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「夢ではない、俺はここにいる」涙で交差する友情と裏切り──源内と意次の最期の絆【NHK大河『べらぼう』第16回】

  • 2025.4.26

*TOP画像/源内(安田顕) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」16話(4月20日放送)より(C)NHK

吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第16話が4月20日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

 

源内はこの世界を生きるには無鉄砲すぎた

幕府では家基(奥智哉)事件について憶測が飛び交い、意次(渡辺謙)に黒い噂が…。源内(安田顕)は意次の元を訪れ、「私にも(手袋を)調べさせてください!」と申し出ました。意次は「もう よい」「忘れろ」と言うばかりで、この話を早々に切り上げたい様子。さらに、「それが お前のためでもある」と忠告し、口止め料とも手切れ金とも思える金貨を渡しました。

 

源内(安田顕) 意次(渡辺謙) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」16話(4月20日放送)より(C)NHK

 

少し前まで、源内と意次は日本の未来について同じ方向を見ていました。日本を開国し、外国と商売することで国を繁栄させたいという理想を抱きながらも、軍備が整っておらず、闘う気力もない国民性の国では厳しい現実を嘆いていました。また、二人で毛並みの良い政治家を皮肉り、笑い合うことも。二人には二人だけの世界が確かに存在したのに…。

 

家基の手袋事件と同じ頃、源内はエレキテルの効果に多くの人から疑いの目を向けられ、情緒不安定でした。こうした状況の中で、源内は丈右衛門(矢野聖人)と名乗る男に騙されます。丈右衛門が持ち込んできた屋敷の普請話の仕事を意次が気遣ってまわしてくれたものと疑わなかったことが、彼の落とし穴となりました。

 

丈右衛門は源内の元を訪れ、エレキテルの話題を振り、彼の心をざわつかせた上で、怪しい煙草を勧めました。

 

源内(安田顕) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」16話(4月20日放送)より(C)NHK

 

この煙草に薬物が仕込まれていたのでしょうか。源内は煙草を吸ってすぐ、「平賀源内なんてね偉そうなこと言ってるけど その実何一つ 成し遂げちゃいないんだよ」「しくじりばかりでさ」という人びとの声にとらわれます。

 

不特定多数から批判されても、“まわりが分かっていないだけ”と思える自信家であっても、批判が重なり、失敗が続けば、自分に対する自信が薄れていくものです。あるいは、何かをきっかけに、心の奥深くに秘めていた自己不信が心を支配することもあります。

 

幻聴に苛まれ、錯乱状態にある源内は、丈右衛門に斬りつけられ、意識を失いました。そしてなぜか、この後、丈右衛門は共に行動していた久五郎(齊藤友暁)を斬りつけました。

 

源内は目覚めると、血まみれになった久五郎が目の前で倒れていることに気づきます。久五郎を自分が殺めたのかどうか判断がつかず、途方に暮れている様子でした。

 

源内と意次の心は再び通じ合ったのか…

源内と意次の心は再び通じ合ったのか…

意次は牢で震える源内の元を自ら訪れました。家基の暗殺事件から手を引かない源内に厳しいことを言い放ったものの、彼の顔を見ずにはいられなったのでしょう。

 

源内(安田顕)意次(渡辺謙) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」16話(4月20日放送)より(C)NHK

 

「俺ゃ もう 何が夢で 何が現だか…」と嘆く源内を、意次は「夢ではない。俺は ここにいる」と涙を流しながら、牢の格子の外から抱きしめました。家基事件で二人の絆は綻びましたが、それこそが“夢”であったかのように、お互いの存在を包み合います。

 

しかし、最終的に、意次は源内を救うことも、彼の無罪を証明して名誉を挽回することも試みませんでした。丈右衛門と名乗る何者かが偽りの普請話を源内に持ちかけたという事実にたどり着いたものの、息子の意知(宮沢氷魚)に、松本を呼び、奉行所に申し出ることを止められたためです。松本を巻き込めば、彼の命を危険にさらすことになりかねないから…。

 

さらに、蔦重(横浜流星)が持ってきた源内の無罪を証明する原稿を処分するよう側近に指示しました。この原稿には源内の無罪だけでなく、意次の潔白を証明するストーリーが綴られていたというのに…。なお、原稿に書かれている鬼畜の所業に気付き、人殺しに仕立てられた「七ツ星の龍」は意次であり、 そこに現れた「古き友なる源内軒」は源内だと解釈できます。

 

原稿 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」16話(4月20日放送)より(C)NHK

 

原稿 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」16話(4月20日放送)より(C)NHK

 

意次がすべてを投げうってでも源内を救うべきだったのかどうかは答えのない問いです。筆者は諸々の事情を考慮しても、意次が源内を救おうとしなかったことにモヤモヤした気持ちが残っています。源内の死が悲しいのはもちろんのこと、社会の上層部にとって不都合な存在が葬られることをどこか許容している雰囲気を感じられるから…。

 

蔦重にとって源内は…

蔦重にとって源内は人生の師

蔦重は源内の死を深く悲しみましたが、その死を受け入れることを拒みました—「牢番に源内の熱心な読者がおり、死んだことにしてトンズラさせたことだって「ねえ」とは言いきれない」と。“分かんねえなら、楽しいことを考える”流儀に従って…。

 

蔦重(横浜流星) 市兵衛(里見浩太朗) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」16話(4月20日放送)より(C)NHK

 

蔦重は自由に生きる苦しさも、楽しさも源内から学びました。また、源内は「耕書堂」の名付け親でもあり、“書をもって世を耕し、この日の本をもっと豊かな国にする”という書店の役割を教えてくれました。

 

時代の寵児ともいえる源内は新しい風が吹き、大衆文化が開花した江戸の土地柄に合った男。しかし、江戸は源内を受け入れる懐の深さがあっても、彼を生かし続けるには未熟だったのかもしれません。

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