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『ザ・バイクライダーズ』ジェフ・ニコルズ監督に単独インタビュー。「人の顔や行動こそがシネマ」

  • 2024.11.30

『マッド・マックス/怒りのデス・ロード』(15)や「ヴェノム」シリーズのトム・ハーディ、『最後の決闘裁判』(21)のジョディ・カマー、『エルヴィス』(22)のオースティン・バトラー、そして二度にわたりアカデミー助演男優賞にノミネートされた名優マイケル・シャノン。映画ファン垂涎の実力派キャストを揃えた映画『ザ・バイクライダーズ』が公開中だ。

【写真を見る】オースティン・バトラーとトム・ハーディが共演。『ザ・バイクライダーズ』ジェフ・ニコルズ監督が語る撮影の裏側

監督を務めたのは『MUD マッド』(12)、『ラビング 愛という名前のふたり』(16)のジェフ・ニコルズ。スリラー、SF、伝記映画と毎作異なるジャンルを扱いながら、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の常連として評価され続ける俊英だ。そんなニコルズ監督の最新作『ザ・バイクライダーズ』は、アメリカの写真家ダニー・ライオンが1965~73年にかけて、シカゴのバイクライダーたちの日々を綴った同名写真集にインスパイアされた人間ドラマ。モーターサイクルクラブでの日々から、組織が先鋭化し暴力に支配され、崩壊していく模様がドキュメンタリータッチで描かれている。

多彩なジャンルの映画をつくり続けている鬼才、ジェフ・ニコルズ監督 [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC
多彩なジャンルの映画をつくり続けている鬼才、ジェフ・ニコルズ監督 [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC

今回、ヒリヒリするような暴力とリアルでエモーショナルなドラマが同居する本作について、ニコルズ監督に話を聞いた。インタビューの聞き手を務めるのは「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞し、清水崇監督のプロデュースによる長編初監督作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025年1月24日公開)を手掛けた近藤亮太監督。「イシナガキクエを探しています」「行方不明展」など、話題作の映像演出を次々と手掛けている期待の新鋭が、映画監督を目指すうえで「とても大きな影響を受けた」と語るのがニコルズ監督だという。

「ダニー・ライオンが写真集として残したものに、自分なら命を吹き込めると感じた」

モーターサイクルクラブのリーダーの側近で無口なバイク乗りのベニー(オースティン・バトラー) [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC
モーターサイクルクラブのリーダーの側近で無口なバイク乗りのベニー(オースティン・バトラー) [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC

――『ザ・バイクライダーズ』は写真集から影響を受けて作られたとのことですが、 写真集のどのような点に魅力を感じたのでしょうか?

「インスパイア元となった写真集には、ダニー(・ライオン)が観察していた人々の顔と行動が記録されていました。私は、人間というのはそもそもシネマティック=映画的な存在だと思っています。映画は画面のビジュアルや演出で語られがちですが、私にとっては人の顔や行動こそがシネマです。 写真集の中でも、そこが描かれている点に魅力を感じ、この特異なサブカルチャーに生きていた人々のパーソナリティで、スクリーンをいっぱいにしたいと考えました」

――人の顔と行動こそシネマ、というのは監督の作品を観ていて非常に感じます。過去作と異なる点はありますか?

「今回はいままでの私の作品と比べると、ボイスオーバー(劇中人物によるナレーション)を用いていたり、 音楽も物語に寄り添ったりするようなものになっています。これは過去にはやっていない手法で、フィルムメーカーとしては挑戦でした。私自身は劇中のモーターサイクルクラブのような文化の一部ではありませんでしたが、ダニーが写真集として残したものに、自分なら命を吹き込めると感じて、この映画に取り組みました」

モーターサイクルクラブ「ヴァンダルズ」のリーダー・ジョニー [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC
モーターサイクルクラブ「ヴァンダルズ」のリーダー・ジョニー [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC

――映画には、写真集にも登場する、個性的でユニークなキャラクターが多数いますが、キャラクターはどのように作り上げていったのでしょうか?

「たとえば、ジョニーというキャラクターについては、トム(・ハーディ)が演じることで完成したと思います。考えてみると、ジョニー自体が、“クラブのリーダー”という役を演じているところがあります。トムがそれを見事に表現してくれました。元となるダニーの本にそういうキャラクターたちの一面が描かれていたから、俳優たちも私自身もキャラクターを作ることができたのだと思います」

――実際の記録を共有しながらキャラクターを作り上げたんですね。

「はい。キャシーや コックローチ(エモリー・コーエン)も、実際に存在している人物がモデルになっています。キャシー役のジョディ(・カマー)には、キャシーが実際に話しているオーディオが残っていたので、音源を一時間分送りました。その甲斐があって、本当に見事に演じてくれましたね。トムと最初に話をした時、トムがふざけて『キャシー役をやらせてくれないか』と言ってたんです(笑)。きっとそのくらいキャシーが脚本の中で一番立体的にキャラクター像が見えていたんだと思います。ダニーが残してくれた本のおかげです」

 ベニーと恋に落ちて結婚するキャシー(ジョディ・カマー)は本作のストーリーテラー [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC
ベニーと恋に落ちて結婚するキャシー(ジョディ・カマー)は本作のストーリーテラー [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC

「人の行動はとてもユニーク。それは常に私たちの感情が反映されているから」

オースティン・バトラーとジェフ・ニコルズ監督 [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC
オースティン・バトラーとジェフ・ニコルズ監督 [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC

――監督の作品は、心理表現・心情表現が非常に巧みです。いつもどのようにして考えているのでしょうか?

「私の中では二つの視点があると思います。というのは、私自身がライター・ディレクター(脚本家兼監督)なので、まずは脚本家としての思考があるんです。いつも考えているのは、人の行動はとてもユニークだということ。 本当に欲しいものは口にしなかったり、 自分にとって最善じゃないことをあえてしたり、 時に奇妙な選択をします。それは常に、私たちのフィーリング=感情が反映された行動なのだと思います。脚本家としては、まずどのシーンでも、キャラクターが感じていることはなんなのか?を考えて書いています」

――なるほど。俳優とはどのようにコミュニケーションをとっていますか?

「まず俳優に対して、難しいと感じた時は声をかけてほしいと伝えています。脚本を書いた時点で、どのような意図で書いたのか、 どのようにキャラクターを理解していたのか、 といったことを、俳優に対してなるべく正直に伝えています。時には俳優の演技について『ここでは怒りが前面に出ているけれど、実は恐れているのでは?』といったようなことも率直に話したりしますね」

 巨大なチームになっていく「ヴァンダルズ」はやがて暴力に支配され… [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC
巨大なチームになっていく「ヴァンダルズ」はやがて暴力に支配され… [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC

――監督として感じていること、俳優が感じる難しさを互いに共有しあっているんですね。

「そうですね。そうすると俳優も安全に感じるらしく、すごく解放されたように演じてくれます。 実際にオースティン(・バトラー)にも言ったんです。『この作品は撮影前の時点で、自分の頭の中ではもう撮影したも同然なんです』と。それが最善のバージョンではないかもしれないけれど、 そのつもりでいるので、なにか疑問があったら言ってくれ、と伝えました。 そうすると、 みんな安心して演技をしてくれます。 あとは座って撮ればいい。それになにより大きいのは、すばらしい俳優たちと仕事ができているということだと思います」

――これまでジャンルが異なる映画を撮っていますが、一貫したトーンや作家性を感じます。どのように意識して作っているのでしょうか?

「おそらく、物語に関するアプローチによるのではないかと思います。 私はプロットよりも感情面でのクライマックスを意識しています。“エモーショナル・パンチ”と呼んでいるのですが、クライマックスで感情的にグッとくるものに辿り着く。それさえあれば、どのジャンルでも応用できます」

 【写真を見る】オースティン・バトラーとトム・ハーディが共演。『ザ・バイクライダーズ』ジェフ・ニコルズ監督が語る撮影の裏側 [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC
【写真を見る】オースティン・バトラーとトム・ハーディが共演。『ザ・バイクライダーズ』ジェフ・ニコルズ監督が語る撮影の裏側 [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC

――監督ご自身は、どのような作品や監督、 文化に影響を受けていますか?

「映画と同じくらい文学に影響を受けていますね。 初期の自分の作品はラリー・ブラウンやウィリアム・フォークナーなどの南部の作家や、アメリカ文学の影響が強いです。今回の作品にも関連付けられそうなところだと、ポール・ニューマンが主役をやっていたような60年代の映画作品に影響を受けています。たとえば『ハスラー』や『暴力脱獄』は、アメリカ文学が原作で、 キャラクター優先になっています。だからこそ、このキャラクターは何者なのかを掘り下げることができる。そこにおもしろみを感じます。 もちろん、映画や監督名を具体的に挙げることはたくさんできるのですが、これが一番いい回答だと思います」

『ザ・バイクライダーズ』(公開中) [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC
『ザ・バイクライダーズ』(公開中) [c]2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. [c]2024 Focus Features, LLC

作品から受ける印象そのままに、誠実で丁寧に、なおかつ熱く自作について語る姿が印象的なジェフ・ニコルズ監督。『ザ・バイクライダーズ』では、多くの人にとって馴染みの薄いであろうモーターサイクルクラブについての物語を、繊細な作家性を存分に発揮し作り上げている。ぜひ映画館で、エンジン音に耳を澄ませてほしい。

取材・文/近藤亮太

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