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映画『ショウタイムセブン』の阿部寛が「岸辺露伴」に見えた理由。フジ問題と無縁ではない問題提起も

  • 2025.2.10
映画『ショウタイムセブン』は阿部寛が「正しくない」人間を演じていることが重要でした。映画およびドラマ『岸辺露伴は動かない』の渡辺一貴が監督・脚本を手掛けたからこその面白さも解説しましょう。(※画像出典:(C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会)
映画『ショウタイムセブン』は阿部寛が「正しくない」人間を演じていることが重要でした。映画およびドラマ『岸辺露伴は動かない』の渡辺一貴が監督・脚本を手掛けたからこその面白さも解説しましょう。(※画像出典:(C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会)

2月7日より映画『ショウタイムセブン』が劇場公開中です。2013年の韓国映画『テロ, ライブ』を原作としており、同作は2021年にインドでも『ダマカ:テロ独占生中継』というタイトルでリメイクされています。

本作の魅力はテロの犯人との一触即発の駆け引きが展開するリアルタイム型サスペンスとシンプルに説明できます。98分というタイトな上映時間にギュッと詰め込まれた、ハラハラドキドキを楽しみたい人にうってつけでしょう。
加えて、主演の阿部寛が「正しくない」人物を演じていることや、「日本独自のアレンジが大きい」ことも外せません。さらなる魅力を記していきましょう。

凄惨なテロ事件を「利用」しようとする主人公

主人公の折本眞之輔は、ニュース番組『ショウタイム7』のメインキャスターを降板させられ、不本意な形でラジオ番組のパーソナリティーを務めています。その生放送中に謎の男から爆破テロ予告が届き、直後に発電所から火の手が上がり、犯人から交渉人に指名された折本。彼はこれを第一線に復帰するチャンスとみて、生放送中の『ショウタイム7』のスタジオに乗り込み、犯人との生通話を強行するのです。

 (C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会
(C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会

つまり、主人公はニュースキャスターへの復帰を果たすために、凄惨(せいさん)なテロの犯人との交渉を報道として「利用」しているわけです。初めにテロ予告をイタズラだと思った際には(ラジオ放送には乗らないようにしつつ)暴言を吐いていますし、犯人との交渉では真っ当に事件の解決に乗り出していると思える反面、そこには自分本位の言動も垣間見えるのです。

はっきりイヤなやつでありながらも、完全な悪人というわけでもなく、間違いなく一定の正義感を持ち合わせてもいる、どこかで彼の「善性」を信じたくなるのも重要。詳細は伏せておきますが、犯人の事情を汲み取り最善の方法を模索しているように見えますし、この事件を通して過ちに気付いて反省し、重大な決断をする場面もあるのですから。

 (C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会
(C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会

もちろん主な要素は「どこに爆弾が仕掛けられているか分からない状況における、犯人との命懸けの交渉」なのですが、いい意味で絶対的なヒーローではない、「正しくなさを抱えた人間の物語」としても興味深い内容となっているのです。

阿部寛が「岸辺露伴」にも見える理由

何より、その主人公役に阿部寛という俳優をキャスティングしている点が「大正解」です。見た目からインパクトとカリスマ性がある人物であり、今回はラジオ番組における阿部寛の「いい声」から聴きほれるのですが、正しくない人間の「高圧的」とも言える怖さや危うさもまた際立っています。「応援してはいけないはずなのに応援したくなる」という、複雑な魅力のある阿部寛には魅了されてしまうはずです。
本作の監督・脚本を手掛けたのは、ドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK)および映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の渡辺一貴。その『岸辺露伴』シリーズとは「黒」が映える画の美しさや、謎めいた存在との心理的な戦いが共通しています。

思えば『岸辺露伴は動かない』の主人公もまた、「自分のために行動しているが、正義感も持ち合わせている」キャラクターであり、今回の『ショウタイムセブン』の主人公と似ている部分もあります。極端な事を言えば、「阿部寛が岸辺露伴を演じていたらきっとこんな感じなのだろう」と想像もできたのです。
渡辺監督は撮影に際し、緊急通報指令室のみで展開するデンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』を参考にしたそうで、「役者さんとプロットの力で魅せきってしまう部分に影響を受けています」と語っています。確かに極めて限られた舞台だからこそ、主演の阿部寛を筆頭とした役者の力を「信じている演出」が随所にありました。

また、本作の犯人役は「シークレット」であり、竜星涼が告知動画で「ほとんど正解を言っている」ことも話題になりましたが、劇中の「声」から誰なのかを予想してみるのも楽しいでしょう。犯人が終盤に主人公に投げかける言葉は強烈であり、阿部寛と渡り合う彼の演技と存在感にも期待してほしいところです。
渡辺監督の最新作は、5月23日公開の『岸辺露伴は動かない 懺悔室』。邦画初の全編イタリア・ヴェネツィアロケが敢行されており、原作では短編だったエピソードが、どのように長編映画としてアレンジされているかも含めて、大いに期待できます。

日本独自のアレンジと問題提起も

リメイクにあたって日本独自のアレンジもあり、それは舞台の“見た目”にも強く表れています。例えば、オリジナルの『テロ, ライブ』でのテレビ中継は小さな部屋で行われていたのですが、今回の日本リメイクでは広いスタジオへと変更されています。しかも、「テレビ局のスタジオを丸ごと作り込み、ライブ感を徹底的に重視して複数カメラで同時撮影。最大10分以上の長回し撮影を何度も敢行」という大掛かりなことをしているのです。

 (C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会
(C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会

また、前半の展開はオリジナルにほぼ忠実ですが、後半にはかなり大胆な改変があります。こちらも詳細は伏せておきますが、オリジナル版を見ていた人こそが驚くサプライズも仕込まれていました。そのためにツッコミどころが増えてしまってはいるものの、「ただ同じことを繰り返すリメイクにはしない」という意志が感じられました。

さらに、クライマックスの展開はかなり「攻めて」います。オリジナル版にあった不義理を働いた権力と不正への批判のみならず、過剰な主張で視聴者を誘導するテレビという媒体の欺瞞(ぎまん)性を暴くようでもあり、はたまた不謹慎なことさえもエンタメ化してしまう浅ましさを風刺しているとも感じられます。

 (C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会
(C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会

さらには、一方的な決めつけで断罪をする危険性も示しており、それは誰にとっても他人事ではない、それこそ今のフジテレビにまつわるさまざまな事象とも無縁ではない、鋭くも大胆な問題提起と言えるでしょう。また、とある「選択」を巡る展開は、映画『ダークナイト』を思い浮かべる人もいるはずです。

ここは良くも悪くも居心地の悪さを覚える、賛否両論も呼ぶところでしょうし、筆者個人もまさかの幕切れに「えっ!?」と驚いてしまったことも事実です。しかしながら、決して口当たりの良い終わり方はしない、だからこそ観客に複雑な思考を促すことは、本作の誠実なところでもあると思うのです。

 (C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会
(C)2025「ショウタイムセブン」製作委員会

なお、渡辺監督が本作のテーマに掲げたのは「疑似イベント」だそうで、それは「メディアに報道されることを狙い、人為的に仕組まれた出来事」を指す言葉ですが、渡辺監督は「現代はその意識が(テレビだけでなく)個人にまで落ちてきていると感じます」と語り、以下のようにも続けています。

「“バズ狙い”や“自撮り文化”などがその(疑似イベントの)一例ですが、誰もがSNSを通じて“見られること”を意識して生きていますよね。その象徴として、主人公の折本を設定しました。いま起きていることをどうお客さんに伝えるのが最適か瞬時に判断して、演じていける人物。どこまでが彼の本意で、どこまでが計算なのか――阿部寛さんの演技で、一層深みが出たと感じます」

この言葉通り、普段何気なく触れているSNSやテレビについて、「見られる立場」から考えることのできる内容でしたし、阿部寛演じる主人公の本意がつかみにくいこともまた、受け手が主体的に考える材料になっており、だからこそ生まれる「宿題」を持ち帰ることできると思うのです。

ミュンヘン五輪の実際のテロ事件を描く映画も公開

『ショウタイムセブン』は完全にフィクションですが、2月14日からは同じようにテロ事件におけるテレビの舞台裏を描きながらも、「実話」を映した映画『セプテンバー5』も公開されます。同作は第97回アカデミー賞で脚本賞にノミネートされています。

描かれるのは、ミュンヘン五輪開催中の1972年9月5日に、イスラエル選手が人質となる五輪史上最悪のテロ。その歴史的中継は、ニュースとは無縁のスポーツ番組チームが行っていたのです。情報が錯綜(さくそう)している中で決断を迫られる、テレビクルーたちの緊迫感に満ちた時間を擬似体験できることに、大きな意義がありました。

『ショウタイムセブン』と『セプテンバー5』は題材と視点が似ていながらも、映画としての見せ方や作品が目指す方向性が、対照的に見えることもまた興味深いものがありました。ぜひ併せて見ていただきたいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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