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知的で辛辣なコンセプチュアルアートの新鋭、サイモン・フジワラにインタビュー。

  • 2016.2.5
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英国人の母と日本人の父をもつアーティスト、サイモン・フジワラの日本の美術館では初となる個展が開催されている。その展示空間には、非常にスタイリッシュでありながら、観る人を撹乱するトラップがそこここに仕掛けられていて油断がならない。

会場内で作品の生産工程を見せるガラス張りの毛皮工場『驚くべき獣たち(部分)』(2016年) photo: KEIZO KIOKU, Courtesy of the artist and TARO NASU

『レベッカ』(2012年) 石川コレクション(岡山)蔵 photo: KEIZO KIOKU, Courtesy of the artist and TARO NASU

展示室内に設えられたガラス張りの工場では、毎日毛皮のコートを解体して接ぎ合わせたパッチワーク絵画が製造される。「兵馬俑」のように立ち並ぶ等身大の人体は、ロンドンで貧困労働者層による暴動に参加して逮捕され、中国の研修プログラムに送りこまれて大量生産についての洗脳教育を受けた少女の像だ。建築学を学んだ作家が、日本で起こっている新国立競技場の恥ずかしい騒動を受けて制作し、なぜか新鮮なイカの経帷子を被せて、恭しくザハ・ハディドに捧げられた建築模型もある。このように知的で辛辣なダークユーモアに溢れたコンセプチュアルアートの新鋭として、国際的なアートシーンで注目を集めるサイモン。彼ならではの舌鋒冴えるコメントは痛快で、ときにビターな後味を残す。

東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の個展『サイモン・フジワラ ホワイトデー』の展示風景。©Simon Fujiwara, photo:KEIZO KIOKU, Courtesy of the artist and TARO NASU

―これまでの舞台装置的な展示とうってかわって、白いフェルトを敷きつめたオープンな空間に、脈絡関係なく作品を点在させる展示構成には少々意表をつかれました。

サイモン・フジワラ(以下、S):「今回は秩序よりカオスを選びました。アップルストアみたいに清潔で洗練された空間で、真っ白なカーペットを靴で汚すのはリアルな体験でドキドキするでしょう? 観客の皆さんにも、自分が展示にインパクトを与えるパフォーマンスの一部であるという責任と罪悪感を感じてほしかったんです。それぞれの作品を発表した時は、インスタレーションの中の空気感を緊密にコントロールしましたが、ぼく自身はいまを生きているアーティスト。履歴を振り返るのではなく、自分と作品との関係性が更新されていく変化を見せようと思いました」

『名刺』(2016年)©Simon Fujiwara, photo:KEIZO KIOKU, Courtesy of the artist and TARO NASU

―展示室でいちばん「悪目立ち」していると言っていいのは、日本人のバカでかい名刺ですが、あれはいったい誰の名刺なんですか?

S:「いわゆるサラリーマンの名刺です。日夜、会社で自分が何を頑張っているのかさえわからない、もし突然いなくなったとしても会社としては特に損害もない、そういう一般的な日本企業のビジネスマンの名刺なんです。日本の社会では、何を成し遂げたかということよりも、なんかわからないけど頑張ってるように見えるってことが大事だったりしますよね」

『乳糖不耐症』(2015年) 個人蔵 ©Simon Fujiwara, photo:KEIZO KIOKU, Courtesy of the artist and TARO NASU

―『乳糖不耐症』という作品では、コップに入ったフレッシュなミルクの絵が規律正しく並べられています。北朝鮮の公的機関に発注制作したそうですね。

S:「万寿台創作社は北朝鮮が国家的に運営する工房で、4000人に及ぶアーティストを抱え、プロパガンダ絵画や銅像を制作する、世界一の大規模な美術制作機関です。その生産性の高さに反して、北朝鮮では生乳を生産していないことをご存知ですか? その理由は、管理システムの脆弱さや電気コストとも、またはアジア人の90%が持っているという乳糖不耐症ともいわれています。きわめて北朝鮮らしいタッチのこの絵画の並べ方は、あの有名な父子の肖像画の掲揚風景を参考にしました」

『ミラー・ステージ』(2009-2013年) 石川コレクション(岡山)蔵 ©Simon Fujiwara, photo:KEIZO KIOKU, Courtesy of the artist and TARO NASU

―『ミラー・ステージ』では、パトリック・ヘロンの抽象画に出合ったあなたが、ラカンの「鏡面段階論」に基づく作用によって、ゲイである自身の性的アイデンティティを悟った体験を舞台化しようとする設定です。あなたの多くの作品は、いわゆる「思春期の通過儀礼」を、毎回異なる形式でシアトリカルに表現する営みのようにも思えます。

S:「それってぼくがちょっと子どもっぽく見えるということ?(笑)ぼくはたとえそれがブスであったとしても、人間の現在形を許容することに関心があって、衝突や矛盾の存在を称えたいと考えています。普通は表面的というと悪いイメージがありますが、コンセプチュアルな作品を理解する場合には、いい意味で、いまそこに見える表面を大事にしてほしいんです。自然界で物事を深読みするのは人間だけです。動物や植物に知性があったなら、表面だけで短絡的に理解するでしょう。ときには人間も根源的な直感を使って、作品の表面から真意を読み取ってほしいんです」

『再会のための予行演習(陶芸の父)』(2011/2013年) 石川コレクション(岡山)蔵 Courtesy of Dvir Gallery, Courtesy of the artist and TARO NASU

―初期の代表作『再会のための予行演習(陶芸の父)』や、本展のキービジュアルとなる『レベッカ』など、あなたの多くの作品では、公の歴史や社会現象にフィクションや偽りの自分史を紛れ込ませ、個人と社会が交錯する物語を創りあげています。虚実の曖昧な作品世界に触れたとき、強い「異物感」を感じている自分を意識します。

S:「どこまでが本当でどこまでが嘘なのか。その質問に答えはありません。ぼくは自分自身も信用してないんです(笑)。真偽のことを考えながら観るとぼくの作品は楽しめない。そのボーダーを忘れることで作品の世界に入れるのかもしれません。私たちの自意識そのものが、始まりも終わりもないし、完成形も境界もない。あらゆるものが連環するこの世界の構造を感じてほしいんです」

サイモン・フジワラ ホワイトデー
会期:開催中~2016年3月27日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー[3Fギャラリー1, 2]
東京都新宿区西新宿3-20-2
開館時間:11:00~19:00 (金・土は11:00~20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月(3月14日、21日は開館)、2月14日(日)、3月22日(火)
入場料:一般¥1,200、大学・高校生¥800
www.operacity.jp/ag/exh184

texte:CHIE SUMIYOSHI

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