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デッドプールが”MCUの救世主”であるワケ。 映画『デッドプール&ウルヴァリン』考察&評価。【映画と本のモンタージュ】

  • 2024.8.15
© 2024 20th Century Studios / © and ™ 2024 MARVEL.

マーベル・スタジオ最新作『デッドプール&ウルヴァリン』が現在公開中。自由過ぎるR指定のクソ無責任ヒーロー・デッドプールと、キレたらヤバい最恐アウトロー・ウルヴァリン、マーベルファンが長年待ちわびていた夢の共演が遂に実現した。今回は本作の魅力に迫るレビューと併せて読んでほしい一冊を紹介する。(文・すずきたけし)
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【著者・すずきたけし プロフィール】
ライター。『本の雑誌』、文春オンライン、ダ・ヴィンチweb、リアルサウンドブックにブックレビューやインタビューを寄稿。元書店員。書店と併設のミニシアターの運営などを経て現在に至る。

マーベルファンが長年待ちわびた夢の共演

『デッドプール&ウルヴァリン』
© 2024 20th Century Studios © and ™ 2024 MARVEL

『デッドプール&ウルヴァリン』を観た。

今回はデッドプールだからこそできたマーベル原作作品の“断捨離”映画だった。ああ、デッドプールはまさにMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の神、そして救世主だったのだ。
 
デッドプールは原作であるマーベルコミックのなかでも人気のヒーローで、とくにMCUの盛り上がりがピークだった『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から始まるフェーズ3(2016〜)ごろはデッドプールのコミックがよく売れた。

もちろん同時期に公開された映画『デッドプール』(2016)の勢いによるところも大きかったが、当時書店員で海外コミック担当であった筆者のすずきは、コーナーでMCU作品の原作コミックを推していて、なかでも“ファンタスティック・フォー”が登場する「デッドプール:モンキービジネス」や“ロキ”が登場する「デッドプールの兵法入門」、“キャプテン・アメリカ”や“ウルヴァリン”と共闘する「デッドプールVol.3:グッド・バッド・アンド・アグリー」などがよく売れていたことを今でもよく憶えている。

ファンが心待ちにしていた『X-MEN』との合流

『デッドプール&ウルヴァリン』
© 2024 20th Century Studios © and ™ 2024 MARVEL

20世紀フォックスの映画である『デッドプール』は同製作会社の『X-MEN』のスピンオフ的な位置づけだったため、同シリーズとの合流は時間の問題かと思われた(『デッドプール』第1作からその匂いは濃厚だった)。

反面、ディズニー映画であるMCUとのコラボレーションは大人の事情で諦めてはいたものの、2011年にマシュ―・ボーン監督が『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』という傑作を生み出し、ブライアン・シンガーが『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)と『X-MEN:アポカリプス』(2016)とやや失速させてしまったX-MENシリーズも、デッドプール合流の暁には再び盛り上がるだろうという期待は十分にあった。

また当時はMCUの成功によって個別の作品が一つの世界設定を共有するシェアードユニバースの作品というだけで無条件で胸が高なっていた幸せな時代でもあった(それでも20世紀フォックスで三作もつくられた『ファンタスティック・フォー』は忘却の彼方だったが)。そして2020年に事件が起こる。20世紀フォックスがディズニーに買収されたのだ。

と、いうことで晴れて(?)MCUと同じディズニー作品となったデッドプール映画が今回の『デッドプール&ウルヴァリン』なのである。

デッドプール特有のメタ視点を大いに活用

『デッドプール&ウルヴァリン』
© 2024 20th Century Studios © and ™ 2024 MARVEL

デードプールの三作目となる今作では、MCU登場以前に乱立していたマーベルコミックを原作・原案としたこれまでの20世紀フォックスの単独作品たちを取り上げ、デッドプール最大の武器によって次々と葬り、いや、供養し成仏させていくのである。

デッドプールといえば原作と同様に映画でも「第四の壁」(フィクションと現実の境界線)を越えたメタなツッコみが魅力だが、設定が散逸し混乱をきたしていた過去のマーベル作品群を供養し、今後のMCUを再構築するためにふるった大ナタがこのメタフィクションという構造であった。

だっていきなり『ローガン』(2017)で死んだはずのウルヴァリンが本作で再登場しちゃうのだから。あの感動はなんだったんだと。

また(ジェシカ・アルバが出ていてヒットしたほうの)『ファンタスティック・フォー 超能力ユニット』(2005)のヒューマントーチを演じたクリス・エヴァンスを見たデッドプールが、MCUで彼が演じたキャップ(キャプテン・アメリカ)と勘違いするシーンがある。

デッドプールしかできないこの「同一俳優が演じるキャラの見間違い」というメタなツッコみによって、ディズニー映画となった世界観では不都合となるキャップと同じクリス・エヴァンス演じるヒューマントーチ(ジョニ―・ストーム)というキャラクターをMCUから葬りさる(文字通り)ことに成功している。

つまり、メタフィクションではないMCUにデッドプール特有のメタの視点を浴びせることで、不都合なキャラクターをMCUから引きはがすことに成功している。

劇中で救世主と自称したデッドプールの意味

『デッドプール&ウルヴァリン』
© 2024 20th Century Studios © and ™ 2024 MARVEL

ほかにも、ベン・アフレックの『デアデビル』とか、『ブレイド』とか、ウルヴァリンの兄弟セイバートゥースほかX-MENの諸々とかをデッドプールが片っ端からメタなツッコみをしてこれまでの不都合なマーベル原作映画の作品群をMCUから引き剥がして“断捨離”していく。

もちろんメタなツッコで作品世界からの切り離すことはデッドプールの過去二作でも行ってきていて、デッドプール役のライアン・レイノルズが自ら主演して大コケしたDCコミックが原作の『グリーン・ランタン』(2011)や『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』で初登場した無口なデッドプールをメタに茶化すことで作品世界から黒歴史となった過去作を棚上げしているのだ。

正直なところ、フェーズ3以降のMCUはドラマ作品のリリースが加速し、またマルチバースも加わり物語が複雑になりすぎていた。またいつからか物語の興味よりも他作品にまたがる伏線とその回収にばかり気を取られ、映画を観に行けばもっとも興味をもつのがポストクレジットのオマケ映像だったりした。

ああ、MCUはこのままではいけない、どこかで仕切り直しが必要だと思っていたところに登場したのが、この『デッドプール&ウルヴァリン』だったのである。

劇中でMCUの神、救世主と自称したデッドプールの意味はまさにこれだったのである。

MCUを仕切り直すことができるのは、設定までをも自在に操れるデッドプールだけにしかできない。つまり20世紀フォックスを買収したことでディズニー&マーベルスタジオは今後のMCUの行く末をいかようにも修正できるデッドプールという神の手を手に入れたのであった。

合わせて読みたい一冊 『究極超人あ~る』(ゆうきまさみ/小学館)

『デッドプール&ウルヴァリン』
© 2024 20th Century Studios © and ™ 2024 MARVEL

メタフィクションな『デッドプール』はコミックを原作としてるが、ここでは日本のメタフィクションの代表的なマンガである「究極超人あ~る」(ゆうきまさみ/小学館)を紹介したい。

本作は春風高校に転校してきたロボットでなくアンドロイドのR・田中一郎を主人公に、春風高校光画部の個性豊かな部員とOBたちのドタバタギャグマンガ。

文化部という力の抜けた学校空間の心地よさがクセになる「究極超人あ~る」は、全編がメタ的なギャグとネタのオンパレード。もちろん登場キャラクターが読者に語りかけることは当たり前、本作が雑誌「少年サンデー」連載を開始した1985年にプロ野球の阪神タイガースが日本一になったものの、翌シーズンに成績が低迷したことをネタにして京都の修学旅行回で熱烈な阪神ファンのバスガイドで茶化したり、光画部の鳥坂先輩が「CMネタはすぐ風化するぞ」とセルフなツッコみをしながらもその当時のコンビニのCMをギャグとして強行して(雑誌連載時はCMが放映していても単行本化時にはCMが終了しているため)「ほら風化した」とツッコみが入るなど、フィクションと現実世界のネタがギャグとしてふんだんに散りばめられている。

あまりにメタな構造のために作品世界に読者が入り込んだような錯覚に囚われるという、エポックメイキングなマンガである。

少々古いマンガなので風化しているネタもあるが、今読んでみてもメタフィクションと日常系の組み合わせの中毒性は最強であることを証明してくれるので、機会があればぜひ読んでほしい。

(文:すずきたけし)

【作品情報】
『デッドプール&ウルヴァリン』
大ヒット公開中!

監督:ショーン・レヴィ(『フリー・ガイ』『ナイト ミュージアム』)
キャスト:ライアン・レイノルズ、ヒュー・ジャックマン
日本版声優:加瀬康之、山路和弘

原題:『DEADPOOL & WOLVERINE』 US公開日:2024年7月26日
コピーライト:© 2024 20th Century Studios / © and ™ 2024 MARVEL.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

『デッドプール&ウルヴァリン』予告編

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