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“まんがの集英社”の総力を結集! 22年ぶりにリニューアルした『学習まんが 世界の歴史』のポイントは?【編集者インタビュー】

  • 2024.11.29

10月に発売された「集英社版『学習まんが 世界の歴史』」。2026年に創業100周年を迎える集英社の「創業100周年記念企画」の一環として刊行された。多くの読者に愛され続けてきたロングセラーシリーズの、22年ぶりの全面リニューアルで、荒木飛呂彦氏など集英社の人気まんが家が表紙を描いたことでも注目を集める本シリーズ。ではどの部分がどのように変わったのか? ――今回のリニューアルに関わった集英社 児童書編集部副編集長の加藤義弘さんにお話を伺った。

大国だけでなく、多くの国に目を配った再編集

加藤義弘さん(以下、加藤さん):リニューアルというと前作を前提に新しくした印象を受けるかもしれませんが、実質は全面刷新と言いますか。タイトルのみが引き継がれていて、中身はシナリオから作画から全て新しいものになっています。

――そうだったのですね。となるとかなり大きいプロジェクトだと思うのですが、いつ頃から動き出されていたのでしょうか?

加藤さん:2017年頃からまず「どういう目線で作るか」というベースの部分を考えました。その時に“ムンディ先生”という名前でYouTuberとして活躍されている山﨑圭一先生の授業動画を拝見して。学校の授業を受けられない子だったり、既に卒業してしまった子だったりに向けて作られている動画なのですが、すごくわかりやすいんですよ。そこで「山﨑先生に総合アドバイザーをお願いする」という軸が決まりました。山﨑先生は実際に教壇に立った経験もあるので躓く生徒を見てきているから、「理解してもらうためにはどうしたらいいか」という視点をお持ちなんですよね。見せ方を工夫するにあたって、その視点にかなり助けられました。

もうひとつの大きな軸は2021年に改訂された新学習指導要領ですね。改訂されることはプロジェクトが始まった時点で既に予告されていたので、各巻の監修には新しい学習指導要領に合った先生を探しました。

――新しい学習指導要領に合った、というのはどういう意味ですか?

加藤さん:新しい学習指導要領はいわゆる大国の歴史だけでなく、ひとつひとつの地域の歴史や地域間の交流にも重点が置かれているんです。なので新進気鋭の方に新しい視点でお願いしたいという意図で監修の方を探しました。いろんな国の歴史に目配りをできる方にお願いしたことで、たとえば「植民地だった国がその後どう独立していったのか」などさまざまな国の背景や現在に触れることができた内容になったと感じています。

――先ほど見せ方の工夫をしたとおっしゃっていましたが、具体的にどの部分でしょうか?

加藤さん:各巻のまんが本編が始まる前に「ムンディ先生のまるわかり解説」というページがあるのですが、そのテキストは山﨑先生に書いていただき、図のイメージも作っていただきました。初学者、つまり初めて世界史に触れる人にとっては、まんがとはいえどのお話も初見なわけですよね。そこでこのページを先に読むことで、すんなり物語に入れるようにという工夫をしました。

他にも各章の最初にメッセージ系アプリのチャット欄のようなものを入れて、各章の内容をまとめています。「これ何の話だっけ?」となった時に、このチャット欄に戻ると頭が整理される。そんな道標になればと思って作りました。同じく各巻の最初には「この巻の舞台」という地図を入れ、舞台となる場所の位置や地形をまとめています。

“勉強”になる前に読むことで、子どもの世界の見え方が変わる

――私自身、世界史は位置関係がわからず挫折してしまった過去があるので、この地図はとてもわかりやすかったです。主な読者は子どもたちだと思うのですが、どのタイミングで読むのがオススメ、というのはあったりしますか?

加藤さん:個人的な意見になりますが、小学校を卒業した春休みに読んでいただいて、これから始まる世界史にちょっとでも興味を持ってもらえればいいなと思っています。でももちろんそれより前に世界史に触れたいと思っている探求心のあるお子さんにはそのタイミングで読んでほしいので、漢字に読みがなを振っています。

――わが子は小学校低学年ですがまんがが大好きで。まんがだったらなんでも読むので、そっとリビングに置いて「世界史を勉強しなきゃ」と身構える前に手に取ってみてほしいなという思いがあります。

加藤さん:良くも悪くも歴史上で起こっていることって、どの国でも同じことだったりしますよね。誰かが戦って、国が滅びて。『世界の歴史』1巻から18巻まで読んでもらえると、それがいろんな時代にいろんな場所で起きて今の世界に繋がっているんだということがわかるわけです。そうなると世界の見え方が変わってくるんじゃないのかなと思うんですよね。その時は「まんががあるな」くらいの軽いきっかけで読んでもらって、読む中で勉強という意味合いだけではなく、お子様の世界観みたいなものが育まれていくといいなと思っています。

――なるほど。一方でこの22年の間に特に首都圏での中学受験熱はかなり高まったと思うのですが、そのあたりを意識したこともありますか?

加藤さん:私自身も中学受験経験のある子どもがいるのですが、基本的に中学受験は日本史がメインですよね。なので弊社の学習まんが『日本の歴史』の方が中学受験に関してはよりふさわしいのかなと思います。ただ中学受験に時事問題は出題されますよね。そのための参考書ではこの1~2年に世界で起きた出来事が紹介されていると思うのですが、それらの背景が『世界の歴史』16~18巻を読むと見えてくるんです。例えば「どうして今イスラエルがこんなことになっているのか?」という疑問もこのあたりを読むと見えてきます。その意味では16巻以降の近現代から読んでいただくのもひとつかなと思います。

――特に18巻は子どもたちが主人公になっているので、共感しながら読み進められそうですよね。

加藤さん:ちなみに、近現代の巻は2巻分増やしたんですよ。2002年版の「世界の歴史」では第二次世界大戦後の分量は2巻だったので、今回も当初はそのイメージを思い描いていたのですが、制作していくうちに「これでは説明しきれていないのでは」という意見が編集部からも山﨑先生からも上がって。先にお話しした植民地各国の独立についての話を入れ込むにしてもそうですし、ベトナム戦争後の歴史って、我々30、40代の作り手の認識からすると自分が生まれてから起きているので、なんとなく知識があるんですよね。でも読者として想定されている世代からすると、生まれる前のことなわけです。そこに気づいて巻数を増やしたことで、特に現代の歴史はかなりかみ砕いて入れられたんじゃないかなと思います。

――確かに読み手の視点で考えたらそうなりますね。内容はどうやって決定したんですか?

加藤さん:18巻は全5章ですが、最後の章はギリギリまで内容を決めずにとっておきました。最終的にはコロナ禍が収束しつつあるタイミングで内容が決定したのですが、発売時期があと1年早ければコロナ禍で終わっていたかもしれません。最後の章では各国の子どもたちがこれからの世界について話し合うストーリーで、未来への希望を含みつつ終わることができたので、結果良かったなと思っています。

“まんがの集英社“の総力を結集

――ちなみに私自身の大学受験は日本史選択で、世界史は中学校のテスト勉強くらいしたしたことがないのであまりよくわかっていなくて。それが今回「世界の歴史」を読ませていただいて、改めて月並みな感想ですが「歴史って面白いんだな」と感じました。

加藤さん:そう思っていただけるのが一番嬉しいです。世界史の勉強って、「教科書読んだらわかるから」みたいに言われたことがある人が多いと思うんですよね。もちろん教科書には間違ったことは書いていないし端的にまとめられているのですが、では読んだら頭に入ってくるかとなると難しいんじゃないかと思います。

でも学習まんがだったら、主人公の想いだったり、ドラマだったりがある。もちろん脚色している部分はありますが、教科書の行間をうまくドラマにしているのが学習まんがなんですよ。また最近では山﨑先生の書籍も多くの人に読まれていますし、世界の歴史を大人が学び直すという需要もかなりあると思います。そういった方にも対応できるシリーズになっている自負はありますね。

――世界の歴史を題材にした学習まんがは他社からも出版されていると思うのですが、その中で集英社版の強みはどこですか?

加藤さん:やはりまんがとして面白いところだと思います。私自身他社さんの「世界の歴史」も読ませていただいて、それぞれ工夫されていて面白いなと思うのですが、我々は全18巻の流れをすごく考えて作りました。縦と横という言葉が歴史教育ではよく使われるのですが、それぞれの巻に横の目線を必ず入れつつも、全部のストーリーを考えた時に、人類何千年の歴史が縦軸として繋がっていくようにというのは意識しました。

――「週刊少年ジャンプ」「りぼん」と人気まんが誌が多くある集英社の強みが活かされているんですね。

加藤さん:そうですね。編集部員の多くがまんが誌で作家さんと組んでまんが編集をしていた人間なので、その経験が活きていると思います。

とはいえいわゆるまんが誌に連載されているまんがと比べて、学習まんがは監修や校閲も重要なので、まんが家さんが自分なりの創作として描かれている部分にも修正をお願いすることも多く、制作過程で違いがあるんです。そんな中で、脚本家の方も、まんが家さんも「この人は」と思った方にお声がけさせていただいたり、弊社で学習まんがを多く描かれている方にご協力いただいてこちらが勉強させていただいたり。集英社のまんがの力を結集できたと思います。

――今回各巻の表紙は人気まんが家の方が手がけていますよね。

加藤さん:弊社としては2007年のナツイチ(集英社文庫の夏のフェア)から人気まんが家の方にカバーを描いていただいて、それをフックに多くの方に興味を持ってもらうという方法を始めていました。2016年の『日本の歴史』も大きな反響がありました。今回も各雑誌の編集部と相談して、割と早い段階から進めていた企画でした。どの先生にどの巻の表紙をお願いするかという会議はやっぱり楽しかったですね(笑)。中でもナポレオンを荒木(飛呂彦)先生に描いていただこうというのは早い段階から決まっていた記憶があります。SNSでも話題になりましたし、これをきっかけに興味を持っていただいた方も多いと思います。

――個人的に「ここに注目してほしい」というポイントはありますか?

加藤さん:実は今回の『世界の歴史』は2002年版より総巻数は減っていますが、総ページ数は増えているんですよ。その結果、前回の「世界の歴史」で描かれていた出来事に加えて、およそ1章分に相当するエピソードを各巻で足せたというのは大きいです。

例えば第一次世界大戦の第13巻なのですが、だいたいこういう歴史まんがだと第一次世界大戦とロシア革命を描いた上で、「ドイツが賠償金をたくさん背負わされました。ドイツは恨みを募らせて、それが第二次世界大戦に繋がっていくのです」みたいな感じの終わり方をするんですよ。でも今回は、「第一次世界大戦でイギリスとフランスが山分けすると言っていた中東では何が起きたでしょうか」という章を入れたんです。実際ここにはオスマン帝国があったんですけれども、そこに「アラブ人の国を作っていいよ」と「ユダヤ人の国を作っていいよ」と「イギリスとフランスで山分けするよ」という三つの約束が重複してしまったんですね。ここは今でも問題が続いている部分でもあるのでそのエピソードを入れられたのがよかったなと思います。

――歴史をよく知る人にとっても読みごたえがありそうですね。

加藤さん:今言ったエピソードは2017年に『アラビアの女王 愛と宿命の日々』というタイトルでニコール・キッドマン主演の映画の中にも出てくるんですよ。そういう風に以前は目を向けてこられなかった歴史がエンターテインメントの世界で注目を集めていて、世界の歴史自体は同じようでも着眼点は変わっていっているんですよね。そういった意味でも本書は世界の見え方をもう一度整理する手助けになると思うので、家族で楽しめると思います。ぜひ多くの方に手に取っていただきたいですね。

取材・文=原智香、撮影=金澤正平

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