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【井田千秋氏インタビュー】漫画執筆で自問自答の嵐!? 注目作家の初のエッセイ漫画『ごはんが楽しみ』のこだわりとは?

  • 2024.12.21

生活に欠かせない「衣食住」。他の人がどんな「衣食住」で暮らしているのかは興味がわくところだ。要素の一つである「住」に着目し、さまざまな家とその住人がどんな暮らしぶりなのかを描いた『家が好きな人』は、「このマンガがすごい! 2024 オンナ編」で7位にランクインし、話題を集めた。描いたのはイラストレーターとして活躍する井田千秋さん。そんな井田さんが初のエッセイ漫画『ごはんが楽しみ』を2024年10月に上梓。温かみのあるタッチで描かれたイラストを見ていると自然と食欲がわいてくる一冊に仕上がっている。井田さんに本作執筆にまつわるこだわりなどを聞いた。

淡々とした語り口と見応えのある絵。読後感よいエッセイ漫画

――本作は井田さんにとって初のエッセイ漫画ですね。執筆のきっかけを教えてください。

井田千秋さん(以下、井田):エッセイ漫画を描いてみませんか、と担当編集さんからお声がけをいただいたのは、実は『家が好きな人』より前でした。その頃は自分自身を描くことや、漫画の難しさに直面して挫折を経験していた時期でした。その後、『家が好きな人』を描いたことで、拙いながらも、生活の様子を絵で描くことや、漫画を作ることのおもしろさが少し分かってきました。その上でエッセイ漫画に改めて挑戦できたことは、担当編集さんをとてもお待たせしてしまいましたが、結果的に良かったなと思っています。

――本作は「ごはん」がテーマですね。その理由は?

井田:私のことを知らない方も当然読まれるので、一つテーマを決めることで手に取ってもらいやすいのでは、と担当編集さんからアドバイスいただきました。描けそうなテーマを箇条書きにしたところ、食に関連するものが多かったため、本作のテーマが決まりました。

――エッセイ漫画の難しさはどこにありましたか?

井田:自分の話をどのようなテンションですればいいのか、ということでしょうか。生活感のある個人的な話を漫画にするということで、「これって第三者が読んでおもしろいのか?」「わざわざ話すこと?」などと自問自答が止まりませんでした。

――自問自答はありつつも、1冊描ききりましたね。何を大事に執筆されたのでしょうか?

井田:エッセイとは私的な話をしていいのだ、そういうものだと腹をくくって。共感してもらうとか分かってもらおう、知ってもらおう、みたいなことは一旦置いて、私が楽しくて好きなことを淡々と描くことを大事にしました。大袈裟に表現しないこと、押し付けがましく描かないこと、嘘を描かないこと。それから、自虐や卑下をしないことを大事にしました。何かと比較することもなく、ただ「これを食べます」「これが好きです」「こんなことがありました」という話をしました。

生活の話は共感を期待できる一方で、生活スタイルは千差万別です。描いた内容の良し悪しみたいなことは読者の方々に委ねるとして、ただ事実を描けたらいいなと。喫茶店で隣のテーブルの雑談が耳に入った、くらいの気楽さで聞いてもらえるといいな、と制作中に考えていました。結果、自分の話を人にすることはどちらかといえば不得手でしたが、エッセイを描いたことで以前よりは話せるようになった気がします。自分自身と向き合うことになって、好みや習慣を改めて知ったり、思い出したり、自分の情報を整理する時間にもなりました。

――「喫茶店で隣のテーブルの雑談が耳に入ったくらいの気楽さ」というトーンに納得です。軽やかな語り口で、非常に読後感が良かったです。同時に、コマ外にもエピソードにまつわる料理や小物が描かれていて、見応えのある作品に仕上がっているのも魅力だと思いました。

井田:先ほど淡々と……とお話ししましたが、本として見栄えや魅力もほしい。前作の期待値で手に取られる方も多いと思ったので、画面の華やかさも大事にしました。今回は文字量が多いこともあり、見やすさを考えて比較的シンプルなタッチでまとめることとしましたが、メインになる食べ物や小物をカラーでしっかり描くことで、良いアクセントになると思いました。話が淡々としている分、良いリズムもできるかなと。また、挿絵的に女の子の絵も描いたのも同様で、これも前作からのイメージの差異をなるべく減らしたかったのと、画面を賑やかにするため。ちなみに、人物イラストが入るとそれを自画像と取られかねないので、私をクマの姿としたのもそれが理由の一つです。

――食べ物を描く際のこだわりポイントを教えてください。

井田:食べ物などしっかり描き込む絵は、基本的に自分で撮った写真をもとに描きましたが、写真そのままにならないようにはしたいなあと思っています。どこを美しいと思うか、おいしそうだと感じるのか、そのポイントを分かりやすく表現したくて艶や焦げ目を強調してみたり。つい描き込みすぎてしまうから、うるさくならないよう気をつけました。今回は文字も絵も詰め込んでしまったので、文字を含めた画面のバランスにも悩みました。

純粋に食べることが好き。食器の力に助けられることも

――エピソードを拝見していると、井田さんは料理が億劫に感じられるタイプではなさそうですね。いつから料理には親しんできたんでしょうか?

井田:大学進学から親元を離れて自炊を始めました。食べたいものを自分で作れる、そのままかもしれませんが、それが料理の良いところな気がします。億劫に感じて便利なものに頼ることも頻繁にあります。それでも料理自体が嫌いにならないでいるのは、適当にやっているゆるさが良いのかもしれません。あと、できるだけおいしいものが食べたい。料理というか、純粋に食べることが好きなんでしょうね。本作でも描きましたが、食器集めが楽しくなってからは「このお皿を使いたいから今夜はこれ」といった発想になることも。食関連の好きなもののパワーも大きいかもしれません。料理は盛り付けでネギやパセリ、薬味を添えた時の「できあがり」の瞬間が好きです。絵の仕上げにツヤを入れるみたいな感覚に似ています。

――「朝のパン」に登場するパン、どれも一手間を加えられていて、食欲がそそられました。準備に時間がかかるのではないですか?

井田:15~30分くらいです。オムレツを作るような火を使うものや野菜をたくさん切るような日は多少時間がかかりますが、基本的にはのせて焼いて終わりです。一番よく食べるのはチーズとハムをのせたものなので、本に描いたようなものばかり食べているわけでもありません。ポテトサラダなどお惣菜系は前日の余りがあれば作っていますね。スーパーのお惣菜なこともあります。朝に考えながら作ると私は時間がかかるので、前日に決めておきます。

――「おやつ缶」のエピソードも印象的でした。お母様から送ってもらった六花亭の缶を使われているのですよね。こちらは、いつから使われているのでしょうか?

井田:3年ほど前だと思います。コロナ禍におやつを送り合っていた時期があったような気がしていて、その時にもらった缶ですね。それ以前は、おやつは台所の棚やダイニングテーブルの隅に無造作に置いていました。今も缶に収まりきらないと台所のどこかに置くことになりますが、とりあえずここに置く、と置き場所が決まっているとなんとなく落ち着きますね。

――『家が好きな人』や食器好きのエピソードもあって、井田さんは愛着のあるものが多く、物が多くとも整った生活をされているイメージがあります。実際のところはいかがでしょうか?

井田:こだわりのあるものだけを身の回りに……とても素敵なイメージを持っていただけて恐縮ですがそんなこともないですよ。ぼろぼろになっても使っている引き出しとか特に好きではないゴミ箱とかもあります。できれば好きなものを使いたい気持ちはもちろんあるし、家に好きなものもたくさんありますが、絶対そうでなくては!というほど強いこだわりもないような。語弊があるかもしれませんが、野暮ったい雰囲気も好きです。好きなものもそうでもないものもあってよくて、憧れは持ちつつも、困ってなければいいかな~くらいのゆるさでいきたいです。あとずっと家は散らかっています。整理整頓は一生できる気がしないです。

――現在「ごはん」にまつわるもので欲しいものは何ですか?

井田:蒸篭(せいろ)です。焼売とか蒸しパンとか、おいしく食べたいです。台所が厨房っぽくてかっこ良くなりそうなので、まずは置いて眺めたいです。ずっと欲しいとは思っていたんですが、急ぐ買い物でもないので買わずじまいに……無印良品で出たそうなので今度見に行ってみるつもりです。あとグラタン皿ですね。今はオーブントースターがなくて、できればグリルで焼きたくて。直火OKで素敵な器と出合いがあると良いなと思っています。

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

井田:いつもあたたかい応援をありがとうございます! 新刊のお好きなページや皆さんの好きなごはん、お店、食器などをご感想とあわせて教えてもらえるのも嬉しくて、本を通して皆さんとおしゃべりしているようで楽しいです。またぜひ教えてください。おいしいものを食べてあたたかくしてお過ごしください!

取材・文=西連寺くらら

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