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『メガロポリス』がより深く楽しめる!フランシス・F・コッポラ監督最新作のストーリーやキャラをイラストでまるわかり解説

  • 2025.6.19

フランシス・フォード・コッポラの14年ぶりの最新監督作『メガロポリス』(6月20日公開)。「ゴッドファーザー」シリーズ、『地獄の黙示録』(79)など映画史に残るモニュメントを手掛けてきたコッポラが40年の歳月をかけた本作は、アメリカをローマ帝国に見立てた巨大都市にして未来都市、メガロポリス建造の夢に取りつかれた男を描いた超大作だ。理想と現実の争いや、多彩な人々が織り成す愛憎劇など様々な要素を盛り込んだ本作のストーリーやキャラクター相関図、見どころをイラストレーターの五月女ケイ子による描き下ろしイラストと共に徹底紹介。これを読めばより深く本作の世界を味わえるだろう。

【写真を見る】五月女ケイ子が『メガロポリス』の世界を描き下ろし!「巨匠の縦横無尽な映像の洪水におぼれました」と明かす

押えておきたい!個性あふれる登場人物たちの相関関係

物語の舞台となるのは、21世紀、富裕層と貧困層の格差が社会問題となっているアメリカ共和国の大都市ニューローマ。新都市メガロポリスの開発を推進する天才建築家のカエサル・カティリナは、財政難のなか利権に固執する市長フランクリン・キケロと真正面から対立する。さらに、一族の策略にも巻き込まれたことでカエサルは絶体絶命の危機に直面してしまう…。まずは主人公のカエサルをはじめ、新都市メガロポリスを取り巻く、強烈な個性を放つキャラクターを紹介したい。

五月女ケイ子のイラストでまるわかり!『メガロポリス』の相関図 イラスト/五月女ケイ子
五月女ケイ子のイラストでまるわかり!『メガロポリス』の相関図 イラスト/五月女ケイ子

●カエサル・カティリナ(アダム・ドライバー)

新都市“メガロポリス”開発を推進する天才建築家、カエサル・カティリナ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
新都市“メガロポリス”開発を推進する天才建築家、カエサル・カティリナ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

新都市メガロポリスの開発を推進するニューローマの都市計画局局長。名門クラッスス一族の出身で、優れた建築家であり永久に持続する新建築素材メガロンの発明でノーベル賞を受賞した科学者でもある。誰もが平等に暮らせる都市づくりという理想的なビジョンを掲げているが、皮肉屋で独善的な性格から敵も多い。妻を亡くし、その殺人容疑をかけられた過去を持つ。なかなか他人に心を開かないが、ジュリアと出会い恋に落ちる。時間を止める特殊な能力を持っている。

●フランクリン・キケロ市長(ジャンカルロ・エスポジート)

カエサルと真っ向から対立する、ニューローマの市長フランクリン・キケロ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
カエサルと真っ向から対立する、ニューローマの市長フランクリン・キケロ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

検事出身のニューローマの新市長。財政立て直しのため教師や警察官のリストラを断行し、カジノの建設など改革を推し進める。現実主義で利権にまみれたその手法は、理想主義のカエサルとは水と油。検事時代に証拠不十分のままカエサルを妻殺しで告発した張本人で、娘ジュリアが彼を愛していると知り衝撃を受ける。

●ジュリア・キケロ(ナタリー・エマニュエル)

市長キケロの娘でありながら、カエサルの考えに共感するジュリア・キケロ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
市長キケロの娘でありながら、カエサルの考えに共感するジュリア・キケロ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

キケロ市長の娘。パーティ三昧の怠惰な日々を送っていたが、ビルの解体現場で時間を止める能力を使うカエサルを見かけ、彼に興味を抱く。父親の敵として憎しみを抱いていたが、メガロポリス構想に共感して助手を務めるようになる。カエサルと父の関係を取り持つために奔走するなか、カエサルの情熱や純粋さに触れ愛するようになる。

カエサルを陥れようとするのは…個性強すぎなキャラばかり!?

●ハミルトン・クラッスス3世(ジョン・ヴォイト)

メガロポリス開発計画をあと押しする、大富豪な叔父ハミルトン・クラッスス3世 [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
メガロポリス開発計画をあと押しする、大富豪な叔父ハミルトン・クラッスス3世 [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

カエサルの伯父で銀行の頭取を務めるニューローマきっての大富豪。カエサルの才能や情熱を高く評価し、メガロポリス開発の後ろ盾として資金援助を行っている。絶大な権力と影響力を持っているが、自分を追い落とそうとする孫のクローディオ・プルケルや妻ワオ・プラチナムの企みを知って心を痛める。

●クローディオ・プルケル(シャイア・ラブーフ)

カエサルを敵視する従兄弟のクローディオ・プルケル [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
カエサルを敵視する従兄弟のクローディオ・プルケル [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

カエサルの従兄弟でクラッスス3世の孫。自己中心的で放蕩生活を続けているためクラッスス3世からの評価は低く、一族の後継者だが相続人になれるかどうか常に危機感を抱いている。ジュリアに想いを寄せていたこともあり、嫉妬や憎しみに駆られてカエサルを失脚させようと画策する。

●ワオ・プラチナム(オーブリー・プラザ)

カエサルの恋人でもある、野心的な金融ジャーナリストのワオ・プラチナム [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
カエサルの恋人でもある、野心的な金融ジャーナリストのワオ・プラチナム [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

カエサルの恋人で、ナルシストで野心家の金融ジャーナリスト。カエサルの妻の座をねらっていたが、破局したあとはカエサルの伯父で大富豪のクラッスス3世に取り入ってその妻になる。クローディオをそそのかし、銀行などクラッスス3世の財産を奪い取ろうと画策。カエサルにも未練があり、ジュリアを敵視している。

●フンディ・ロマイーネ(ローレンス・フィッシュバーン)

カエサルをサポートする補佐役兼運転手のフンディ・ロマイーネ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
カエサルをサポートする補佐役兼運転手のフンディ・ロマイーネ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

シトロエンDSのハンドルを握るカエサルの運転手で、アシスタントやボディガードの役目も担う。つねにカエサルと行動を共にし、アイコンタクトやジェスチャーでのコミュニケーションも可能な右腕的存在。

理想郷メガロポリス建築を目指す男の波乱に満ちたストーリー

21世紀の架空の国家、アメリカ共和国の大都市ニューローマ。市の都市計画局局長カエサルは、貧困や格差など多くの問題を抱えたこの街を誰もが平等に暮らせる理想郷“メガロポリス”にする開発計画を推進。叔父で銀行家の大富豪クラッスス3世のあと押しを受け、計画を進めていた。ところが新たに市長になったキケロは財政立て直しに必要なのは理想ではなく現実だと、公務員のリストラやカジノ誘致など実利主義を掲げメガロポリス計画を否定。両者の対立にニューローマ中が注目していた。

【写真を見る】五月女ケイ子が『メガロポリス』の世界を描き下ろし!「巨匠の縦横無尽な映像の洪水におぼれました」と明かす イラスト/五月女ケイ子
【写真を見る】五月女ケイ子が『メガロポリス』の世界を描き下ろし!「巨匠の縦横無尽な映像の洪水におぼれました」と明かす イラスト/五月女ケイ子

キケロの娘ジュリアは、時間を止める能力を使うカエサルに興味を持ち、彼のオフィスを訪問。そこでメガロポリス計画やその要となるメガロンの可能性に共感し、カエサルの助手として働くことになる。クラッスス3世が期待を寄せるカエサルに嫉妬心を抱いていた従兄弟クローディオは、ジュリアに好意を持っていたため彼への憎しみをさらに強めていく。そんななか、カエサルの元恋人の金融ジャーナリスト、ワオはクラッスス3世と結婚。野心家の彼女は、クローディオを手なづけて夫の資産を手に入れようとする。

カエサルの考えに共感したジュリアは、カエサルと父の関係を取り持つために奔走する [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
カエサルの考えに共感したジュリアは、カエサルと父の関係を取り持つために奔走する [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

やがてジュリアはカエサルの子どもを身ごもる。それを知ったキケロはショックを受け、カエサルのもとを訪れ娘と別れてほしいと懇願。そのためなら、これまで自分が行ってきた不正をすべて明かしてもよいという。そんなある晩、側近フンディと車に乗っていたカエサルは凶弾に倒れてしまう…。

現在のアメリカの姿にも重なる物語

コッポラが本作に着手したのは1980年代初頭のこと。将来の脚本のために、歴史や政治など様々なアイデアの断片をメモやスクラップブックで収集し始めたのがきっかけだ。平等な社会を作るため古代ローマの貴族カティリナが計画したクーデター「カティリナの陰謀」に触発されたコッポラは、現代アメリカを舞台にした壮大な叙事詩として本作を構想。カティリナと彼を弾劾したキケロの図式をそのまま活かし、現在のニューヨークに古代ローマを重ねた架空の都市ニューローマの物語が完成した。「ニューヨークに行けば、ローマ時代の建物で埋め尽くされていることに気づかされるだろう」と語るコッポラ。見た目だけでなく貧富が二極化された格差社会、理想主義と現実主義による分断などその世界観は現在のアメリカ社会を彷彿とさせる。

古代ローマに現代のアメリカの姿を重ね合わせ生まれた近未来ニューローマ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
古代ローマに現代のアメリカの姿を重ね合わせ生まれた近未来ニューローマ [c] 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

主人公の名は平民派出身の政治家・軍人でローマの都市計画を推進したカエサルに変更されたが、宿敵キケロのほかクラッスス3世やクローディオなど主要キャラクターはネーミングを含めローマ史に登場する人物を基に設定。セレブが集うナイトクラブや妻殺しの冤罪事件、金融危機など劇中の事柄やエピソードは、実際にニューヨークで起きた出来事をモチーフに作られた。ジョセフ・コンラッドの小説「闇の奥」を、ベトナム戦争に重ねて『地獄の黙示録』を生みだしたコッポラらしいアプローチだ。

多額の私財を投じて実現させた“執念の一本”

理想郷メガロポリスの構想に魅せられる神秘的なシーンを、五月女ケイ子が表現! イラスト/五月女ケイ子
理想郷メガロポリスの構想に魅せられる神秘的なシーンを、五月女ケイ子が表現! イラスト/五月女ケイ子

こだわりのデザインワークも魅力の一つ。鉄やコンクリートを廃して永久に持続する新素材メガロンを使ったメガロポリスは、そこに暮らす人々の精神をも高める理想の都市。光り輝く摩天楼、川のように流れる道路など光り輝く優雅な景観に息をのむ。有機的なメガロポリスと対照的に直線を強調したニューローマのセットデザイン、古代ローマの戦車レースを再現した豪華絢爛なナイトクラブなど、イマジネーション豊かな世界が味わえる。

制作にあたりコッポラは、私財を投じて1億2000万ドル(約186億円)もの製作費を捻出。スタジオの意向を気にせず、撮りたいものを撮るというスタンスで制作された。1960年代の終わりにサンフランシスコに移ったコッポラは、ジョージ・ルーカスと制作会社アメリカン・ゾエトロープを設立。ハリウッドにはない自由な環境でキャリアを重ねた彼にとって、本作は原点回帰といえる。なおこの作品は、映画の完成を見届けるように2024年4月に死去したコッポラの妻で映画監督のエレノア・コッポラに捧げられた。

企画から40年もの時を経て完成した本作は、コッポラにとって執念の一本。メガロポリスに命を懸けて打ち込むカエサルは、キャリアを通しメジャースタジオと戦いながら映画を作り続けてきたコッポラ自身と重なって見える。撮影にはラージフォーマットが採用され、光り輝くメガロポリスなどスケール感あるシーンはIMAXカメラで撮影。自由な表現に挑み続けてきたコッポラだからこそ成し遂げた映像世界を、映画館で体感してみてはいかがだろうか。

文/神武団四郎

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