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安部若菜 エッセイ連載「私の居場所は文字の中」/第8回「豊かな人生とは」

  • 2024.12.13

「よいお年を」「また来年」という言葉が好きです。

仕事柄、毎日別の方とお会いする機会が多いので、この言葉で別れるたびに少しずつ店じまいをしていくようで、1つ整理がつくような気がします。

師走、という言葉もよく12月を表したものですよね。昔も今も12月の忙しさは変わらないことに安心を覚えます。私は変わらないものが好きみたいです。

そんな少しの時間も惜しいこの時期にふと、旧暦ってどんなんだっけ?と思い起こしてみました。

睦月、如月、弥生、卯月、5月6月を忘れ、文月、8月9月も飛ばし神無月、11月もどこへやら、あっという間に師走。

ほぼ半年がなくなってしまう結果に。 幼稚園、小学校の頃に一生懸命覚え、今となっては使うこともない旧暦ですが、忙しさの中に埋もれていくこういうものをまた1つずつ覚え直していきたいです。 枕草子の春夏秋冬も暗記していたのに、今となってはうろ覚えですし…。 冬はつとめて。わろし。

生活には直接の必要がないもの。それを大事に出来る豊かさがある人生を作っていきたいと常々思います。

きっと小説もその類でしょう。 本を読まない人が増えている時代に、小説の存在とは何なんだろうと考えることがあります。

架空の物語。いわば、誰かの想像をとんでもない文字数で書き連ねたもの。 どうしてそれを読むの?と言われたら…小説好きは何と答えるのでしょうか。

私は、ただ、小説を読むのが好きだから。知らない人の知らない人生を垣間見れるのが楽しいから。違う世界に行きたいから。私にとっての「居場所」だから。

こんなことしか答えられず、これでは、今小説を読むのが好きではない人に読ませるまでの動機にはならないかもしれません。

でも、今小説に興味がない人も、いつか小説が人生の一部となる瞬間があればいいなと勝手に願っています。

私にとっての「居場所」が誰かにとっても居場所になり、1冊の本を通して繋がっている誰かがいる。それってすごく豊かなことですし、いつまで経っても消えることのない繋がりです。

1年を振り返った時、「今年は沢山本が読めたなぁ」と思えたら、私は何よりも幸せな気分になれることでしょう。自分なりの豊かさを、自分なりのペースで積み重ねていけますように。

安部若菜の最近読んだ本

ダ・ヴィンチWeb
『私の居場所はここじゃない』(安部若菜/KADOKAWA)

『私の居場所はここじゃない』

すみません、今回は自分の本を紹介させていただきますね。

ちょうど1週間前に発売してから少しずつ感想も届き始めており、すごく嬉しく、大切に感想を読んでおります。手に取ってくださりありがとうございます!

「夢」をテーマに、高校生5人が夢の舞台を目指すストーリーを通し、純粋に夢を追いかける眩しい子や、長年の夢を見失いつつある子、夢の在り方を見つめ直したり、普通な自分から特別になりたいともがいたり、自分の居場所が欲しいと願ったり…。

5章に分けて5人の姿を描き、読み終えた後に爽快な気持ちになってほしいと願いを込めました。

そして感想を頂いて気づいたことがあります。

青春の眩しさ、苦しさ、嫉妬、夢への希望。 そういった高校生たちの物語に、現役の高校生はもちろん、現役でなくとも昔を思い出し共感出来るのではないかと考えていましたが、そうではありませんでした。

思い出すように自分を重ねるだけではなく、何歳になってもその気持ちが色褪せないこともあるのだということに、恥ずかしながら改めて気付かされたのです。

1冊を通して受ける感情は当然人それぞれだと思いますが、青春の行先がどこまでも続いていることを感じ、何だか今後の人生が少し楽しみになりました。

「この本を通して、誰かが少しでも楽しい時間を過ごせますように」そう思っていたはずなのに、私が明るい気持ちをお裾分けしてもらってしまうなんて。

今後、偶然の出会いでこの本が皆様のもとに、そしてまだ見ぬ読者の方の手にわたり、明るい気持ちのお裾分けが出来ますように。

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