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『キャプテン翼』高橋陽一「良いシュートが描けるとゴールさせたい」。ネーム連載の最新シリーズで22歳の大空翼が❝W杯優勝❞を掴むまでの構想とは【インタビュー】

  • 2024.9.27

1981年に連載を開始したサッカー漫画『キャプテン翼』(高橋陽一/集英社)。2024年4月に大空翼率いるU-23日本代表がマドリッド五輪に挑む『キャプテン翼 ライジングサン』が最終回を迎えた。物語はマドリッド五輪準決勝、日本対スペインの後半途中で幕を閉じた。

そして今年7月、WEBサイト「キャプテン翼WORLD」にて前代未聞の“ネーム連載” という形で『ライジングサン』の続編『キャプテン翼 ライジングサンFINALS』がスタート。

本記事では作者・高橋陽一さんにインタビューを実施。ネーム連載に至った経緯と、これから描かれる物語の構想を伺った。

第1シリーズの連載開始から43年、最新話時点での大空翼の年齢は22歳だ。選手としてまだまだ成長期真っただ中の翼は、これからどんな戦いを繰り広げて「日本のW杯優勝」という夢に近づいていくのだろうか。

良いシュートが描けるとゴールさせたくなる

――2018年のインタビューでは「ドイツ戦、準決勝と決勝の3試合は最後まで描くと決めて取り組んでいる」と仰っていましたが、結果として準決勝の後半途中でネーム連載に切り替わることになりました。

高橋:準決勝までが想定よりも長くなってしまって。今の自分の年齢を考えたとき、もしかしたら最後まで描けないかもしれないと思ったんです。

――なぜ想定以上に長くなったのでしょうか?

高橋:(日本対ドイツ戦前の)ブラジル対ドイツ戦は翼たちが出ない試合なので、本当はもう少し短くまとめるつもりだったんです。でも各国のライバルたちが本当に魅力的で、描いていて楽しくなってしまって(笑)。予定外のシーンをどんどん追加していたら、終わらなくなってしまいました。

――過去のインタビューでも「描いていくなかで試合結果が最初の構想と変わることもある」とおっしゃっていました。『ライジングサン』のなかで、構想から変わった試合はありますか?

高橋:結果は変わっていないですね。ただ、同じ引き分けでも、3-3にしようと思ってたのが4-4、5-5になったことはありました。

――どういった流れで構想以上に得点が入るのか気になります。

高橋:『ドカベン』の水島新司先生が言ってたんですけど、本当はホームランにする予定はなかったんだけど、山田太郎のすごく良いスイングが描けたので「これは絶対ホームランだろう」って、変えちゃうという(笑)。

――絵というか、キャラクターに引っ張られるような。

高橋:それに近い感覚だと思います。良いシュート場面が描けると「これは入らないとおかしいだろう」と。そういったことが続くと話数が増えて、なかなか試合が進まないんです。

――そうして話数が想定より増えている間も、今後の構想がどんどん膨らんでいくわけですよね?

高橋:そうですね。だから、先が描きたいのになかなか進まないという、もどかしさがずっとありました。

――ネーム連載に切り替えるにあたり、文字プロットを残していくという選択肢もあったのかと思うのですが、文字のみだと「かっこいいシュートを描けたからゴールにする」といった展開はきっと生まれないですよね。

高橋:おっしゃる通りだと思います。僕は、映像をイメージしながら漫画を描くタイプなので、言葉でその感覚を表すのはめちゃくちゃ難しいと思うんです。もう絵を描いちゃったほうが早いので、ネーム連載という形になりました。

――映像をイメージするというのは、脳内で選手たちを動かしているような感じですか?

高橋:脳内というよりも、白い画用紙に向かったときにサッカーフィールドが浮かび上がってくるみたいな感覚ですかね。

――それは試合全体を俯瞰する感覚ですか? それとも漫画のコマごとにシーンが浮かび上がるのか。

高橋:両方ですね。スコアも考えて俯瞰しながら「ゴール前での戦いの最中、DFの選手たちは何をしているのかな」「日向はこの辺でカウンター狙ってるな」みたいなことは常に考えています。時には選手の間近でシーンに入りこんで描くことも、もちろんあります。

連載できなくなっても物語を残したい

――作画に時間がかかることもネーム連載に切り替えた理由に挙げていましたが、これまではネームと作画、どういった時間配分だったのでしょうか?

高橋:ネーム自体は、構想が頭の中で固まっていれば1日で1話分ぐらいですかね。作画は下絵に1日ちょっとかかって、ペン入れは1日8ページがやっと、という感じです。昔は1日10ページ以上描けたんですけどね。

スピード線とか、スパイクの描き分けとか、細かいところも全部自分で描くというスタイルでずっとやってきちゃったので、どうしても時間かかってしまうんです。

――アシスタントの割合を増やして通常の連載を続けるといった考えはなかったのでしょうか?

高橋:もっと若い頃にそうしておけばよかったんですけどね。ここまで突きとおしてきちゃったので、今さら誰かにお願いするのも......という気持ちはあります。

――このネーム連載が世に出る際、読者からどんな反響があるのか不安はありましたか?

高橋:ストーリーとしては伝わるとは思うのですが、連載という形がうまくいくのかという不安は今でもすごくあります。ただ、自分自身のネームで『キャプテン翼』を続けていこうと決めたので、仕事にできなくなったとしてもライフワークとして続けていこうと。

――仮に連載の場所がなくなっても、ネームは描き続ける?

高橋:そうですね。とにかく『キャプテン翼』の物語だけは残しておきたいんです。そうすれば、誰かが改めて漫画にしてもいいですし、AIが描いても別に構いません。僕が生きている間はちょっとやめてほしいですが、それ以降はお好きにしていただければと思っています(笑)。

友達に会いに行くような感覚でキャラクターを描く

――ここからはキャラクターについていくつかお聞かせください。スペイン代表のミカエルが初登場した際、スタジアム前でセグウェイドリブルしているシーンが話題になりました。

高橋:現実では多分できないんですけど(笑)、漫画の世界であれば「もしかしたらできそうかな?」と思わせるラインを狙ってはいます。過去の必殺技でいうと、スカイラブハリケーンも、もしかしたらできるかもしれないなと思いながら描きました。

――『キャプテン翼』初期、スカイラブハリケーン対策でゴールポストの上に選手たちが登るシーンも斬新でした。

高橋:あれはちょっとやりすぎだったかもしれないです(笑)。 やりすぎると失敗するというのは経験から学んだので、そのさじ加減は気を付けています。

――ミカエルというキャラクターはどのように生まれたのでしょうか?

高橋:翼のライバルはもう出し切ったという思いはありつつ、それでも作家としては新しいライバル像を打ち出さなきゃいけないんです。ミカエルに関しては「これ以上のライバルはいないだろう」ぐらいの意気込みで描きました。だから翼と戦うまでも丁寧に描きましたし、その分ここまで時間もかかりましたが、思い入れはすごく強いです。

――新しいライバルが登場する一方で、ライバルやチームメイトが、それ以降のシリーズでも登場し続けるのが『キャプテン翼』シリーズの魅力でもあると思います。

高橋:一度描くとどうしてもキャラクターに愛着が生まれるんです。しばらく描かないでいると「そういえばあいつ今どうしてるかな?」と寂しくなってしまうんですよね。普通の友達に会いに行くような感覚で描いています。

――例えば、小学校時代から翼とチームメイトの石崎や森崎は「本当に日本代表になれる実力なのか?」と思ってしまうのですが、そうした思い入れがあって活躍し続けているのでしょうか?

高橋:それももちろんあります。でも彼らに関してはもう少し別の思いもあって。現実世界は翼やミカエルのような天才ばっかりじゃないですよね。世代が上がるにつれてフェードアウトする選手もたくさんいます。それでも「努力だけでもここまでやれるんだ」というのも描きたいと思っていて、その代表が石崎や森崎なんです。

翼、日向、岬、若林がチャンピオンズリーグで戦う?

――大空翼は22歳にしてスペインのバルセロナに所属してリーグ優勝、MVPも獲得しました。クラブのプレイヤーとしてはもう頂点に達してしまったのではないかと思うのですが、今後どのような成長をするのでしょうか?

高橋:マドリッド五輪が終わったら、次はチャンピオンズリーグ編を描きたいと思っています。チャンピオンズリーグで優勝したら、それこそバロンドール(世界年間最優秀選手)にも近づくと思うので。

――バルセロナには作中最強クラスの選手であるブラジル代表のリバウールも所属しており、チャンピオンズリーグ優勝も簡単に成し遂げてしまいそうですが、そんなことはないのでしょうか。

高橋:もちろん、優勝を阻むライバルたちがまた出てくるんですよ(笑)。それこそ、日向小次郎や岬太郎、若林もこれから世界のトップチームに移籍してチャンピオンズリーグに出てくると。その4人がベスト4で対戦する、みたいなこともあるかもしれないです。

――おお、その展開はめちゃくちゃ熱いですね。果たして何年後に読めるのか...(笑)。

高橋:本当ですね(笑)。今回のオリンピック編で日本が優勝したと仮定すると、選手たちにヨーロッパのチームからオファーがたくさん来るはずなんです。アンダー23という成長しやすい年齢でもありますし、これから日本代表の選手たちはどんどん活躍していくだろうなと思います。

――そこはもう、具体的な構想としてお持ちなのでしょうか?

高橋:はい、構想はもうできています。

――過去のインタビューで「翼がFIFAの会長になるまで描くかもしれない」ともおっしゃっていました。翼には子供も生まれて、次世代の活躍を描くこともできそうですよね。

高橋:そうですね、もう永遠に続けたい(笑)。でもまあ、一応は日本代表がワールドカップで優勝するのが物語の終着点なのかなという感覚は持っています。

日本はW杯で優勝できるのか?

――日本のワールドカップ優勝、現実世界ではまだまだハードルが高いように思いますが、先生はどのように考えられていますか。

高橋:前回のワールドカップ、日本はスペインとドイツに勝っていますよね。組み合わせなどの運はあると思いますが、可能性はゼロじゃないと思っています。

――ちなみに、プレイヤーとしての翼のモデルについて、過去のインタビューで「マラドーナやジーコ、プラティニといったいわゆる10番の選手をイメージした」とおっしゃっていました。現代のサッカーではそういった選手が生まれづらいと言われていますが、最近のサッカーはどのように楽しまれていますか?

高橋:たしかに戦術ありきのサッカーになったとは思うんですが、だからといって楽しめないということはなく、その時代その時代のサッカーを楽しめばいいなと。とはいえ、こういう時代でも10番っぽい選手はいますし、そういった選手はもっと活躍してほしいなという思いはありますね。

――具体名を挙げると、どういった選手でしょうか?

高橋:スペインのペドリは好きな選手です。あとは、クロアチアのモドリッチも10番らしい選手ですよね。戦術ありきの中でも、エースが最後に試合を決める気持ちよさみたいなものは、どんな時代でもなくならないと思っています。

高橋陽一の役割を全うする

――現在、高橋先生は社会人サッカークラブ・南葛SCのオーナー兼代表も務められています。チームを運営していてどのようなことを感じましたか?

高橋:まず思ったのは、現実では漫画ほど勝てない(笑)。

――(笑)

高橋:最初はわりと早い段階でJリーグに上がれると思ったのですが、実際にやってみてそんな簡単じゃないことはすぐにわかりました。今チームは関東サッカーリーグ1部に参加していて、これはJリーグの5部にあたります。まだまだ先は長いというのが正直なところです。

――チーム設立当初から「葛飾からJリーグへ」をテーマに掲げて、地域との関係を大切にされています。

高橋:やっぱりサッカーって、地域密着のスポーツだと思うんです。取材でヨーロッパや南米に行くと、トップチームだけでなく地元のクラブが人々から愛されているんですよね。南葛SCもそんなチームであれたらと思っています。

――南葛SCの選手も対戦相手も「『キャプテン翼』のチーム」という意識はやっぱりあるのでしょうか?

高橋:そうですね。対戦相手は「『キャプテン翼』のチームには負けない」って普段より気合い入れてきてるような気がするんですよね(笑)。でも、それは覚悟のうえで始めたことなので、そういったことに打ち勝っていきたいと思っています。

――チームの本拠地としてサッカー専用スタジアムの建設も準備されているそうですね。

高橋:やっぱりサッカーを楽しむうえで専用スタジアムはどうしても必要だと思っています。地元にサッカー専用スタジアムができて、その隣に『キャプテン翼』のミュージアムもつくって、世界中からサッカーと『キャプテン翼』のことを好きな人たちが集まってくれる街になってくれればいいなと。

――Jリーグ昇格、スタジアム建設、それに『キャプテン翼』の完結と、やらなきゃいけないことがたくさんありますね。

高橋:めちゃくちゃたくさんあります(笑)。でも、どれも決して夢物語ではなく、実現しなきゃいけない具体的な目標です。「高橋陽一って奴はこういうのをしたほうがいいよ」みたいな、自分の役割を全うするにはどうしたらいいか常に考えています。

――『キャプテン翼』という世界的なコンテンツを背負っていて、その役割へのプレッシャーはないのでしょうか?

高橋:そういった部分はもちろんあります。ただ、できないことを無理にしてもしょうがないので、やれることを地道にやるだけかなと思っています。何をやるにしても健康でないと続かないので、それはなんとなく気を付けてこれからもやっていこうかなと。

――たくさんの夢が叶う日を楽しみにしています。本日はお忙しいなか、長時間ありがとうございました。

高橋:ありがとうございました!

取材・文=金沢俊吾、撮影=干川修

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