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小栗旬&松坂桃李&池松壮亮&窪塚洋介が映画『フロントライン』で考えた、役者としての真実との向き合い方

  • 2025.6.14

2020年2月3日に横浜港に入港し、その後、日本で初となる新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」を舞台に、出動要請を受けた災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット)」が命を危険に晒しながら奮闘する姿を描く映画『フロントライン』(公開中)。

【写真を見る】窪塚洋介の理想とするリーダー像とは?

【写真を見る】数々の名作医療ドラマを手掛ける増本淳が企画・プロデュース・脚本を務めた映画『フロントライン』(公開中) [c]2025「フロントライン」製作委員会
【写真を見る】数々の名作医療ドラマを手掛ける増本淳が企画・プロデュース・脚本を務めた映画『フロントライン』(公開中) [c]2025「フロントライン」製作委員会

DMATの指揮官であり救急医の結城英晴役に小栗旬、厚生労働省の役人・立松信貴役には松坂桃李、DMAT隊員・真田春人役を池松壮亮、医師・仙道行義役に窪塚洋介という日本映画界を代表する面々が集結し、新型コロナウイルスの事実に基づく“命の現場”の物語を作り上げた。

「映画にして届けられることはすごくチャレンジングなこと」(小栗)

未知のウイルスに立ち向かった災害医療専門組織のDMATらの活躍を描く [c]2025「フロントライン」製作委員会
未知のウイルスに立ち向かった災害医療専門組織のDMATらの活躍を描く [c]2025「フロントライン」製作委員会

企画やオファーの段階で役者たちが惹き込まれたのは、本作の企画・プロデュース・脚本を担当した増本淳の徹底したリサーチから生まれた事実に基づく物語だ。「コロナは人それぞれにいろいろな受け取り方があると思うけれど、船のなかで起きた事実は事実。映画にして届けられることはすごくチャレンジングなことでもあるし、こういう映画をこの先も作っていかなければいけないとも思っていたので『やろう』と思えました」と、本作への参加に躊躇はなかったと振り返る小栗は、「その話に触れなくてもいいんじゃないの?と思えるところにも触れている。濁しておこうかと思いそうな部分も濁さずに描いているところもすごくいいところだと思います」と力を込める。

未知のウイルスに“最前線”で挑んだ事実に基づく物語 [c]2025「フロントライン」製作委員会
未知のウイルスに“最前線”で挑んだ事実に基づく物語 [c]2025「フロントライン」製作委員会

「未曽有の事態が起きたこと、こういった出来事があったこと自体が語り継がれることでもあり、忘れてはならないこと」だと感じた松坂は「やる意義がある」と心を動かされ、背中を押されたと語る。制作に至るまでのスピード感には「もうやるんだ」と驚きもあったそうだが、「記憶には新しいけれど、危機の意識が薄れ始めているいまだからこそ、作品として打ち出すことでメッセージを届けられるんじゃないかと思いました」と“タイミング”についての思いも明かした。

「劇映画として、物語としてなにを伝えられるのか。自分たちはなにに目を向けてこの映画に取り組むべきなのかを考えました」と話す池松は「ものすごい取材力、膨大な事実を基にしているけれど、事実の羅列ではなく、私たちの生きる世界の物語について描かれていました」と心を動かされた脚本のすばらしさに触れる。小栗が演じる結城や窪塚演じる仙道のセリフから、名もなきヒーローたちの苦悩を俳優として、自分の体を通して伝えたいという思いがあふれたとも語る。

窪塚洋介が演じる仙道行義は船内に乗り込んで現場を指揮 [c]2025「フロントライン」製作委員会
窪塚洋介が演じる仙道行義は船内に乗り込んで現場を指揮 [c]2025「フロントライン」製作委員会

新型コロナをテーマにした作品だと聞き、「正直警戒しました」と気持ちを打ち明けた窪塚だが、自身が想像していたような物語ではなかったことが出演の決め手になったと説明。「魅力を挙げたらキリがないけれど、最前線で医療に携わっている役がおもしろいと思ったのと、誰もが知る豪華客船での出来事をまるでドキュメンタリーのように、あの4週間になにがあったのかを事実を基に描いていること。なにより、結城とのバディが僕と旬との関係性を考えるとおもしろいかなと思いました」とこれまでなかなか実現しなかった小栗との共演に至った経緯の背景も明かした。

「実在した人がいることの重みやその意味を考えた」(窪塚)

小栗旬が演じる結城英晴は未知のウイルスに立ち向かう「DMAT」の指揮官 [c]2025「フロントライン」製作委員会
小栗旬が演じる結城英晴は未知のウイルスに立ち向かう「DMAT」の指揮官 [c]2025「フロントライン」製作委員会

船内では100人以上が症状を訴えていた。国内に大規模なウイルス感染専門の機関がないなか、未知のウイルスに立ち向かったのは災害医療専門組織のDMATだった。時間、情報、感情など、戦う相手はウイルスだけではない。張り詰めた空気のなか、命の現場の最前線にいる面々が交わすのはほとんどが業務上の会話。個人的な会話が皆無に近い状態にもかかわらず、家族の物語や葛藤、愛を感じるシーンが多いのも本作の特長であり惹き込まれるポイントとなっているが、それぞれの役にはどのようなアプローチをしたのだろうか。「フィクションだけど、自分もその都度その都度そこで起きたことを体験していくようなイメージでやっていました」と話した小栗は、そもそもの物語、起きた現実がドラマティックであったため「自分たちでドラマティックにする必要がなかった」とも解説する。結城については「ともすれば情熱的に言わなければいけないようなセリフもあったりするけれど、あえて大袈裟に大切に言わないみたいな感じがありました」と話し、拡大した芝居を要求される現場ではなかったとも補足。

松坂桃李が演じる立松信貴は厚生労働省から派遣された役人 [c]2025「フロントライン」製作委員会
松坂桃李が演じる立松信貴は厚生労働省から派遣された役人 [c]2025「フロントライン」製作委員会

実在するモデルはいるが、本人の癖などは意識的に芝居に反映させるようなアプローチではなかったという松坂は「ご本人の思い切りのよさや型破りな感じがあるところは念頭に置いていました。一方で、役人を演じるにあたっては、国で決められたある種のセオリーもあったりするので、永田町文学、霞が関文学のようなことも駆使しながら問題に向き合っていくことも意識しました」と工夫に言及。

池松壮亮が演じる真田春人は地元の岐阜に家族を残し横浜に駆けつけた「DMAT」隊員 [c]2025「フロントライン」製作委員会
池松壮亮が演じる真田春人は地元の岐阜に家族を残し横浜に駆けつけた「DMAT」隊員 [c]2025「フロントライン」製作委員会

メインキャラクターのなかで唯一家族との物語が描かれる真田を演じた池松は「DMATの皆さん一人ひとりに大切な人や家族がいたこと、そのことが真田のエピソードを通して伝わるといいなという思いでした」と演じる際に意識していたポイントを振り返った。松坂と同じく、モデルとなった人物の喋り方を真似したり、キャラクターに寄せるというアプローチはしなかったという窪塚。「ただ、実在した人がいることの重みやその意味を考え、仙道=モデルの近藤先生として映画のなかで生きること。そのリアリティを大切にしたいと思っていました。モデルである近藤先生の存在はプレッシャーにもなったけれど、背中を押してもらっているような気持ちにもなれました」とモデルがいるキャラクターの演じ方や、その存在の重みについて語っていた。

「客観性と情熱。冷静と情熱の間みたいなものかな」(松坂)

対策本部で指揮を執るのは結城と立松 [c]2025「フロントライン」製作委員会
対策本部で指揮を執るのは結城と立松 [c]2025「フロントライン」製作委員会

対策本部で指揮をとる結城、厚労省の役人という立場で対策本部を仕切る立松、最前線でスタッフを引っ張っていく真田、船内で現場を率いる仙道。様々なリーダーの姿が描かれる本作だが、作品で主演を務め自らがリーダー的ポジションを担う機会も多い4人にとっての理想のリーダー像とは。主演作も多い小栗にリーダー的イメージを持つ人も多いだろう。「この作品に関しては、自分が引っ張るという感覚も実感もほとんどなかったです。ただ、40代になった僕に結城のような役をやってほしい、すべての受け皿にならなきゃいけないみたいなことをやってほしいと増本さんに言われたことはすごくうれしかったです」と本作で求められたリーダー像に触れながら笑顔を見せる。

「やる意義がある」と心を動かされ、背中を押されたと語った松坂 [c]2025「フロントライン」製作委員会
「やる意義がある」と心を動かされ、背中を押されたと語った松坂 [c]2025「フロントライン」製作委員会

リーダーに必要なことは「客観性と情熱」と答えたのは松坂。「冷静と情熱の間みたいなものかな(笑)。撮影現場で冷静さを持つ存在がいれば、こちらは好き勝手に熱くなることもできる。するとクリエイティブなことに挑戦しやすくなる気がします。安心感が生まれるみたいな感覚なのだと思います」とのこと。こういった考え方は「多くの作品で主演を担ってきた先輩方の背中を見させていただくなかで得た僕のひとつの回答です」と感謝しつつ、自身も次の世代にしっかりつないでいきたいものだとも話した。ちなみに“つなぐ”というのは本作に込められた思い、テーマのひとつだ。

映画を作って終わり、ではなく引き続き考えていくべきこととも語った [c]2025「フロントライン」製作委員会
映画を作って終わり、ではなく引き続き考えていくべきこととも語った [c]2025「フロントライン」製作委員会

「いま全世界がリーダーを求めていると思います」と語った池松は、「我々はリーダーを求めすぎているのかもしれないとすら感じます」と。「すべてをリーダーに求めるのではなく、新しい時代の組織のあり方のようなものがきっとあると思っています。ですが、リーダー不在が続くこの世界で、誰もが立派なリーダーを探しているのも事実」とし、「人道的であること。奉仕こそこれからの時代のリーダーシップであってほしいと思っています」と意見を述べた池松は「モデルとなったDMATの先生方は、まさに震えるくらい立派なリーダーだと思います」と映画の中には、すでに理想のリーダーがいるとも指摘。窪塚は「よく言われることだけど、リーダーはボスではない。命令するのではなく一緒にやろう!ということ。仲間がミスったら自分のせい。そういうリーダーでありたいという気持ちを忘れないようにしようとは思っています」と自身の心掛けを教えてくれた。

「あの時世界を救ってくれた医療従事者の方々に心を込めて感謝と敬意を表すことができる」(池松)

映画ではそれぞれの立場で決断や選択に迫られる場面もたくさん登場する。作品を通して「とにかくいろいろなことを考えた」と口にした4人は、本作を通して役者として、本人としてどのようなことを考えたのだろうか。役としても役者としても考え、悩むことが多かった小栗は「正義はそれぞれにあるものだから定義するのは難しい」としながらも「シンプルに医者という仕事においてのある種の矜持を見させてもらったと思います」と尊敬を言葉にする。また、真実や事実を知ること、見極めることの大切さも痛感。情報をそのまま受け入れるのではなく時には自分のものの見方や判断力なども疑うことが大事だということを作品を通して何度も考えたと明かした。

報道のあり方、情報との向き合い方について考えるきっかけにも [c]2025「フロントライン」製作委員会
報道のあり方、情報との向き合い方について考えるきっかけにも [c]2025「フロントライン」製作委員会

松坂も真実を知ることの大切さについて考えたそう。「時代は繰り返すもの。誰もが予想しなかった未曽有の出来事、パンデミックはきっとこの先も繰り返し起こる可能性のあることだと思います。だからこそ、違う事態が起こったとしても周りの情報に流されず、自分の目で見て耳で聞いて、自分のなかで咀嚼して判断し決断していくことができる。そんな考え方を教えてもらった作品です」と自身に芽生えた意識にも触れ、「次に備える、ではないけれど、『もしも…』があった時に、心強さのようなものを作品からもらうことができた気がします」といち観客としての感想も踏まえて説明する姿から、作品から得た充実度をうかがい知ることができた。

事実を並べただけではない。本作にはしっかりとした物語がある [c]2025「フロントライン」製作委員会
事実を並べただけではない。本作にはしっかりとした物語がある [c]2025「フロントライン」製作委員会

「映画を完成させておしまいというわけではない」と切り出した池松は、「いまここにある問題は下の世代に投げるものではないし、引き続き考えていかなければならないこと。信念や志を伝え、間違ったことも伝えること、そうしてこの映画が次の時代の希望となり、誰かの生きる力となり、あのパンデミックから学んだことを語り継ぐ役割のひとつになれたらなと思います」と自身の思いを明かし、「今作に関わることで、あのパンデミックから世界を救ってくれた医療従事者の方々に心を込めて感謝と敬意を表すことができたらと思った。そうした機会を頂けたことが俳優としてとてもうれしいです」と微笑む。

【写真を見る】窪塚洋介の理想とするリーダー像とは? [c]2025「フロントライン」製作委員会
【写真を見る】窪塚洋介の理想とするリーダー像とは? [c]2025「フロントライン」製作委員会

小栗からのラブコールで実現した約26年ぶりの共演が「この作品でよかったと心から思います」と語った窪塚は本作がたくさんの人に届き、前に進んでいく力になったらと願っている。「メディアのあり方、厚労省のあり方、医者のあり方。誰も誰をも責められない状況だったことも覚えているし、こういうふうに振る舞えたらかっこいいな、こういうふうに生きていきたいと思える名もなきヒーローたちが、僕たちが生きる普通の社会のなかにこんなにもいることを知ったら、自分のライフスタイルにおいてものの見え方がいろいろと変わってくると思うんです。それこそ、生きる時間の価値、命の価値がもっと上がるんじゃないかな、なんて考えています」。

取材・文/タナカシノブ

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