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政治はプロセスに宿る。コロナ禍の動画コンテンツの広がりで気づいた現代を知るための『楽しい政治』

  • 2024.12.13
ダ・ヴィンチWeb
『楽しい政治―「つくられた歴史」と「つくる現場」から現代を知る』(小森真樹/講談社選書メチエ)

「政治」と聞いてどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。柔らかいというよりも硬いイメージを、簡単というよりも難しいイメージを連想する方がほとんどでしょう。

『楽しい政治―「つくられた歴史」と「つくる現場」から現代を知る(講談社選書メチエ)』(小森真樹/講談社)は、政治が日常生活や身の回りの事物に織り込まれていることを示し、こうした先入観を解きほぐしてくれる一冊です。

本書は二部構成になっており、第一部では映画作品を題材に、歴史の「語り方」が社会構造に強く影響していることが明らかにされています。第二部では、「結果」として起きている社会運動を観察しながら、理想的なコミュニケーションの形を考察していきます。本書は映画の本ではありませんが、この記事では映画界の話題を中心にご紹介します。

著者はコロナ禍のアメリカを観察し、いわゆる「おうち時間」を通じて、様々な情報が動画コンテンツを通じて伝達・伝播していき、MeTooやブラック・ライブズ・マターという運動につながっていったことに強いインスピレーションを受けています。「政治」というのは選挙時のマニフェストのような目的に宿るのではなく、情報を知りコミュニケーションをとる経過・手段の中にこそ宿るのだと再認識したのです。

たとえば、2021年に制作されて多くの受賞を果たしたクロエ・ジャオ監督作『ノマドランド』。車上生活者を現代のノマド(遊牧民)ととらえ、彼らの生活をフィクションとドキュメンタリーをミックスさせて描いた作品です。本作では、本物の車上生活者をキャスティングする「当事者キャスティング」が行われました。

彼らはなぜ車上生活者になったのか? どんな生活を送っているのか? どうやって生活費を得ているのか? そういったリアリティを描くためではなく、被写体がカメラの前でありのままでいることで、自ずと物語が立ち現れてくるというスタンスが貫かれています。

つまり、撮影は目的ではなく手段ということ。そして本書に収録されている出演者の声に、柔らかく解きほぐされたような、手に取りやすい「政治」が宿っているというのが著者の見解です。

「私たちが撮影の材料だったとは感じていないわ。一人一人がストーリーを語っていた。映画は監督にとってだけでなく、私たちノマドにとっても素晴らしいものだったわ。私たちの心情、それにライフスタイルの現実を映してくれたから」ダ・ヴィンチWeb

先述したのは第一部の内容で、要因から結果までを辿って「つくられかた」をひもといていますが、結果から要因へと遡り「つくりかた」を考察するのが第二部です。

たとえば、米・アカデミー賞が2020年代に入り、ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包括性)を配慮した基準を取り入れはじめたことはご存じの方も多いと思います。なぜそうなったのか? 要因には、世界各地で課題となっている「分断」、そしてコミュニケーション機会の欠如があります。

SNSの炎上やキャンセル・カルチャーに顕著なように、ウェブとリアルが複層化した「現場(フィールド)」では、人々が場を共有できない状況になってしまう。関わる場もうまく育たず、複数の作法が併存して、すれ違うなどして、場の操縦がうまく定まらずにいる。本来なら言論が拠って立つべきコミュニケーションのための空間が揺らいだ状態にある。

こういった基準をつくったり取り入れたりすることは「目的」ではなくあくまで「手段」に過ぎません。ときには衝突もしながら「知る」ことを楽しみながらコミュニケーションをすることで、結果として基準などのアウトプットが立ち現れてくる。アウトプットそのものではなく、その過程こそが「政治」なのだということを本書は教えてくれます。紹介されているのは海外の社会問題の事例が多いものの、ふと見渡したときに目に入る事物の細部の見え方が変わるような一冊です。

文=神保慶政

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