1. トップ
  2. フランシス・F・コッポラ監督が『メガロポリス』に込めた願いと“未来を予見する力”「人類がひとつの家族となって助け合い、次世代に幸せを届けたい」

フランシス・F・コッポラ監督が『メガロポリス』に込めた願いと“未来を予見する力”「人類がひとつの家族となって助け合い、次世代に幸せを届けたい」

  • 2025.6.18

「ゴッドファーザー」シリーズ、そして『地獄の黙示録』(79)…映画史にその名を刻む傑作を撮ってきたハリウッドの名匠、今年で齢86を迎えたフランシス・フォード・コッポラが13年ぶりにメガホンを取った『メガロポリス』が6月20日(金)公開される。構想40年という本作はコッポラがずっと温めてきた文字どおりの宿願作。そう遠くない未来のアメリカの架空の大都市ニューローマを舞台に、誰もが幸せに暮らせる理想の都市“メガロポリス”の創建を夢見る天才建築家の姿を追った寓話でありファンタジーだ。今回は、私財を投げうってまで本作の完成に漕ぎつけたコッポラに、その熱い想いを語ってもらった。

【写真を見る】『メガロポリス』撮影現場での、アダム・ドライバーとコッポラ

「人類の歴史には多くの学びが散りばめられている」

――古代のローマと近未来のニューローマを重ね合わせることで“いま”を創造しようとしている作品だと思ったのですが、いかがでしょうか?

「私はこれまで、長い人生のなかで数多くの古代ローマを舞台にした叙事詩を観てきました。ウィリアム・ワイラーの『ベン・ハー』(59)、スタンリー・キューブリックの『スパルタカス』(60)がそのいい例です。そうするなかで、もし自分だったらどういうふうに撮るだろうかという考えに至ったんです。そもそも私が住む国、アメリカは王国ではなく、共和制を選び、ローマの法律を取り入れました。それを土台に上院や議会を創設した。ならば、アメリカはモダンタイム(現代)のローマと考えていいのではと思ったんです。さらに、古代ローマの歴史をひも解くと、結局彼らは共和制を失い、暗殺されたカエサルに代わって彼の養子、オクタビウス(のちのアウグストゥス)がローマの支配者として君臨することになった。同じことをアメリカを舞台に描いたらどうなるだろうという私の答えがこの映画になりました。いまのアメリカの状況をみていると、上院や議会という制度が乗っ取られ、王政が敷かれるかもしれないと考えたからです」。

コッポラ監督が約186億円もの私財を投じて映像化したSF叙事詩『メガロポリス』 [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
コッポラ監督が約186億円もの私財を投じて映像化したSF叙事詩『メガロポリス』 [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

――人類の歩んできた歴史を考えることが重要だと思っているんですね?

「人類の歴史のうち、知られているのはほんのわずかです。記録があって遡れるのはせいぜい1万年くらいでしょうか。そのなかで、人間は馬との関係性を築いたんです。馬がいなかったらクロサワ(黒澤明)も『七人の侍』(54)を撮れなかったんですよ(笑)。ホモ・サピエンスが氷河期を生き延びることができたのも、お互いに助け合ったからです。そうじゃないと死ぬしかなかったでしょうね。だから私は、友情=サバイバルであり学びであると思っています。私たちは、殺し合い、憎しみ合うのではなく、お互いが生き抜くためにはなにをやればいいのかを考えるべきなんです。例えばギリシャ神話から学ぶのもいいですよね。兄弟や親子で殺し合う話がたくさんあり、そこから学べるのは、結局はその人を殺せばまた敵が生まれるということ。人類の歴史には多くの学びが散りばめられているんですよ」。

コッポラ監督が表現する、豪華絢爛な世界に圧倒される…! [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
コッポラ監督が表現する、豪華絢爛な世界に圧倒される…! [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

――長いキャリアを誇るあなたですが、こういうSFファンタジーはほぼ初めてです。これまでそういう作品を撮るチャンスはなかったんですか?

「映画業界の人はすぐそうやってカテゴライズしてしまいます(笑)。私は映画は、カテゴリーやジャンルではなく、シネマでありアートだと思っているので、この作品がどのジャンルに属するのかというふうには考えていません。それでも敢えていうのなら『寓話』であり『ファンタジー』でしょうか。寓話というのは道徳的要素をもち、表面的に見えるものとは別の意味を持つ場合が多い。この映画には私の願いも込められていますから」。

願いは「人類がみんなひとつの家族となってお互い助け合うこと」

カエサルの思いに共感し、彼の元で働き始めるキケロの娘、ジュリア・キケロ(ナタリー・エマニュエル) [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
カエサルの思いに共感し、彼の元で働き始めるキケロの娘、ジュリア・キケロ(ナタリー・エマニュエル) [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

――“私の願い”とはなんでしょうか?

「人類がみんなひとつの家族となってお互い助け合うことです。いまは『国』で分かれていますが、私の夢は文化や音楽、芸術や食を維持したうえで国境をなくし、ひとつの家族になることです。そもそも地球は私たちの『家』であって国境などはないはず。でも、そういう概念を生み出したのは私たち人間なんです。私は86歳で、ひ孫もいます。本来ならば、楽園のような世界を次の世代に残せるはずだったのですが、こんなふうになってしまった。権力の間違った使い方、地球に対しての環境破壊、そういうことを考え直し、次世代の子どもたちに幸せを届けたいと思っています。私たちは、絶対に幸せな世界と社会を築けるはずです。この映画は、そういう私の考えであり願いに基づいているのです。子どもたちのなかに、将来のクロサワや(セルゲイ・)エイジェンシュテイン、モーツァルト、ミシマ(三島由紀夫)のようなアーティストがいるかもしれないでしょ?」

「人間は誰しも天賦の才をもっていると信じている。私の場合は未来を予見する力」

カエサルと対立し、財政難を現実的に解決しようとする新市長のフランクリン・キケロ市長(ジャンカルロ・エスポジート) [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
カエサルと対立し、財政難を現実的に解決しようとする新市長のフランクリン・キケロ市長(ジャンカルロ・エスポジート) [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

――あなたはこの映画を寓話性が高いといい、実際に「寓話」というサブタイトルをつけています。でも、あまりにもいまのアメリカを予見していて「予言の書」というほうがふさわしいのではと思ってしまいました。

「それは正しいと思います。私は、人間は誰しも天賦の才をもっていると信じていて、それが私の場合は未来を予見する力なんだと思っています。私の映画が製作から歳月を経ても観てもらえるのはそこ。つまり、未来を予見しているからなのではないか、ということです。例えば『カンバセーション…盗聴…』(74)です。製作当時は『盗聴』ってなに?くらいの認識でしたが、それから10年後にウォーターゲート事件が起き俄然、真実味を帯びたんです。将来に意味を持つ映画ということではこの『メガロポリス』も同じです。いまのアメリカのリーダーは、共和制を崩壊させ王国を創ろうとしてようにも見えますよね?私は、民主主義、共和制を失い独裁者が生まれる気配を感じています」。

――いまアメリカに暮らしていて、いかがでしょう?

「いや、本当に恐ろしい。果たしてアメリカの国民がこの状況をどれだけ理解しているのか?ちゃんと理解していれば希望はありますが…あまりにばかげた状況で、ジョークにすらできないくらいですよ」。

カエサルの伯父で大富豪。銀行の頭取であるハミルトン・クラッスス3世(ジョン・ヴォイト) [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
カエサルの伯父で大富豪。銀行の頭取であるハミルトン・クラッスス3世(ジョン・ヴォイト) [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

――そういうなかで、メガロポリスのような理想的な都市を築けるのはアーティストだと、あなたは本作で言っていますね。

「そうです。決して政治家ではありません。私はそれができるのはアーティストだと思っています。彼らの役割は現代の生活に光を当てること。ヘッドライトになることであり芸術を創造することです。現代アートではなく芸術ですよ。現代アートは、自分たちが食べるにもかかわらず栄養のないハンバーガーを作っているようなものですから。私の希望は、アメリカのアーティストたちがいま起きていることに光を当て、人々に見せることです。なぜなら、見えなければ行動は起こせないから。私はその昔、舞台や映画を手掛けた高名なプロデューサーのジョゼフ・パップに、プロジェクトを選ぶ基準について尋ねたことがあります。彼は忘れられない答えを返してくれました。『私はいまの生活を照らすようなプロジェクトを選ぶ。それがアーティストのすべきことだと思っているから』と」。

「『メガロポリス』はほかの映画とはまったくの別物」

大都市ニューローマを舞台に、現代社会への憂いや人類への愛、未来への希望を描『メガロポリス』 [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
大都市ニューローマを舞台に、現代社会への憂いや人類への愛、未来への希望を描『メガロポリス』 [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

――本作のエンドクレジットの“Special Thanks”には、そういうアーティストの名前が並んでいます。盟友のジョージ・ルーカスを筆頭にギレルモ・デル・トロやライアン・クーグラー、ジョン・ファブローたちです。彼らとのコラボレーションは?

「言うまでもなく、ジョージは私のもっとも古いコラボレーターですよ。もう弟のような存在で、お互いにサポートするような関係性です。ほかの若いクリエイターたちもいろいろとサポートしてくれました。私のような老木が倒れても、彼らのような若い樹が育つのは重要なことです。私の息子のローマン(・コッポラ)もサポートしてくれたし、バリー・レビンソンやスティーヴン・ソダーバーグもやってくれた。私もスティーヴン(・スピルバーグ)のように若い才能を支援したいんです」。

――そういう若手のなかで、ご自分と同じ資質を感じる監督はいますか?

「いやあ…そうですね…。若くはないんですが、同じイタリア系のマーティン(・スコセッシ)でしょうか、やっぱり(笑)」。

主演のアダム・ドライバーと監督のフランシス・フォード・コッポラ [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
主演のアダム・ドライバーと監督のフランシス・フォード・コッポラ [c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

――あなたは本作を撮るために大きなリスクを背負いました。それについてはどう考えていますか?

「『メガロポリス』はほかの映画とはまったくの別物でした。ほかに例のないような作品だったので様々な試みを試しましたし、そうすべきだとも考えていました。例えば役者との関わり方。出演してくれた役者全員が真の協力者です。自分の役割を演じるだけではなく、そのシーンの編集にも参加しました。すべてを一緒にやったんです。私はみんなと1本の映画を作ったという強い感覚をもっています。私たちは“チーム”だったんです。

もうひとつの理由は後悔したくなかったからです。私は、死ぬ間際に『ああ、あれをやればよかった』ではなく、『あれをやっておいてよかった』と思いたい。私はその時、自分が望むワインを作り上げたこと、娘がオスカーを受賞する姿(ソフィア・コッポラが自身の監督作『ロスト・イン・トランスレーション』で2004年にアカデミー脚本賞を受賞)を見たこと、そして、こうやって映画を完成させたことを思い出すでしょうね」。

取材・文/渡辺麻紀

元記事で読む
の記事をもっとみる