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「日本アニメに新たな風格をもたらした」仏アヌシー映画祭で快挙達成の『ChaO』!授賞式後のサイン攻めまで、現地の熱狂を詳細レポート

  • 2025.6.18

フランス南東部のアヌシーで、今年も現地時間6月8日から6月14日にかけて行われた、世界最大規模のアニメーション映画祭「アヌシー国際アニメーション映画祭」。世界各国から200を超える多種多様なアニメーション作品が集結したなか、映画祭のメインを飾る長編コンペティション部門でグランプリ“クリスタル賞”に次ぐ審査員賞に輝いたのが、日本から出品されたSTUDIO4℃の最新作『ChaO』(8月15日公開)だ。

【写真を見る】現地ファンからも大人気だったチャオのぬいぐるみがかわいい…

このたびMOVIE WALKER PRESSでは、本作でメガホンをとった青木康浩監督をはじめ、現地入りした『ChaO』チームの模様を独占レポート。現地メディアやファンとの交流に、世界最速上映会の様子。そして、世界中の誰よりも早く本作を鑑賞した現地のアニメファンたちの熱量たっぷりのコメントを、青木監督のインタビューや作品の注目ポイントを交えながら紹介していこう!

日本アニメと縁の深い仏アヌシー映画祭で、『ChaO』が8年ぶりの快挙を達成!

本作は、世界的に有名なアンデルセン童話の一つである「人魚姫」をベースにしたオリジナルアニメーション。人間と人魚が共存する未来社会。船舶をつくる会社で働くサラリーマンのステファン(声:鈴鹿央士)は、ある日、人魚王国のお姫様であるチャオ(声:山田杏奈)に求婚される。人間と人魚の友好関係のためと周囲が盛り上がるなか、訳もわからぬまま結婚を承諾するステファン。純粋でまっすぐなチャオの愛情を受けるうち、彼は徐々にチャオに惹かれていくのだが…。

歴史あるアヌシー国際アニメーション映画祭で世界初上映を迎えた『ChaO』 [c]2025「ChaO」製作委員会
歴史あるアヌシー国際アニメーション映画祭で世界初上映を迎えた『ChaO』 [c]2025「ChaO」製作委員会

1960年にカンヌ映画祭からアニメーション部門が独立するかたちで設立されたアヌシー国際アニメーション映画祭。湖に面した美しい景観から、“フレンチアルプスのヴェニス”や“フレンチアルプスの真珠”とも称される水の都アヌシーで行われる本映画祭は、ザグレブとオタワ、そして2020年に終了した広島と共に国際アニメーション映画協会の公認を受けた“世界4大アニメ映画祭”の一つとして知られ、そのなかでも最も長い歴史を誇る。

かつては2年に一度の開催だったが、1990年代後半からは毎年行われるようになり、今年で49回目の開催。世界的なアニメーションの発展と共に進化と拡大を続け、近年では長編や短編、テレビシリーズや広告、VR作品にいたるまで様々なプラットフォームの作品が一同に会す場に。アニメ界をリードするトップクリエイターの最新作や次代を担う学生クリエイターの作品まで幅広く上映され、アニメファンはもちろん映画ファンや業界関係者からも大きな注目が寄せられている映画祭だ。

満席の会場が、日本アニメへの注目度の高さを物語っている [c]2025「ChaO」製作委員会
満席の会場が、日本アニメへの注目度の高さを物語っている [c]2025「ChaO」製作委員会

日本のアニメ作品も、映画祭がスタートしてまもない1960年代から様々な作品が出品され、高い評価を獲得。まさにアニメが世界に誇る日本文化の一つとなった礎は、アヌシーが築きあげたといっても過言ではないだろう。長編コンペティション部門ではこれまで、宮崎駿監督の『紅の豚』(93)、高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』(95)、湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』(17)がクリスタル賞を受賞。また短編部門でも山村浩二監督の『頭山』(03)と、加藤久仁生監督の『つみきのいえ』(08)がグランプリに輝いている。

『ChaO』が受賞した審査員賞は、過去に原恵一監督の『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(15)と、片渕須直監督の『この世界の片隅に』(16)が受賞。今回の受賞は日本アニメにとって8年ぶりの快挙となった。

総作画枚数は10万枚超!アニメファンを驚嘆させたクオリティ

「STUDIO4℃のアニメーション技術で、世界に発信できる“まったく新しいオリジナルアニメーション作品”を作りたい」。STUDIO4℃の代表でもある田中栄子プロデューサーのそんな想いから、『ChaO』の企画が始動したのは2016年のこと。それから9年、資金調達の課題から制作中止の危機に瀕しながらもそれを乗り越え、ついに完成した本作は、現地時間6月13日に世界最速上映を迎えることに。

 企画スタートから9年。青木康浩監督はこれが待望の長編初監督作品 [c]2025「ChaO」製作委員会
企画スタートから9年。青木康浩監督はこれが待望の長編初監督作品 [c]2025「ChaO」製作委員会

会場となったのはアヌシー国際アニメーション映画祭のメインシアターであるBonlieu-Grande Salle。上映開始を前に、会場の外には長蛇の列が形成され、約1,000名を収容できるシアター内は本作の上映を待ち望む観客でごった返すなど、ただならぬ熱気に包まれていた。上映前の舞台挨拶に登壇した青木監督は、「皆さまにこの作品をお届けできることを大変誇りに思っています」と挨拶すると、“取扱い説明”として作品の見どころをアピール。

「様々なキャラクターが登場し、いろいろなことを散りばめては去っていきます。そして忘れたころにそのオチが急に現れます。非常に細かいネタを仕込んでいますので、そこを観逃さないでください。“混ぜるな危険”とよくいいますが、この作品はごちゃ混ぜです。人魚と人間、コメディとシリアス。そしてまさかのSTUDIO4℃での制作。ハッピー、スペクタクル、ユーモアを体感してください」。

アンデルセン童話「人魚姫」をベースに、独創的な物語が展開する『ChaO』 [c]2025「ChaO」製作委員会
アンデルセン童話「人魚姫」をベースに、独創的な物語が展開する『ChaO』 [c]2025「ChaO」製作委員会

約90分の上映中は、会場のいたるところから笑い声があがったり、拍手も湧き起こる大盛り上がり。上映終了後、興奮冷めやらぬ様子の観客たちに劇場前で直接話を聞いてみると、彼らから聞こえてきたのは「技術的にすばらしく、フィールグッドムービー」や「美しい映画で、アニメーションがとてもゴージャス」「大変洗練されている」といった、日本アニメの代名詞ともいえる緻密で精巧なアニメーション技術を評価する声の数々。

本作の舞台となっている人間と人魚が共存する未来都市は、中国の上海をモデルにして創りあげられた。混沌とした空気感を再現した緻密な陸上の街並みはもちろん、生き生きとした水の描写は“水の都”アヌシーの観客に刺さるものがあったのだろう。一般的な長編アニメ映画の総作画枚数は3〜4万枚といわれているが、本作の場合は10万枚超。そのためアニメーションには欠かせない“動き”が絶やされることはなく、目の肥えたアニメファンも驚嘆せずにいられなかったようだ。

一度見たら忘れられない個性的なキャラクターが続々登場 [c]2025「ChaO」製作委員会
一度見たら忘れられない個性的なキャラクターが続々登場 [c]2025「ChaO」製作委員会

また「キャラクターデザインが独創的で、古典的なものと一線を画しているのがクール」と、小島大和が手掛けた個性豊かなキャラクターデザインを高く評価する声も多数見受けられた。ステファンとチャオの恋模様を盛り上げてくれるユニークなキャラクター描写と、青木監督もアピールしていたエンタメ性の高さ。「映画に必要な要素がすべてそろっている」や「劇場全体が一体化しているようでした」など、大きなスクリーンで味わう喜びがぎっしりと詰め込まれていることを称賛する声も目立っていた。

フランスといえば、世界でも特筆して日本のアニメーション人気が高い国。「この作品も、高い関心をもって受け入れられると思います」や、「世界のどこでも楽しめる作品でしょう」と、本作の企画の原初であった“世界に通じる作品”であることに太鼓判がおされ、「Screendaily」の批評家ウェンディ・アイデ氏からも「鮮烈なビジュアルとエネルギッシュなスタイルで、爽快なほどアナーキーな物語が展開。日本アニメに新たな風格をもたらした」と高評価が寄せられている。

すでに北米配給も決定!世界でのさらなる飛躍に期待したい [c]2025「ChaO」製作委員会
すでに北米配給も決定!世界でのさらなる飛躍に期待したい [c]2025「ChaO」製作委員会

今後、北米を代表するジャンル映画祭のひとつであるファンタジア国際映画祭のコンペティション部門へ出品される『ChaO』。また『君たちはどう生きるか』(23)など、多くの日本アニメをアカデミー賞へ導いてきた実績のあるGKidsが北米配給を担当することもすでに決まっており、さらに世界にその名を轟かせてくれることだろう。

「胸がいっぱいで、言葉が出てこない」

「今回アヌシーで初めて観客の皆さんと映画を観て、『ここ笑うんだ!』というようなことや、お客さんの熱量が上がりはじめて一体感が生まれる瞬間を目の当たりにすることができました。このような感情がぶつかりあう感覚を味わうのは初めてだったので、あらためて『お客さんと一緒に劇場で映画を観るのって楽しいな』と感じました」。

笑いもスペクタクルもラブストーリーも、あらゆる要素が詰まったエンタメ感の高い仕上がりに [c]2025「ChaO」製作委員会
笑いもスペクタクルもラブストーリーも、あらゆる要素が詰まったエンタメ感の高い仕上がりに [c]2025「ChaO」製作委員会

そう語る青木監督は、1980年代にアニメーターとしてのキャリアをスタートさせ、テレビアニメから劇場アニメまで、数多くの人気作に作画監督や原画スタッフとして参加。『ChaO』が待望の初長編監督作品となった。これまで培ってきた経験やノウハウを注ぎ込んだ渾身作が、こうして海外の観客から熱烈に歓迎され、長編コンペティション部門審査員賞という栄誉まで勝ち取ったことに、格別の想いがあるだろう。

世界最速上映を終えた青木監督は、会場の外で大勢の観客に囲まれて一人一人と丁寧に言葉を交わしながら、サインを書いたり握手をするなどファンサービスに応えていた。そのなかでも青木監督が印象的だったと振り返るのは、ほかの観客よりもお年を召した高齢の女性からサインを求められたことだという。「彼女は私の席の近くで目を輝かせながら鑑賞されていました。何度もアイコンタクトを送ってこられていて、『ChaO』が幅広い世代の方に観てもらえる作品なんだと実感できて感無量でした」。

「世界に発信できるアニメを作る」という目標を叶えた [c]2025「ChaO」製作委員会
「世界に発信できるアニメを作る」という目標を叶えた [c]2025「ChaO」製作委員会

また、サインを求めるファンのなかには感極まって泣いてしまう若い男性の姿も。「彼からは、『アニメ業界を目指しているが自分の将来が不安だ』という相談を受けました」と明かす青木監督。「そこで私は『好きなことを日々がんばっていれば必ず報われる。誰にでもできることでもないから、毎日を大切に』という言葉と、10年後や15年後を見据えたアドバイスをしました。いつか一緒に仕事ができるかもしれませんね」と、穏やかな笑みを浮かべていた。

アワードセレモニーのあとに行われたクロージングパーティでも、本作に魅了された映画祭関係者が青木監督のもとに殺到し、急遽サイン会が行われることに。アヌシー市のフランソワ・アストルグ市長もその場に駆けつけ青木監督にサインを求めると、青木監督はイラスト入りのサインを進呈。市長は田中プロデューサーとがっちりと握手を交わし、絶賛と労いの言葉をかけていた。

クロージングパーティでも急遽サイン会が開かれる人気っぷり! [c]2025「ChaO」製作委員会
クロージングパーティでも急遽サイン会が開かれる人気っぷり! [c]2025「ChaO」製作委員会

セレモニーの壇上では「ここにこうして立っていることが信じられません」と感慨深げに語っていた青木監督。あらためて受賞の喜びを訊いてみると「非常にうれしいです。胸がいっぱいで、言葉が出てこないです」と、まだ夢見心地の様子。そして「私が伝えたいすべては『ChaO』に映っていますので、ぜひ映画を観て感じてください。よろしくおねがいします」と、力強く語ってくれた。

日本公開までおよそ2か月。いち早く世界を魅了し、高い評価を得た『ChaO』。ダイナミックで独創的なアニメーション表現と、ユーモア満点のキャラクターが織りなす心ときめかずにいられない恋模様。そしてなにより、この上ない多幸感に満ちた唯一無二の世界観を、ぜひとも劇場のスクリーンでたっぷりと味わってほしい。

文/久保田 和馬

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