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ドラマ史に残るラスト10分の衝撃…杉咲花と若葉竜也の手足の動きに注目すべきワケ。ドラマ『アンメット』第9話考察レビュー

  • 2024.6.18
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『アンメット』第9話より ©カンテレ

杉咲花主演の月10ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)。本作は、“記憶障害の脳外科医”が主人公の、新たな医療ヒューマンドラマ。今回は、大迫教授が隠し続けたミヤビの記憶喪失の謎と理由が明らかとなった第9話のレビューをお届けする。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

ついにミヤビの記憶喪失の謎が明らかに

『アンメット』
『アンメット』第9話より ©カンテレ

過去に三瓶(若葉竜也)と綾野(岡山天音)と麻衣(生田絵梨花)と4人で食事をしたことを思い出したミヤビ(杉咲花)。麻衣に話を聞くと、その記憶は脳神経科医の国際会議に参加するために訪れた南アフリカのケープタウンでの一コマだと分かる。

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そこでミヤビは三瓶に出会い、綾野からのアプローチを躱すための嘘がきっかけで行動を共にするようになった。だが、婚約に至るまでの経緯については麻衣も詳しくは知らないという。

ミヤビは、記憶障害の本当の原因を知るために大迫(井浦新)の元を訪れることに。その帰り、西島(酒向芳)と出くわしたミヤビは、隣にいる鵜原建設の押尾(黒田大輔)を見て足がすくむ。理由は分からないが、とてつもない恐怖を感じたのだ。

そんなミヤビの様子を見た西島はこれまでとは一転し、三瓶に記憶障害の原因を教えてやってはどうかと大迫に提案する。そこにはある恐ろしい狙いがあった。

一年半前、関東医大病院の建て替え計画に反対していた医師たちを西島と押尾が金で買収しようとしている場面を目撃してしまったミヤビ。車に乗り込み、急いで病院を立ち去った先で事故に遭った。その事故でミヤビは、脳の中でも“ノーマンズランド”と呼ばれる部位を損傷し、記憶障害になったのである。

原点は同じなのに…三瓶と大迫の医師としてのあり方

『アンメット』
『アンメット』第9話より ©カンテレ

ノーマンズランドとは、医学的に人がメスを入れてはならない領域のこと。けれど、ほんの少しでも希望があれば、三瓶はリスクを取ってでもミヤビの記憶障害を治そうとする。大迫は、そう確信していた。

大迫が三瓶の人間性をよく知っていたのは、かつての同僚だったからだ。2人が別の大学病院に勤務していた頃、意識障害で昏睡状態の少女が入院していた。だが、三瓶が検査をした結果、少女には意識があることが判明。医療全体のために個である少女を切り捨てようとする教授や大迫の反対を押し切り、三瓶は当時は国内で未承認だったITB療法を少女に施した。大迫と三瓶の医師としてのあり方は、この頃から明白に異なっていたのである。

だけど、共通点もある。今回、大迫と三瓶がどちらも“きょうだい児”(重い病気や障害を抱える兄弟姉妹のいる子ども)だったことが明らかになった。世間に遠慮しながら生きる姉を見てきた大迫と、重度障害者の兄を本人の意思に反して適切なケアを受けられる施設に入れた三瓶。そうやって彼らを隅に追いやるのではなく、障害者も健常者も等しく光の下で暮らしていける社会を、と願う気持ちはきっと同じなのだろう。

だが、その社会をいち早く実現するために急ぎ足で進んでいく大迫に対し、三瓶はその途中で踏み荒らされていく花を見て見ぬ振りはできず、足を止めてしまう。どちらのあり方が正しいのか、簡単に答えが出せる問いではない。

ただ、大迫はミヤビのことは大義のために犠牲にすることはできなかった。ミヤビの記憶が少しずつ戻りかけている今、西島は三瓶に敢えて記憶障害の原因を伝え、彼女の命を危険に晒そうとしている。大迫は西島の工作を告発した。建て替えが中止となったら、救えるはずだった多くの命が失われるかもしれない。それを分かった上でミヤビの命を守ることを選んだのだ。

しかし、それはミヤビに対して愛着があるからである。「見えない誰かなら犠牲にできた」という西島の言葉はその通りで、大迫は自分の勤める病院に入院しているだけの患者なら犠牲にできてしまえたのだ。あの少女はもしかしたら、ミヤビだったかもしれない。答えの出ない問いに苦悩する表情から独特の色気が匂い立つ。井浦新はこういう役がよく似合う。

若葉竜也と杉咲花による奇跡の10分

『アンメット』
『アンメット』第9話より ©カンテレ

三瓶は西島からミヤビの記憶障害の原因について聞いたが、大迫が予想していた反応とは少し異なり、ミヤビに手術をさせてほしいとはすぐには言わなかった。三瓶はいつも目の前の命と向き合っているが、迷いがないわけではないのだ。

夜の病院でミヤビと三瓶は子供の頃の話をする。その流れで、三瓶は兄への思いを語り始めた。兄を施設に入れたことを、“見えないように”しただけではないかという思いがあった三瓶。

“見えないよう”にというのは、自分たちの生活のために兄を犠牲にした…ということ。その罪悪感があったからこそ、三瓶は意識障害の少女が全体のための犠牲になることに耐えられず、ITB療法を施したのだろう。少女は意識を取り戻したものの、結果的に数日後には肺炎で亡くなった。

以前、大迫は三瓶のことを「軽々しく患者に希望を見せる危険な医者」と非難したが、彼の中にも少女の母親に希望を持たせるだけ持たせて、何もできなかったという思いがきっとあるのだ。だからミヤビのことも救いたいのに、答えが出せない。

だけど、三瓶の治療がなければ、少女と母親は言葉を交わすことができなかった。たった数日。それでもコミュニケーションが取れたことが、どれだけ母親にとって救いとなったか。ミヤビだって、三瓶に背中を押されたから脳外科医として復帰することができた。

「三瓶先生は、私のことを灯してくれました」とミヤビは言う。すがるように三瓶はミヤビに近づき、2人は固く抱き合う。互いに光を当て、影を消すように。

そんな三瓶とミヤビによるラスト10分の場面を、きっと私は永遠に忘れないだろう。ドラマや映画は“覗くもの”で、登場人物たちは覗かれていないという“てい”で日常を送るが、実際には目の前にはカメラがあり、体裁が整った台詞も用意されている。

だけど、あの瞬間、三瓶とミヤビには覗かれている意識なんて一切ない…と多くの人に思わせた。感情が言葉に先行して声が詰まり、伝えきれない思いはもどかしさとなって手足の動きに反映される。

杉咲花と若葉竜也の圧倒的な演技力、2人が度重なる共演経験で得た互いへの信頼感、スタッフとキャストが積極的に意見を交わすものづくりの現場。どれか一つでも欠けたら実現しなかったであろう奇跡の10分間だった。

(文・苫とり子)

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