚があって、それを念頭に置きながら曲を作り始めましたね」と語っています。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は次第に目が見えなくなっていく女性の息子への愛を描く、後味の悪い映画の代表と言える作品ですが、それゆえに後のクリエイターに与える影響も大きかったことでしょう。
さらに、前述した謎のモヒカン男の首を絞めるシーンでレゼが歌っているのはロシア語であり、その曲名は「ジェーンは教会で眠った」。ガイドブックで藤本タツキは「普通のデートの歌です。最後は教会で眠るので、普通の性格をして普通に死にたい…ということを歌っています」と語っています。

それは、『JANE DOE』でのレゼのささやかな、でも幸せなデンジとのデートを歌っているような歌詞とも、シンクロしているように思えるのです。

10:『誓いの休暇』(1959年)(※ではない?)

デンジとマキマが映画館でのハシゴをするデートで最後の6本目に見た映画の、兵士と女性が抱き合うシーンのカットは、『誓いの休暇』からの引用だと思われます。同作はパブリックドメイン化しており、YouTubeで本編が公開されています。しかしながら、今回のガイドブックで藤本タツキは「(映画の内容を)特に決めていません」と明言しています。しかも、『誓いの休暇』は劇中で言われているような「難しくてよく分からないって評判の映画」ではまったくないですし、該当のカットも「すげえどうでもいいシーン」とは真逆の重要な場面であるため、同一視はしないほうがいいでしょう。

しかしながら、デンジとマキマが見たのが仮に『誓いの休暇』だとするならば、2人がなぜ涙を流したのか、その理由の考察も広がります。同作は比較的ハートフルなロードムービーながら、戦争がいかにささやかな幸せを奪ってしまうのかを描いた、反戦映画の傑作中の傑作なので、ぜひ見てほしいです。

あらすじは、心優しい兵士が特別に6日間の休暇を与えられたため、往復だけで4日もかかる故郷の母のもとへ向かうというもの。宮崎駿監督もお気に入りの映画で、『魔女の宅急便』での「主人公のキキが列車の藁(わら)の中で眠る」シーンをほうふつとさせる場面もあったりします。

そして、途中で出会う少女と「お互いに好意を寄せていたかもしれない」のに「それはこのわずかな時間だけで、そのあとは永遠の別れをするしかない」という悲劇性は『レゼ篇』の物語とも一致します。また、『誓いの休暇』がソ連の映画であることも、ソ連からやって来たレゼの境遇とシンクロしているとも言えるかもしれません。さらに、『レゼ篇』のマキマは「友達が田舎の方に畑を持っていてね、毎年秋頃に少し仕事を手伝いに行くんだ」とも言っており、これは『誓いの休暇』でわずかな時間だけでも母に会いたいと願った兵士の気持ちと、部分的に一致しているようにも思えるのです。

10本に1回くらいしか面白い映画には出会えないかもしれない。それでも……

重要なのは、劇中の映画が『誓いの休暇』なのかどうかよりも、デンジが「あのラスト、絶対 死ぬまで忘れないと思います」と言っていることでしょう。

ガイドブックでは藤本タツキは「映画そのものは面白かったわけではないのかもしれない。自分でもそう思うことはあっても、『あのシーンだけは面白かった』ということを覚えていることがあります。それを誰かと共有できるのは幸せですね」と語っています。

その通りで、映画を見た後の誰かとの感想も共有も、映画を見る醍醐味(だいごみ)ですし、ひいてはどんなことがきっかけでも「誰かと同じ気持ちになる」ことは、それがたとえ一時的なことであっても、とても尊いことなのかもしれません。デンジとレゼも、たとえ刹那的であっても、同じ幸せを共有していたのかもしれません。

さらに重要なのは、マキマの「私も10本に1本くらいしか面白い映画には出会えないよ。でもその1本に人生を変えられたことがあるんだ」という言葉。さすがに極端な確率ではありますが、映画には人生を変える力さえあると信じている、藤本タツキの映画への愛情がはっきりと表れている言葉だと思うのです。

余談ですが、藤本タツキの初連載作品『ファイアパンチ』の劇中では熱狂的な映画マニアの「トガタ」というキャラクターが登場しており、「面白ければなにしてもいいんだよ、映画は」などの危うい言葉を告げる場面もあります。こちらでの映画への思いは愛情を超えて狂気へと突き進んでいるため、併せて読んでもきっと面白いでしょう。

やはり映画への愛情がたっぷり

さらに『チェンソーマン』はテレビアニメのオープニングでも『悪魔のいけにえ』や『貞子VS伽椰子』や『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』などの映画のパロディがあったり、単行本の折り返しの作者コメントでも藤本タツキが好きな映画を挙げていたりと、やはり映画からの引用、いや愛情を多分に詰め込んだ作品と言えるでしょう。『チェンソーマン』の原作が300万部を突破した時、藤本タツキは「とにかく自分の好きな作品を詰め込んでできているのでそれが伝わってくれているのなら嬉しいです!」ともコメントしているので、むしろそれをインタビューで伝えることが、彼にとっての「やりたいこと」だと、読めばこそ伝わってくるのです。

ほかにもガイドブックでは、藤本タツキが「アニメ『トップをねらえ!』で爆音のBGMで盛り上がっていく演出をやりたかった」ことや、編集者の林士平からの「映画および小説の『悪の教典』を思い出した」ことも語られています。

さらに、米津玄師との対談動画では、藤本タツキはNetflixで配信中の『喪(うしな)う』のある1つのシーンで「俺のために作られた映画だ!」と思ったことも熱弁しています(動画の23分20秒ごろから)。そんなわけで、『チェンソーマン』に込められた映画の元ネタやリスペクトを語るとキリがないというわけですが、何より今回の『レゼ篇』をきっかけに、それらの映画に触れるきっかけになれればいいなと、映画ファンの筆者としても思うばかり。この『レゼ篇』のほかにも、あなただけの「10本に1本の人生を変えられた映画」を見つけてみてほしいです。

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

元記事で読む
の記事をもっとみる