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ル・クルーゼが人気の理由は「映えるから」だけではない…料理道具選びのプロが伝授「使いやすい鍋の選び方」

  • 2025.2.13

鍋を選ぶのは難しい。種類が豊富でサイズもさまざまだ。自分の生活に合った鍋を見つけるにはどうすればいいのか。キッチンツールに詳しいフードスタイリストの野口英世さんは「鍋の場合、大は小を兼ねないので、適材適所で選ぶことが大切」という。生活史研究家の阿古真理さんが取材した――。

2024年8月21日、英国のビスタービレッジにあるル・クルーゼのアウトレット小売店
2024年8月21日、英国のビスタービレッジにあるル・クルーゼのアウトレット小売店
「鍋の場合、大は小を兼ねない」

立春を過ぎ、日差しが春めいてきた今日この頃。新生活を始める人、また春に向けて気分を変えたい、という人たちの中には、キッチンツールの購入を検討している人もいるのではないだろうか? しかし難しいのは、多彩過ぎる選択肢から何を選ぶかだ。適切な鍋を選ばないと料理しにくいが、選び方次第で料理がラクになり、おいしさもアップする。そこで今回は、キッチンツール選びのエキスパートでフードスタイリストの野口英世さんに、鍋選びの基準を聞いた。

野口さんはまず、「ライフスタイルも求めるものも違う皆さんが、私の話をもとに自分に合った鍋を選んで、使い続けてくださったらうれしいです」と話す。

目安となるサイズは、1人分なら直径16センチ、1~2人分は18センチ、2~3人分は20センチ、3~4人分は22センチ。鍋は大きくなるほど重くなるので、女性で扱いやすさを求めるなら大きめの鍋は両手鍋、ゆでてザルにあげるなど動きが激しい使い方なら、片手鍋がおすすめだ。ただし、「鍋の場合、大は小を兼ねないので、適材適所で選ぶことが大切です」と野口さん。

ル・クルーゼが人気なのは「映えるから」だけではない

材質も、アルミやステンレス、鋳物ホーローなどいろいろあり、目的に合わせて使い分けたい。料理をどの程度するのか、どのぐらい技術があるのか、求めるのはラクさなのかおいしさなのか、など好みとライフスタイルで適切な鍋は違ってくる。

20年ほど前に一世を風靡し、すっかり定着したフランス産のカラフルなル・クルーゼ。鋳物ホーロー鍋なので、金属製のヘラ・たわしでこすればあっという間に傷がつく。強火で加熱すれば焦げつく。そして重い。それでも定着したのは、映えるからだけではない。

「鋳物製で厚手のため、熱ムラが少なく蓄熱性が高い。ふたをしてじっくり煮込む料理に向いています。肉じゃがでも筑前煮でもシチューでも、時間をかけて柔らかく煮込みたい料理がおいしくなる」と野口さんは語る。

同じく鋳物ホーローでフランス発のストウブ、アメリカ発で昭和時代から定評があるステンレスとアルミの多層構造のビタクラフトは、蓄熱性が高く煮込み料理に向く。ビタクラフトは表面がステンレスなので、お手入れもラクだ。ル・クルーゼの鍋は内側が白く調理中の食材が見えやすく、料理がおいしそうに見えます。ただ黄ばみやすいので、気になる人にはストウブがおすすめ。ただしストウブのほうが、同じサイズでもル・クルーゼより重い。そして3社製とも値段は高めだ。

「鍋が勝手においしくしてくれる」

これらの鍋を使った人たちがファンになるのは、「手間もテクもいらずに、鍋が勝手においしくしてくれるから。厚手なので水分が不必要に蒸発せず、調味料がそれほどたくさん必要ありません。そして、中火や弱火で十分です」と野口さん。つまり、コストパフォーマンスがよいのだ。リーズナブルだが薄手の一般的な鍋は、「火の回り方が均一になりにくいので、調味料が全体にうまく回らず、素材の中まではあまり味が入らないなど、ムラができやすいです」。

キッチンが狭く鍋を1つしか持てないが、日々自炊する人なら、ビタクラフト社などに代表される耐久性の高いステンレス鍋を1つ買えばよい。

一方、いずれも重い、鋳物ホーローの場合は扱いに気を遣うといった問題もあり、手軽にササっと調理をしたい人や初心者には向かない。「1人暮らしであまり料理をしない、フライパン1つでパスタを作る、といった人なら、16センチのステンレス製の片手鍋があれば、麺類や汁物など一通りできます。でも、友達などと一緒に料理して食べる人なら、2人分が余裕で作れる18センチの片手鍋か20センチの両手鍋があるとよいと思います。もし、初めて1人暮らしをするので、まだ料理をどの程度するかわからない、という場合は18センチ程度の片手鍋を1個持てば、野菜や麺類をゆでたり、肉じゃがやみそ汁を作ったりとオールマイティに使えます」と野口さん。

ステンレス鍋
※写真はイメージです
調理道具としても皿や器としても使える鍋

アルミは塩味と酸に弱いので、アルミ製の鍋に料理を入れたまま放置するのはよくない。「アルミ製が多い行平鍋は、片手鍋で軽く取り回しがよいので火の回りが速い。野菜をゆでる、ソースを作るといったちょっとした作業に使います。もとは料理人が使っていた『ヤットコ鍋』。『ヤットコ』というハサミを取っ手に使うものでした。火の回りが速くて焦げつきやすい、塩分や酸で黒ずみやすいため、初心者にはあまりおすすめできません。また、アルミ製は熱源を限定するので、購入の際はキッチンの熱源に対応できる素材の行平鍋を検討するとよいでしょう」と説明する。

ル・クルーゼがそうだったように、鍋にも流行がある。ここ数年、人気があるのは、野田琺瑯のすっきりしたデザインの「ココナベ」。大が外径215ミリ、小が198ミリで「1人暮らし、家族が時間差で食事するといった方たちが便利に使っているようです」と野口さん。最近は、こうした調理道具としても皿や器としても使えるキッチンツールが増えている。1人で作って食べる機会が多い人は、検討するとよいのではないか。

店頭で実際に持った感覚を確かめるのが大切

本格的な料理はこれからで、自分のポテンシャルがわからない人は、まずニトリなどでリーズナブルな鍋を選ぶのもよい。「重ねて収納できる3点セットの鍋を1組買っておけば、ある程度の料理はできます。重ね過ぎると使わなくなるので、2~3個ぐらいにとどめましょう。サイズ感もよく考えられていると思います」と話す野口さん。一方、イケアは「日本人の調理スタイルに合いにくいかもしれません。例えば、フライパン。ヨーロッパの方は焼く作業が多く、フライパンは浅めなものが主流です。逆に日本人の料理は多種多彩で、焼くほか、炒める、煮るなどにも使うため、少し深めのフライパンの方が適しています」と話す。逆に、ヨーロッパ人のように料理するならイケアでもよいと言えそうだ。

両手鍋
※写真はイメージです

さらに、フライパン選びの記事でも書いたが、鍋もまずは店頭で実際に持った感覚を確かめることが大切だ。通販サイトでは、鍋のサイズや重さが正確に記されてはいるが、自分で持った感覚を数字からイメージできる人は少ない。経験者なら、自分がふだん使う鍋のサイズを測ったうえで、店頭に行って検討したい。売り場のヘラやお玉を借り、調理しているつもりで動かしてみることもおすすめ。それでも迷うなら、売り場の人に相談しよう。相談ができるのも、リアル店舗のよさである。

道具で料理の負担は大きく変わる

調理道具は、台所の担い手の大事な相棒だ。憧れの料理家や料理人が使っている、あるいはすすめているからといって、自分に合うとは限らない。自分の調理スタイルや家族構成、食べ方などをよく考え、選ぶことが必要だ。自身の研究と実践に基づいた、野口さんの「重ね過ぎると鍋は意外と使わない」「どんなに素敵な鍋でも、重いと人は無意識に避けます。『今日は疲れちゃって』というときは、ストウブでなくてフライパンを使ったりするんです」という発言はリアルで重みがあった。道具で料理の負担は、大きく変わる。より楽しく料理し、おいしく作るためにも道具選びはよく考えよう。

阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。

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