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アフタヌーン連載で大反響、小学5年生の不穏な友情物語。 著者が語る『どくだみの花咲くころ』誕生秘話【城戸志保氏インタビュー】

  • 2024.9.27

予測不能な動きをする、クラスでも浮いた存在の信楽。なんでもソツなくこなす優等生の清水は、ある日図工の時間に盗み見た彼の紙粘土の作品に心を奪われる──。

正反対な小学生2人が織りなす、不穏で愉快な友情物語『どくだみの花咲くころ』(講談社)が「アフタヌーン」で大好評連載中だ。「アフタヌーン四季賞秋のコンテスト」で大賞を受賞後、X(旧Twitter)で公開した際には6.6万以上「いいね」が寄せられ大反響を呼び、「アフタヌーン」で華々しい連載デビューを飾った本作。

今年の5月には待望の単行本1巻が発売され、ますます熱い視線が注がれる『どくだみの花咲くころ』はいかにして生まれたのか? 作者・城戸志保先生にインタビューを敢行し、知られざる作家遍歴、創作の源泉に迫る。

漫画を描くのはこれが2作目、知られざる作家遍歴

――『どくだみの花咲くころ』1巻の最後には、連載に至るまでの経緯を書かれていました。2021年12月ごろに「まんがを描いてコミティアに出してみたいと思い、どくだみを描き始める」とありましたが、それより前はどんな活動をされていたのでしょうか?

城戸志保さん(以下、城戸):学生時代に漫画を描いてとある漫画賞に応募したところ、賞を受賞したことがありまして。それ以来細々とやっていたのですが、就職してからは仕事が忙しすぎて特にこれといった活動はしていませんでした。

――学生時代に描いたという漫画が気になります。

城戸:勢いがあったような……。とりあえず漫画を描いてみたくて、夢の話だったか何かを描いたような気がします。もう手元に残っていないからわからないのですが、なんだかぼんやりした話だったと思います。

――それから時を経て、2作目となる『どくだみの花咲くころ』を描かれたと。

城戸:そうですね。コミティアのために描いたのが『どくだみの花咲くころ』です。そこで編集部に声をかけてもらい「アフタヌーン四季賞秋のコンテスト」に出したって感じです。

――「アフタヌーン四季賞秋のコンテスト」では大賞を受賞し、X(旧Twitter)で公開した際には、当時6.6万以上「いいね」が寄せられ大反響を呼びました。2023年からは、『どくだみの花咲くころ』の連載がスタートしましたが、連載開始前後で何か大きな変化はありましたか?

城戸:特にないですね。作品に関しては、コミティアで出した同人誌版とほぼ同じといいますか、そのままの流れで行っています。同人誌版を描いた時点で、キャラクターも大体定まっていましたし、最後までのプロットみたいなものはざっくり出来上がっていたので。ただ、連載化してからは、連作短編みたいな感じでどこから入っても何となく読めるように……というところだけ気をつけています。生活面でいうと、専業作家になったので毎日外に出なくなりました。快適です(笑)。

――お話を伺っていると、作家人生として非常に順調な印象を受けるのですが、連載デビューしてみて何か新たに感じたことがありましたら教えてください。

城戸:段差がなくて怖いというか、階段を上がった感じがしないんですよね。私自身は変わらないでそのまま歩いているのに作品は多くの人に読んでいただけている。もしかしたらこの先に私と作品を阻むようなとんでもない壁ができてくるのかな? と少し不安があります。でも、今のところは特に何もなく、本当にやりたいようにやらせてもらっているのでありがたいですね。

アール・ブリュット作品みたいな人を描きたい

――ここからは『どくだみの花咲くころ』着想のきっかけについてお伺いします。過去のインタビューで「アール・ブリュット(*1)の作品が好きで、なぜ惹かれるのか考えているうちにできた」と仰っていたのを拝見したのですが、より詳しくお聞かせいただけますか?

城戸:高校生くらいの頃からアール・ブリュットと呼ばれる作品を好きになることが多くて、画集を集めたり映画を鑑賞したりしていました。 アール・ブリュットやそこから派生したアウトサイダー・アートは定義づけがすごく難しく(作家本人がそう名乗る訳でもないので)定義が曖味だからこそ私が断言することもできないですが、個人的には“既存の美術教育の外にいる人たち” みたいなことなのかなと思います。 制作をするときに人に見られることを前提としていない人や売ることを目的にしていない人が多く、作品自体も創造性・独創性の高いものがたくさんあり、そこが自分が惹かれたところだと思います。 (もちろん例外もあってアール・ブリュット作家の中にも他者からの承認や対価を求める作家はいます)

*1……フランスの画家、ジャン・デュビュッフェが提唱した概念。解釈は多岐にわたる、正規の美術教育を受けていない、あるいは従来の美術文化の影響を受けずに表現される芸術作品のことを指す。

――信楽の図工作品に魅了される清水の姿を思い出しました。

城戸:私が感じたアール・ブリュットの面白さと言いますか、“そういう人”を描きたいなと思っていたところに『どくだみの花咲くころ』のシチュエーションが浮かびました。完全に物語先行ですね。

小学5年生は“ギリギリの年齢” キャラクター創作秘話

――キャラクターを小学5年生に設定したところも何か理由があるのでしょうか? 個人的には、信楽に惚れ込む清水のひたむきさ、でも頭の中で理論的に考えようとする様子は小学5年生という絶妙な年齢ならではだと感じます。

城戸:小学5年生は“ギリギリの年齢”だと思ったんです。振り返ると、子ども時代にしか会わなかったタイプの人間っているなと。逆に中高生になると、一緒になる・ならない属性の人間が明確になっていく。だから、小学5年生は考えが凝り固まる少し前と言いますか、ギリギリ引き返せる時期なんですよね。あと、もう少し年齢を上に設定してしまうと、清水はもうちょっと嫌味なキャラクターになって動かしづらくなってしまうんじゃないかと。それも理由の一つかもしれません。

――信楽、清水。そしてクラスメイトの瀬戸さん、九谷さん……。登場人物たちの名前が陶磁器になっているのも大変気になります。

城戸:実は名前を付けるのが苦手でどうしようかなと悩んでいた時に、たまたま信楽焼の花瓶を購入したんです。花瓶が入っていた箱に筆のタッチで「信楽」と書いてあって、それがすごく可愛いなと思って採用しました。信楽ときたら、焼き物繋がりで清水にしようかなという感じでこうなりました。弾切れが心配です(笑)。

――描いていて特に楽しい、あるいは苦労するキャラクターはいますか?

城戸:どのキャラクターも描きやすいです。ただ、信楽と清水に集中しすぎて、周囲が疎かにならないよう気をつけています。メインキャラばかり描きすぎると、飽きてしまうと言いますか、作品の世界に奥行きがなくなっていく気がするんです。だから、ぎゅっと2人の世界になる「絞る」と、でも切り離せない子ども社会、外の世界があるんだという「広げる」の調整が大事だなと。逆に「広げる」がないと、「絞る」も描けないと思います。

「一緒に流れている」制作中の目線とは?

――特に思い入れのあるシーンをあげるとしたらいかがですか?

城戸:1話で信楽が清水に「落ち着きないんだな」と言うシーンです。実は、このシーンの感想をたくさんの読者さんからいただきまして。「面白い、笑った」という人がいる一方で「ガーンときた」という方もいて……。でも当の自分はどう思ってほしくて描いたシーンなのかあまり覚えていないんです(笑)。今読み返すと、読者さんが感じたようにどっちとも取れるシーンになっていて良いかもって。結構好きなシーンです。

――私は笑った派でした。ちなみにセリフはどのようにして生み出されているのでしょうか。

城戸:まず軽くプロットを書いてからネームを描くのですが、ネームではコマ割り優先なので、その次にどこに文字を置くか決めていきます。全体の流れをなだらかにするためにセリフを配置しているようなイメージでしょうか。ただ、普通の喋り言葉になるように意識はしていますね。「この人はこういうこと言わないよな」みたいな感じで気をつけています。

――「この人はこういうこと言わないよな」という感覚を保つためにも、作品を描いている時はキャラクターの深い部分にまで入り込まれているのかなと思ったのですが、城戸先生はいつもどの目線におられるのでしょうか?

城戸:一緒に流れているみたいな感じです。キャラクターたちと同じ場所にはいるけれど、みんなと同じようにそこには参加できない……。逆に神目線と言いますか、あまり上に立ちすぎないように意識しています。

創作の源泉は映画、最近10回近く観た映画とは?

――清水と信楽はもちろん、本作に登場するキャラクターたちには絶妙なリアル感がありますが、何が創作の源泉になっているのでしょうか。例えば、過去に出会った人たちをモデルにしているなど、大きな影響を受けているものがありましたら教えてください。

城戸:友達以外の人とはあまり積極的に喋るタイプではなく、ラジオも聴かないですし、人の会話を聞くのはそんなに好きじゃないんですよね。ただ、映画はよく観ます。映画をたくさん観て、このシーンを漫画に落とし込むなら? と脳内でシュミレーションするんです。それを繰り返していくことで、自然な会話が描けるようになるんじゃないかと思います。

――どんなジャンルの映画を観られるのでしょうか?

城戸:なんでも観ますが、洋画が多いかもしれません。洋画だと日本の漫画に落とし込むのが難しい気もしますが、日本の喋り言葉に翻訳していくイメージでシミュレーションしています。

――特に参考になった映画作品を教えてください。

城戸:塩田明彦監督の「どこまでもいこう」です。郊外のニュータウンに住んでいる小学5年生の男の子たちの話で、『どくだみの花咲くころ』の連載がスタートしてから改めて観直したのですが、すごく参考になりました。この作品は、演出がすごくドライで会話も自然。だけど、どこか緊張感もあるから、飽きさせずに話が展開していく……。少し怖い展開もあるのですが、すごく良い映画でした。

――“飽きさせずに”というのは、城戸先生が作品を描く上で大切にしているルールなのでしょうか? 先ほどキャラクターの描き方について質問した際、「メインキャラばかり描きすぎると、飽きてしまう」と仰っていましたよね。

城戸:単純に「自分が読んでいてつまらないと感じるかどうか」が基準にあります。あと、飽きっぽくて集中力がすぐにどこか行ってしまうタイプなので、自分の興味が持続できるかどうかが重要っていうのもあります。

――ちなみに、普段はどんな環境で原稿作業されているのでしょうか?

城戸:家でずっと映画を流しながら作業しています。最近だと「プライドと偏見」という映画を10回くらい観ました。

――かなり観ていますね! 先ほどの「どこまでもいこう」のように何か気づきがある映画だったのでしょうか?

城戸:そうなんです。副音声コメンタリーで観ると、監督がこのシーンをどんな意図で撮ったのか? など、本編とは全く違う情報が入ってきてすごく刺激になるんです。しかも表情を見せるのがとても上手な作品なので、勉強になるなと思いながら繰り返し観てしまいました(笑)。

「とにかく最後までしっかりと描けたら嬉しい」今後の夢と目標

――今後の展開についてお伺いしたいのですが、城戸先生が作家として実現したい夢や目標はありますか?

城戸:今後、漫画業界がどうなっていくのかわかりませんが、たくさん漫画を描きたいですね。それが一番です。そのためにはある程度売れなきゃいけないんだろうな……とか、色々わかってきた感じです。

――最後に、城戸先生にとって『どくだみの花咲くころ』はどんな作品になったら嬉しいですか?

城戸:とにかく最後までしっかりと描けたら嬉しいなと。作品に込めたメッセージ的なものは、やっぱり漫画を読んで伝わったら嬉しいなと思います。「ここを見てほしい」というよりは、「どこからでも」という気持ちです。ぜひ好きなように見て、感じていただけたらと。

取材・文=ちゃんめい

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