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その教師に誰もが惑わされる…『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』『悪の教典』『セッション』など、映画に出てきたヤバすぎる教師たち

  • 2025.6.20

綾野剛を主演に迎えた三池崇史監督による最新作『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』が6月27日(金)から全国公開される。教師による犯罪を取り上げるニュースも目新しくない今日だが、この作品で描かれているのもそのニュースの一つだった。本作は2003年に日本で初めて認定された、教師による児童虐待事件を追った福田ますみのルポルタージュ「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」を映画化した、真実の物語だ。ほかにも、これまで映画のなかでは物議を醸す教師の姿が何度も描かれてきた。観る者を戦慄させ、正義と悪の境目や、倫理観について疑問を投げかけてきた“ヤバすぎる教師”たちをピックアップしてみたい。

【写真を見る】綾野剛のゾクッとする目つき…圧倒的演技で“殺人教師”の薮下を演じ、観る者をまどわす

【写真を見る】綾野剛のゾクッとする目つき…圧倒的演技で“殺人教師”の薮下を演じ、観る者をまどわす [c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会
【写真を見る】綾野剛のゾクッとする目つき…圧倒的演技で“殺人教師”の薮下を演じ、観る者をまどわす [c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

“でっちあげ”たのは教師か、親子か?『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』

小学校教諭の薮下誠一(綾野剛)は受け持ちの児童の母親である氷室律子(柴咲コウ)から、息子に対する体罰や暴言、自殺強要に対する謝罪を求められた。その場は薮下の謝罪で収まったかに思えたが、氷室夫妻からの相談を受けた記者の鳴海(亀梨和也)が週刊誌で「殺人教師」と書き立てたことで事態は深刻化。民事訴訟にまで発展し、彼女のもとに550人の大弁護団が集結した。しかし裁判が始まると薮下は、すべて氷室律子と息子によるでっちあげだと容疑を全面否認し始める…。

劇中で描かれる薮下による執拗な虐めや暴言は、指導の域を逸脱というレベルではなく暴力そのもの。母親に対しても家庭訪問で身勝手な持論を押しつけるばかり。観る者の不安を煽るカメラワークなど三池監督らしい凝った画作り、親しげに生徒に近づき笑みを浮かべながら、冷たい目で虐めを繰り返す綾野の演技に、思わず背筋が寒くなる。

生徒想いで保護者からの評判もよかった薮下 [c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会
生徒想いで保護者からの評判もよかった薮下 [c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

いきすぎた彼の姿には憤りを禁じ得ないなか、物語の視点が変わり、薮下の目線で物語が展開すると、家庭訪問の際には常日頃から生徒のことをよく見ている様子、クラスの児童たちが喧嘩をしていたらすぐに止めに入る姿、暴力はダメだときちんと叱る場面も見受けられる。物語が進むにつれ、「殺人教師」とはとても思えないような薮下の姿が見えてくる一方、母親の律子の言動に違和感を覚え始めると、観客も混乱してくる。なにが彼を殺人教師に変えたのか、そもそも彼は本当に殺人教師だったのか?大きな振り幅で、見え方が全く異なる薮下を演じ分けた綾野の巧さにも注目したい。やがて裁判を通し衝撃の真実が浮かび上がっていくが、最後まで観る者を惑わせる緻密な展開に、いったいどれを“真実”と捉えるべきか、わからなくなってしまう。鑑賞後に、誰かと結末について語り合いたくなること請け合いだ。

息子の拓翔が、担任の薮下から体罰を受けたとして告発した保護者、律子 [c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会
息子の拓翔が、担任の薮下から体罰を受けたとして告発した保護者、律子 [c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

目的のためなら殺しも厭わぬサイコパス教師『悪の教典』

他人への共感能力を持たず、自身の目的のために生徒の惨殺を画策する蓮実聖司が登場する『悪の教典』 『悪の教典』 発売中 Blu-ray5,170円(税込)/DVD4,180円(税込) 発売元:電通 販売元:東宝 [c]2012「悪の教典」製作委員会
他人への共感能力を持たず、自身の目的のために生徒の惨殺を画策する蓮実聖司が登場する『悪の教典』 『悪の教典』 発売中 Blu-ray5,170円(税込)/DVD4,180円(税込) 発売元:電通 販売元:東宝 [c]2012「悪の教典」製作委員会

貴志祐介による同名小説を、『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』と同じく三池監督が映画化したサイコスリラー。生徒や教師を次々に手にかけていく教師を描いた衝撃作だ。明るく面倒見のよい性格で、同僚や生徒から信頼の厚い高校の英語教師ハスミンこと蓮実(伊藤英明)。ところが彼は他者への共感力を持たず、目的のためなら生徒も使い捨てにする冷酷な裏の顔を持っていた。ある時、蓮実は自分の犯罪行為を隠すため、慌ただしい文化祭の準備に紛れて、ある計画を実行する。

誰にでもフランクに接し人々の輪に入り込む力に長けた蓮実は、常に周りに目を配り、邪魔者はためらうことなく排除する超危険な男。ただし殺しは手段にすぎないところが、シリアルキラーとは一線を画している。万引きしているところを体育教師に見られた女子生徒が、口止め料として体を求められているのを知った時には店を訪れ謝罪。穏便に収めたあとに生徒に体育教師と関わらないよう諭す姿も見てとれた。もっともそれは、彼女を手なずけるのが目的でもあるのだが…。“人気教師”としての地位を確立していた蓮実。教師として世間一般的に必要とされるスキルや生き方を送れる人間も、その人自身が“善”であるかは、容易に知れるものではないと思い知らされる。劇中では蓮実の内なる声や、少年時代の姿も描かれた。はたして彼という男が何者なのか、映画で確かめてほしい。

娘を失った女性教師の復讐劇『告白』

愛娘の死には自身が受け持つ生徒が関わっていると疑う森口が、自らの手で復讐するために動く『告白』 『告白』 発売中 Blu-ray完全版6,270円(税込)/DVD完全版5,170円(税込)/DVD特別価格版3,080円(税込) 発売元・販売元:東宝 [c]2010 「告白」製作委員会
愛娘の死には自身が受け持つ生徒が関わっていると疑う森口が、自らの手で復讐するために動く『告白』 『告白』 発売中 Blu-ray完全版6,270円(税込)/DVD完全版5,170円(税込)/DVD特別価格版3,080円(税込) 発売元・販売元:東宝 [c]2010 「告白」製作委員会

湊かなえのベストセラー小説を中島哲也が映画化。自分の娘を殺した生徒に復讐する教師を描いたサスペンスだ。シングルマザーの教師、森口(松たか子)は、職員会議で遅くなる日は幼い娘の愛美(芦田愛菜)を学校の保健室で過ごさせていた。ところがある日、愛美は学校のプールで溺死してしまう。警察は事故と断定したが、森口は自分のクラスの生徒2人が犯人だと突き止める。

終業式の日、森口は娘の事故の経緯や、今日で教師を辞めること、そして娘の復讐をしたことをクラスの生徒に告白。学校で配られた牛乳のうち、犯人たちの分にエイズを発症したHIV患者の血液を混入したという。感情をなくしたように淡々と顛末を語る森口の口調が怖い。彼女は犯人の名前を公表せずA、Bとして話をしたが、クラスメイトはすぐに誰なのかを察知。新学期が始まると犯人の1人はエイズ発症を恐れ家に引きこもり、もう1人は激しいいじめの対象になっていく。それは森口のねらいだったのか、そもそも彼女の目的は復讐なのだろうか?母親としてではなく1人の教師として、犯人の“更生”を願う想いもあっての行動だったのか…。ラストシーンで彼女が口にする、すべての想いを込めたひと言に注目してほしい。

『でっちあげ』にも通ずる?体罰、暴言を告発された小学校教師『怪物』

『怪物』では、生徒想いだがあることをきっかけに保護者やメディアから体罰教師としてバッシングされる保利が登場 『怪物』 発売中 Blu-ray豪華版7,700円(税込)/DVD豪華版6,600円(税込)/DVD通常版4,400円(税込) 発売元・販売元:東宝 [c]2023「怪物」製作委員会
『怪物』では、生徒想いだがあることをきっかけに保護者やメディアから体罰教師としてバッシングされる保利が登場 『怪物』 発売中 Blu-ray豪華版7,700円(税込)/DVD豪華版6,600円(税込)/DVD通常版4,400円(税込) 発売元・販売元:東宝 [c]2023「怪物」製作委員会

『万引き家族』(18)でカンヌ国際映画祭の最高賞に輝いた是枝裕和監督作。小学校5年の湊(黒川想矢)と暮らすシングルマザーの早織(安藤サクラ)は、近ごろ様子がおかしい息子が担任の保利(永山瑛太)から体罰を受けていたと知る。早織は学校に乗り込むが、校長はじめ教師たちの対応はおざなりなうえ、保利は湊がクラスメイトをいじめていると言いだした。

本作の保利はこの学校に赴任したばかりの新任教師。真面目で子どもたちにも親身に接しているが、湊に対しては給食抜きを言い渡したり、出血するまで耳をつねるなど体罰を繰り返す。早織が学校を訪ねた時も謝罪はせず、誤解を与える指導だったと釈明するのみ。さらに子どもを心配しすぎるのは「母子家庭あるある」とまでつぶやいた。まさに絵に描いたような不良教師だ。保護者への説明会では、湊を殴って腕をねじ上げ「おまえの脳は豚の脳だ」と暴言を吐いたことを謝罪をしたが…。映画は母親、教師、子どもたちの視点から一連の出来事が描かれる。はたして保利の体罰や暴言は、すべて実際に起こったことなのか、やがて“真実”が明かされていく。子どもの世界の物語に軸を置いた作品だが、母親と学校側の対峙をヒリヒリするリアリティをもって描き、『でっちあげ』にも通じる部分がある作品だ。

典型的な昭和教師が、生徒を殺し合いへといざなう『バトル・ロワイアル』

無人島に連れて行かれた中学生たちが、かつての担任によって殺し合いゲームに参加させられる『バトル・ロワイアル』 『バトル・ロワイアル』 発売中 DVD5,720円(税込) 発売元・販売元:東映ビデオ [c]2000 「バトル・ロワイアル」製作委員会
無人島に連れて行かれた中学生たちが、かつての担任によって殺し合いゲームに参加させられる『バトル・ロワイアル』 『バトル・ロワイアル』 発売中 DVD5,720円(税込) 発売元・販売元:東映ビデオ [c]2000 「バトル・ロワイアル」製作委員会

高見広春のベストセラー小説を深作欣二が映画化。国家が中学生に殺し合いを強いる内容が物議を醸し、政治家が公開を規制すべきと発言したことも手伝って社会現象を巻き起こす大ヒットを記録した問題作だ。経済危機によって失業者があふれ治安が悪化するなか、全国の中学校から選ばれたクラスの生徒に殺し合いをさせる、新世紀教育改革法「BR法」が制定された。選ばれたクラスの担当キタノ(ビートたけし)は修学旅行と偽り、七原(藤原竜也)や中川(前田亜季)ら生徒たちと無人島に向かい、彼らに銃を突き付け殺し合いをするよう強要する。

映画の舞台は大人が威厳を失くし、若者たちに怯えるように生きている世界。学校では体罰は厳禁され、生徒ファーストが徹底されていた。しかしキタノはその風潮になじめず、悶々とした日々を送っていた。そんなキタノは殺し合いの舞台となる無人島に着くと、言うことを聞かない自分勝手な生徒を、ナイフや逃走防止用爆弾で次々に処刑するなど、暴君気取りで振る舞っていく。その一方で教師として、また親としての苦悩も吐露。生徒たちの血で血を洗うバトルシーンの最中に、唯一彼の授業を真面目に受けていた中川や、自分を嫌う娘に託したメッセージに、彼の素顔や若者たちへのエールが見え隠れする。物語のクライマックスでキタノが繰り返す言葉に、感じるものがあるはずだ。

天才を生みだすことに取り憑かれたパワハラ教師『セッション』

ジャズドラマーを目指す青年が厳格な指導者に追い詰められつつもドラマーとして成長していく『セッション』 [c]Everett Collection/AFLO
ジャズドラマーを目指す青年が厳格な指導者に追い詰められつつもドラマーとして成長していく『セッション』 [c]Everett Collection/AFLO

名門音楽学校を舞台に、ドラマー志望の青年とスパルタ教師の確執を描いたスリリングなヒューマンドラマ。のちに『ラ・ラ・ランド』(16)でアカデミー監督賞に輝くデイミアン・チャゼルの出世作だ。ジャズドラマーを目指して名門音楽学校に入学したアンドリュー(マイルズ・テラー)は、伝説の教師フレッチャー(J・K・シモンズ)に認められ、彼のクラスで学ぶことになった。罵声が飛び交うフレッチャーの攻撃的な指導のもと、しだいにアンドリューは狂気の淵に追い込まれていく。ケガをしたまま大会に出場しフレッチャーにダメ出しをされたアンドリューは怒りに駆られ、彼のいきすぎた指導を学校に通報してしまう…。

完璧主義のフレッチャーは些細なミスも見逃さず、激しい口調で生徒たちを責め立てる。言ってできなければイスを投げつけ、それでもダメなら平手打ちを連打する姿はまさに鬼軍曹。厳しい指導のもとアンドリューは実力を発揮していくが、容赦ない指導をめぐってフレッチャーと対立。ジャズ・フェスティバルに出場したアンドリューは、フレッチャーの指揮や曲を無視してソロでドラムを叩いていく。両者の間に激しい火花が飛び交うが、その時に見せるフレッチャーの表情が、命懸けで音楽に携わってきた彼の真意を伝えてくれる。暴力はもちろん許されることではないが、狂気の指導の先で、常人には行きつけない領域にたどり着いた2人の関係性は、多くの物議を醸した。

薮下の本当の姿は?綾野剛の怪演にも目が離せない [c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会
薮下の本当の姿は?綾野剛の怪演にも目が離せない [c]2007 福田ますみ/新潮社 [c]2025「でっちあげ」製作委員会

生徒の育成や指導、管理を担う学校において、教師は絶対的な存在だ。ここで紹介した作品たちは、そんな教師のポジションを生かしたリアルな怖さが魅力。同時に学校は閉じた世界で、そのことも学校におけるトラブルが絶えない理由であると言える。はたして薮下の本当の姿は?二転三転しながら真実に突き進む展開も『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』の魅力。衝撃の真相を、映画館で確認してほしい。

文/神武団四郎

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