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子どもが思春期になっても「フランク」で「オープン」な関係を築きたい。放置でも過干渉でもない、「ちょうどいい親子関係」って?【わが家の場合】

  • 2024.12.15

ある調査(※1)によると、小学生の保護者の84.6%が家庭での性教育の必要性を認識している一方で、実際に実施しているのは32.1%にとどまっているという報告があります。多くの親御さんが、「家庭での性教育は必要性だけど、どのように対応すれば良いかわからない」と感じているようです。

※1出典:亀石, 知美, 下見千恵. 第 1 子に小学生がいる保護者の家庭で性教育を行う際の支援に関する検証―父母間での性教育に関する意識の違いについて―. 日本赤十字広島看護大学紀要. 2017;17:1-7.(n=131)

誰かの体験談をきくことで、自分では気づかなかった視点に気づき、まるで気心の知れた友人と話した後のように心が軽くなり、「わが家の思春期」に対する対応の糸口が見つかるかもしれません。

思春期のお子さんをもつ親御さんが抱える「子どもの性」に関するリアルな悩みや、その対応策などについての体験談を、紹介する【後編】です。

インタビューを受けてくださったのは、首都圏在住、ひとり親として看護師として働きながら、小学6年生の娘さんと小学3年生の息子さんの育児に奮闘中のJさん(45歳)。親子仲は良好です。家庭での性教育の実際についてお話ししてくれました。

 

「尊重と放置は違う」、思春期のわが子とオープンな関係をつくるには?

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—-家庭で話しやすい雰囲気をつくるために工夫していることや、感じている難しさにはどのようなものがありますか?

子どもたちが自分から話さない限り、どんなことを隠しているのか気づけないので、リアルタイムで娘が何に困っているのか気づけないことに悩みます。体の変化については普通に話してくれますが、学校での出来事や悩みについては、特に娘はあまり話してくれません。

学校から帰ってきたときに表情が暗かったり、なにか言い淀んだりしていると気になりますが、本人が話したくないなら無理に聞くのもどうかと思い、こちらから『話してもいいんだよ』と声をかけ、あとは話してくれるのを待っています。本当に困ったときには話してくれると思っていますが…。時々、「私はいつでも何があってもあなたの味方だから、何かあったら話してね」と伝えるようにしています。

 

—-お子さんを尊重し見守ることを大切にされていますが、どのようにして踏み込むかどうかのバランスをとっているのでしょうか?

尊重することと放っておくことは違うと思っています。私自身も母子家庭で育ち、母親が朝晩働いていたため、母親に学校のことを話したこともなければ、聞かれたこともありませんでした。正直、放っておかれた記憶しかありません。

私もひとり親で仕事をしているという状況は同じですが、あの時の経験を反面教師にして、同じようにはなりたくないと思っています。とはいえ、過干渉になられるのも自分だったら嫌だと思うので、『いつでも聞く準備はあるよ。でも、言いたくなかったら無理に話さなくてもいいよ』という気持ちを娘にどう伝えたらいいのか、いまだに正解はわからないです。

 

—-Jさんの子どもの頃の話をお子さんにすることはありますか?

私が過去に嫌だと感じたことについて、子どもたちにも話をしています。夜勤の際には今も私の母に子どもたちを預けているため、子どもたちは母の性格も理解し、共感してくれています。友達親子のような関係にはしないけど、フランクで気軽に話せる関係でありたいと思っています。

 

 

◆尊重されることで育まれる健康的な関係。役立つ概念「バウンダリー」

子どもが話しやすい環境を整えるためには、Jさんのように、適切な距離感を保ち、必要なときに支えとなる姿勢を示すことが、健康的な関係を築くための第一歩といえます。

児童精神科医として40年以上にわたり多くの子どもと親に向き合ってきた佐々木正美氏は、その著書で『思春期の子どもに大切なのは親が意見を言わずに黙って見守ることです』と述べています(※4)。

 

ただ、親が子どもを「尊重」しているつもりでも、実際は「放置」してしまっているというケースも……。子どもを尊重するとは、対話を重視し、その個性や意思を認めつつ、社会のルールやマナーを教え、適切に支援することです。一方、放置は、子どもに無関心で対話が少なく、思いや考えに耳を傾けず、必要なサポートを怠ることを指します。

 

思春期のわが子とオープンな関係を築くには、子どもを尊重し、過度な干渉を避け、子どもが安心して話せる環境づくりが欠かせません。

Jさんは、尊重が過干渉になってしまう可能性に悩まれていましたが、その防止に役立つ概念に「バウンダリー」があります。バウンダリーとは、自分と他者とを区別する境界線のことです。どんなに親しい関係でも、踏み越えてほしくない線は存在します。この境界線を明確にすることで、親は過干渉を避けつつ、子どもが自ら考え判断する余地を持ちつつも、困ったときには頼れる存在として信頼される関係を築けます。これは、ひとり親であるか、両親が揃っているかに関わらず重要な要素です。

しかし、このバウンダリーを適切に設定・維持するには、常に意識して練習することが必要です。そのため、ユニセフやユネスコなどが作成した、包括的性教育の国際的な指針や基準である、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス改訂版」では、個人の境界線(パーソナル・バウンダリー)が重要な概念として位置付けられています。

思春期は自己のアイデンティティを形成し、独立心を育む時期であり、親子間の適切な境界線は、子どもの成長に欠かせないものと言えるでしょう。

※4出典:佐々木正美.ひとり親でも子どもは健全に育ちます: シングルのための幸せ子育てアドバイス.小学館.2012

 

【参考資料】

  • ユネスコ=編 浅井春夫/艮香織/田代美江子/福田和子/渡辺大輔=訳.国際セクシュアリティ教育ガイダンス改訂版.明石書店.2020
  • 水野哲夫 (著), 柿崎えま (イラスト).人間と性の絵本〈3〉思春期ってどんなとき? 大月書店.2021
  • まるっと!からだとこころの科学まなブック. 【レベル2:8-12歳】思春期②. 令和5年度厚生労働科学研究費補助金(女性の健康の包括的支援政策研究事業) 「保健・医療・教育機関・産業等における女性の健康支援のための研究」(20FB1002)(厚生労働科学研究班荒田班)
  • 平谷優子. ひとり親家族に関する国内文献レビュー: 2007‒2014 年の論文を対象とした検討. 家族看護学研究. 2019;25(1):160-74.
  • 道園亜希、古田祐子、佐藤繭子、石村美由紀.小学4~6年生の子どもを持つ保護者が家庭で行った就学前後の性教育の実態.福岡県立大学看護学研究紀要 16,63-71,2019
  • 自分と他者を区別する境界線「バウンダリー」とは?ソーシャルワーカー鴻巣麻里香さんによる解説.こここスタディ20.
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