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潮の香りがした。石畳の、世界一穏やかな人々のいるウィットビーの街

  • 2024.12.13

イングランド北部にあるウィットビーという港町には2回行った。

12月と7月に行き、私は冬と夏の2つの季節を楽しんだ。ドラキュラ発祥の地であり、かつて女王が愛した漆黒の石ウィットビーの産地であることから、観光地としても人気がある。

2回とも、留学に来て一番最初にできた友達と訪れた。

彼女は偶然にも国民的アニメの少女と同じ名前を持っていたが、その子の実家がウィットビーにあるというのだ。彼女は大学で韓国語と日本語を学んでいて、私たちはよく言語交換をしていた。

1度目はウィットビー近くにあるロビンソンという海辺の街で、フィッシュアンドチップスを食べた。イギリスに来てあまり魚が美味しいと感じたことはなかったが、やはり海に近かったためかカリカリに揚げられた衣の中身はジューシーだった。

ウィットビーの街は活気にあふれ建物の色味も他のイギリスの都市とはどこか違い、明るい色が多かったように感じる。観光客も多く訪れていた中、通りで一団が民族音楽を演奏していたり町の集会所ではチャリティマーケットが開かれたりなど、ローカルな側面も垣間見えた。

◎ ◎

夏休みが始まり既に帰省している彼女のもとへ、1人で電車を乗り継いでいった2度目の訪問。駅からはバスで移動したのだが、2階の席に乗ってしまったがために起伏の多い田舎道を走っている途中少し酔ってしまった……。

そうしてたどり着いたウィットビーでは彼女と彼女の両親が迎え入れてくれて、その日は彼女の家に泊まらせてもらった。

お母さんは専業主婦で、私のためにと典型的なイギリス料理をつくってくれた。スコッチエッグやガトーショコラ、イングリッシュブレックファスト。大きなオーブンに皿ごと入れてローストされた、できたて料理はまさに彼女の家庭のような匂いがした。

お兄さんが帰ってきて、彼女さんと一緒に現れた。兄は変わり者だと友達から聞いていたため少し構えていたが、実際に会ってみると変人、というよりはユーモアのある人だった。妹を茶化したりしているけれどそれが愛情表現になっていると思った。

◎ ◎

私と友達と、お兄さんと恋人とで近くのビーチにジェットという宝石を拾いに行った。

その漆黒の宝石を欲しいと思ったけれど、前に店で値段を見て私は買うのを諦めた。そこで彼女はクリスマスに、天然の採れたままのジェットを私にくれたのだった。お父さんが海で拾ったものらしかった。私はそれをレシートで磨きワイヤーでつないでペンダントにした。そして、今度は私も自分で見つけてみたかった。

その日はなかなか見つからず、見分け方を知るお兄さんたちは時間をかけて探してくれた。

夜はテレビを見てホットチョコレートにマシュマロを浮かべてくつろいだ。ユーロカップの話だとか新しい大統領の話だとか、他愛のない話をした。彼女の家の庭にはフクロウが住み着いているそうで、窓を開けるとフクロウの鳴き声が聞こえた。

ウィットビーの人は優しくて、すれ違って目が合えば微笑み、前を歩いていた人は踏切を通るための柵を開けて待ってくれていた。

◎ ◎

潮の香りがした。いつでもまた戻ってきておいでと最後に彼女の両親はそう言ってくれた。
彼女は私の帰国と入れ違うように韓国へ1年間の留学に行く。留学中日本にも旅行に行くとは言ってくれたけれど。それでも次会えるのはまだ遠い先で、必ず会える保証はない。

私たちは別れ際に、大きなハグをし合った。たくさんの愛をくれてありがとう。心からそう思えるほど、平和で優しい時間だった。

忘れられない思い出は奥深くにしまわれ、私は潮風を感じる度にこのウィットビーの匂いを思い出すのだろう。

石畳を歩き中古の本屋で買い物をし、語り尽くしたあの街を。ヨークシャー訛りに浸されたあの街を。世界一穏やかな人々のいるあの街を。

私が留学していた期間、どこ行きたい何したいと私に数々の経験をさせてくれた彼女。来年の春、彼女と彼女の両親が日本に来るときは。彼女が私にしてくれたように、色々なことを見せて体験させてあげたいと思った。

■夢月和のプロフィール
実家暮らしの大学生。3人姉妹の長女。文章を書くことが好き。美しい景色や植物の写真を集めている。

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