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樋口真嗣監督が自身のベスト映画『新幹線大爆破』をリブートする意味「誰かの手にかかるくらいならオレがやる!という感じです」

  • 2025.4.22

爆弾を仕掛けられた新幹線がノンストップで走り続ける!衝撃的なアイデアと手に汗握る展開で知られる佐藤純彌監督の『新幹線大爆破』(75)。キアヌ・リーヴスの出世作『スピード』(94)にも影響を与えたとされるタイムサスペンスの傑作が、50年の時を経て、Netflix映画『新幹線大爆破』(4月23日より世界独占配信)として生まれ変わる。

【写真を見る】樋口真嗣監督が、世界配信を前に決めているのは「エゴサーチを止めること(笑)」だという

『シン・ゴジラ』(16)、『シン・ウルトラマン』(22)で知られる樋口真嗣監督が、『日本沈没』(06)でタッグを組んだ草なぎ剛を主演に迎え、JR東日本の特別協力のもと、壮大なスケールで描きだす。MOVIE WALKER PRESS では樋口監督にインタビューを実施。原作へのリスペクトから鉄オタならではのこだわりなどを明かしてもらった。

「ストーリー上の重要な作戦は、実は原作で指令室にいた警察関係者の一人が出したアイデア」

――樋口さんは本作の原作、1975年製作の『新幹線大爆破』が大好きだと伺っています。何歳の時、どういうふうに出会ったんですか?

「小学校4年生の時に観ました。僕は当時から鉄オタ(鉄道オタク)だったので、ポスターを目にした時から観たくってしょうがなかった。だってポスターのビジュアル、タイトルどおり“新幹線大爆破”してましたからね!

それまで僕が観ていた映画といえば怪獣もの。洋画では『サウンド・オブ・ミュージック』(65)や『ベッドかざりとほうき』(71)とか。そういう作品は基本、親と観に行っていたんですが、本作は保護者ナシで劇場に行きました。確か、親同伴ではなく観た最初の映画だったと思います。しかも、劇場は東映の映画館で、(高倉)健さんも出演しているんだから、めちゃくちゃオトナ度、高いじゃないですか?僕のなかでは、そういういろんな要素が重なって、『これが本当の映画なんだ。いままで僕が観ていたのは子ども向けだったんだ』って。もうドキドキでしたよ(笑)」

ド迫力の爆発シーンに息をのむ…!
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――確かに小学4年生からするとオトナの映画ですね。

「ついでに言うと、それまで映画というのは歌っているものだと思い込んでいましたからね。『サウンド・オブ・ミュージック』も『ベッドかざりとほうき』も歌っているし、怪獣映画の『モスラ』(61)や『キングコング対ゴジラ』(62)、『ゴジラ対へドラ』(71)だって歌っていたじゃないですか。だから、歌わない映画もこれが初めてだったんです。それに子どもも出てこないでしょ?高倉健演じる犯人の息子がちょっと出るだけだったから、そういうのも初めてですよ」

――リブートするにあたって気をつけたことは?原作で気になった部分は変更しようと考えませんでしたか?

「いや、原作に一切の不満はありませんでした。だって、初めて観た大人向けの映画でインプリンティングされているので、僕にとってはパーフェクトなんです。子どもの僕にとっては、潰れてしまった町工場のオヤジの気持ちとか、沖縄から上京して来た青年の苦しみとかは本当に初めて受ける感情な訳です。それまで僕がスクリーンで会っていたのは藤岡弘(現在は藤岡弘、)さん演じるヒーローでしたから、まさに突然、剥きだしの現実が現れたわけです」

草なぎ剛が主演する『新幹線大爆破』は4月23日(水)からNetflixにて世界独占配信
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――では、いまの時代に合わせてアップデートするうえで苦労したことは?うまく時代性を取り込んでいたように思いました。

「いまの犯罪は身代金の要求とかほとんどないんですよ。同じように銀行強盗もない。なぜなら失敗する確率が高いから。営利誘拐等になると携帯電話で足がついてしまう。だったらどうやって今回の事件を成立させるのか?電話の専門家に尋ねたら、ひとつだけ足がつかないシチュエーションがあると提案され、それを基に犯罪を成立させたんです。くわしいことは言えませんが(笑)。ほかにもいろいろなアップデートをしました。新幹線の運転士を女性に換えたこともそうです。そういうアイデアのなかで、ストーリー上、重要な作戦があるんですが、実はそれは原作で指令室にいた警察関係者の一人が出したアイデアなんです。運転指令長役の宇津井健さんがすぐに却下したので憶えてない人が多いでしょうが。あとは犯人像。いまの時代、どういう人物がどういう理由で新幹線に爆弾を仕掛けるのか?を考えるとこれがまるで違う」

尾野真千子演じる「ママ活」スキャンダルを起こした国会議員や、要潤扮する起業家YouTuberなど、時代を反映させたキャラクター設定もおもしろい
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爆弾の仕掛けられた「はやぶさ60号」の運転士・松本をのんが演じる
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――ちょっと驚きの犯人像でしたね。関係者が知恵を絞って対処しようとするのは原作と同じですが、それらの作戦の詳細についてモデルを使って説明してくれることで、視聴者にもよくわかるようになっていましたね。

「あの模型、気づきました?最初はプラレールで次がNゲージ、最後がHOゲージとだんだん高級模型にしました。どんどんクオリティが上がっているんです」

――それはなぜ?

「趣味といえばそれまでなんですが、最初は慌てているのでデパートのおもちゃ売り場で買えるプラレールで、それから時間が経つにつれてだんだん専門的になっていくんです。やっぱり鉄オタなので鉄道模型を全部出したいという気持ちが強くて(笑)。でもあとで知るんですけど、実際にプラレールで検証したりするらしいんですよね。間違ってなかった。

もう一つ、物語のキーにもなる試験車両が出てくるんですが、これは日本人的にはやっぱり試作機だろう!という想いで出したんです。日本人って試作機好きでしょ?『ゴジラ-1.0』(23)にも震電(日本海軍の試作機だった戦闘機)が出ていたし、ガンダムだって試作機ですよ。日本人は試作機が万能だって幻想から離れられないんですよね」

斎藤工扮する新幹線総合指令所における指令業務の最高責任者の笠置。動かしている模型のバージョンアップにご注目を
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「新幹線の映像だけでちょっとした映画1本分のスケジュールをかけた」

はさぶさが激しくぶつかり合う映像は圧巻
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――新幹線がかっこよく撮れていたと感じたのですが、やっぱりそこは意識されたんでしょうか?

「そりゃあもう意識しましたね。そもそも新幹線のCMって昔からかっこいいんですよね。だから僕たちは、それと同じ、あるいはそれ以上のかっこいい新幹線映像を撮らないといけない。そうじゃないと僕たちが撮る意味がないんじゃないか思っていました。そのために僕たちがやったのは、そういうベストショットを撮れるスポット探し。でも、これが思った以上に大変だった。というのも東北新幹線は東海道新幹線のような築堤の上を走らずに高架橋ばかりなんです。そのうえ線路の両側の壁が高くなっていて、全体の3分の1は車体が見えなくて、絵になる場所がないんです。いい場所を探すために走り回り、40か所くらいで撮って、それを編集でつなげていった。さらに、ヘリで撮ったりドローンを飛ばしたり、新幹線の映像だけでちょっとした映画1本分のスケジュールをかけましたから」

高市と共に乗務するのは、細田佳央太演じる藤井。車掌たちの手に汗握る緊張感が画面を超えて伝わってくる!
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――JR東日本の特別協力は大きかったんですね。

「間違いなく。劇中で描かれる『新青森15時17分発はやぶさ60号東京行き』は実際に運行されていますが、今回は同じE5系の新幹線を上野~新青森間で7往復運転してもらい撮影しました。僕たちは朝の6時30分に上野を出発して6時間かけて青森まで行き、復路がまた6時間。それを7日間繰り返した。かつてない体験でした。あの黒澤明監督の『天国と地獄』(63)でさえも、身代金を河川敷に落とすシーンは、在来線の一両の半分を貸し切って1時間で撮影したのにと思うと贅沢ですよね。

鉄オタなのでうれしかったのでは?とはよく言われるんですが、それより前に『今日、撮り切らなきゃ』という任務がある。もうそこは葛藤です。新幹線に何度も乗れて楽しいというより、心を鬼にして、『今日は絶対ここまで撮るんだ』って。窓の外を見たくても我慢するしかなかった(笑)」

JR東日本の特別協力により、細部までリアルな映像が誕生!
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「新作をつくるくらいの気持ちで進めていて、当初はタイトルも変えようかという話が出ていたくらい」

――なるほど!でも樋口さん、大好きな映画を自分でリブートするの、ちょっと怖くないですか?

「いや、ほかの人がやったのを文句を言うよりも全然いい。誰かの手にかかるくらいならいっそ、オレがやる!という感じです。僕のベスト3の1本、『日本沈没』(73)は公開当初、そんなに評価されていなかったんです。話を端折りすぎだとか特撮が怪獣映画みたいだとか、不満を並べる人が多かった。そういうなかで僕がひとりで弁護していたんですよ、小学生のころから。後年、やっと市民権を得て、いざ自分が撮るチャンスが回ってきたら、ねえ(笑)。因果は回る糸車ですよ(笑)。

そういうことがあったせいというわけでもないんですが、本作では新作をつくるくらいの気持ちで進めていて、当初はタイトルも変えようかという話が出ていたくらい。いろんなタイトル案が出たんですが、どうしてもバッタモンみたいな感じになったので、『新幹線大爆破』は『新幹線大爆破』だ!ということになったんです。やっぱり原作のゆるぎなさ、みたいなものがある」

「はさぶさ60号」には、修学旅行中の高校生たちも巻き込まれることに
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――好きな映画のベスト3とおっしゃっていましたが、『日本沈没』『新幹線大爆破』、あと1本は?

「長谷川和彦(監督)の『太陽を盗んだ男』(79)です。これは絶対、リメイクできないですからねえ(笑)」

――樋口さんにとっては初のNetflixです。この宿願のような企画をどうしてNetflixで?

「『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(15)や『シン・ウルトラマン』(22)で組んでいたプロデュ―サー、佐藤(善宏)さんが『シン・ウルトラマン』を制作している途中で突然、『東宝を辞めます。これからNetflixです』と。僕は彼にずっと『新幹線大爆破』のリブートをやりたいと言っていたので、じゃあまずNetflixで組むのはそれになるよねって。配信は初めてですが、映画会社とはいろんな意味で考え方がちがう。クオリティファーストが徹底していて、作業環境に関しての取り組みも違っていましたね。早い話、すっごくよかった!」

――世界に向けて一斉に配信されるというのもNetflixのいいところだと思います。心の準備はできていますか?

「そこはまだ実感してないんですよ。それがどういうことなのか、まだ自分でよくわかっていない。いま決めているのはエゴサーチを止めるということくらいです(笑)」

【写真を見る】樋口真嗣監督が、世界配信を前に決めているのは「エゴサーチを止めること(笑)」だという 撮影/木村篤史
【写真を見る】樋口真嗣監督が、世界配信を前に決めているのは「エゴサーチを止めること(笑)」だという 撮影/木村篤史

取材・文/渡辺麻紀

※草なぎ剛の「なぎ」は弓へんに前+刀が正式表記

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