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会社を辞めて、こうなった。【第28話】 心理学者カール・ロジャーズに学ぶ、英語も「話す」より「聞く」!

  • 2015.12.28
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会社を辞めて、こうなった。【第28話】 心理学者カール・ロジャーズに学ぶ、英語も「話す」より「聞く」!

長年勤めた出版社を辞めて、なんの保証もないまま単身アメリカに乗り込んだ女性が悩みながら一歩一歩前進して、異国の地で繰り広げる新鮮な毎日を赤裸々にレポートします。【第27話】心理学者カール・ロジャーズに学ぶ、英語も「話す」より「聞く」!

12月18日に今学期最後の期末試験を受け、バークレー心理学部での初学期を終えました。成績は、A+。つい半年前までドクター・スースの絵本を読みながら英語を勉強し、心理学の知識もゼロの私ですから正直信じられません。どうにか逃げ切ったとしか言いようがありませんね。だからといって人に説明出来るほど授業の内容をよく理解できたのかと言われると、NO。膨大な心理学用語や薬の名前を最終的にはアルファベットの形で覚えていましたからね…(まさに形状記憶!)。こういう記憶は短期記憶と言って数日は持つのですが、残念ながら定着しません。マークシート形式のテストで「このなかでどれが正しいの?」と聞かれたら「あ、これこれ。このカタチだった!」と答えられますが「ではそれを自分の言葉で説明しなさい」と言われたとたん、「えっとー、うーんとぉ」という感じでしどろもどろになってしまいます。人の心を学ぶという心理学を勉強しながら、満足にコミュニケーション出来ないとは致命的な問題。つまり、まだスタート地点にも立っていないということですね。

初学期。成績は?

強く主張しなきゃ、なめられる?

クリスマスはRio Vistaにあるハウスオーナーのご家族のお家におじゃましました。犬なみに懐っこい羊たち。 アメリカに来る前に「日本で編集者をやっていた」と強く主張したほうが良いとよく助言されました。もはや大学生とはいえない年齢で、ただ単に勉強しているだけでは「一体何をやっているんですか、あなたは」と見くびられると。確かに英語の勉強をしていたときは年齢を言うと「子どもも産まずに何をやっているの!」とアジア系アメリカ人女性に叱咤されましたし、今も「心理学の勉強をしている」と言うと、「graduate student(大学院生)?」と尋ねられます。そう聞かれるたびに、大学院なんて今は夢のまた夢、大学生の授業ですらついていくのに必死な自分がとても至らなく感じてしまいます。でも女性誌の編集者だったと言って、「クール!」と言われるたびに後ろめたさも感じるんです。ただ目の前のことを一生懸命やってきただけで、私自身は全然クールじゃないから。強く主張するというのも私のスタイルではないし、かといって何も言わないと理解してもらえない。どうしたらいいんだろう…?

カール・ロジャーズとは?

バークレーの街並みも美しくライトアップされています。 そう思っていたとき、授業でカール・ロジャーズという心理学者について少し教わりました。カール・ロジャーズとは、人は本来善いものだと考えるヒューマニスティック心理学者のひとりで、彼は種が芽となり育っていくように人間もまたそれぞれの美点を伸ばそうと人生の中で懸命に努めていると考えています。厳格なプロテスタント教徒の家庭で育ち、牧師を目指して神学を学んでいたというロジャーズ。キリスト教に基づく人間観には、人は生まれながらに罪を背負い、そこから脱出する自由を持たないという「原罪」という強い考えが根本にあります。そこに疑問を感じた彼は心理学を学び、代表的なヒューマニスティック心理学者になるのです。私の尊敬するアメリカ人思想家にラルフ・ウォルドー・エマーソンという人がいるのですが彼と少し通ずるところもあり、直感的にロジャーズに惹かれたのです。そこで彼についてもっと知りたいと調べているうちに出合ったYouTubeの動画。そのなかでロジャーズはクライエント(彼は患者とは呼ばず、クライエントと呼びます)をカウンセリング中に悩んだとき、ただその話に注意深く耳を傾けるようにしたと。そしてそれがどんな能動的な手法よりも有効であることに気づいたと言います。相手の気持ちに寄り添いながら、言葉の裏側にある感情と対話するのです。

誰もが求めているもの。

小学生以来のアイシングクッキー制作。瞑想状態になり、楽しかったー。 これだと思いました。話すよりも相手の言葉をよく聞くようにしようと。結局のところ、相手も私も表面的には違っても深い部分では大きな違いは無いのです。つまり年齢や性別、社会的地位、そしてアメリカ人、日本人という文化的にも大きな違いはあるにせよ(それはまた今度皆さんに協力していただいたアンケート結果とともにお話します)、みんないちように「安らぎ」という感情を求めているのではないでしょうか。例えばプログラムのアカデミックカウンセラーと対話するときは、彼女と私が共有することができる彼女にとっての「安らぎ」とは何か。その職を脅かされないことですよね。そこで彼女にとっての安らぎと私にとっての安らぎがどこで重なるのかをまず考えるようにしました。例えば、私が良い成績をとり、無事に大学院へ進学するということは共有できますよね。彼女の評価につながりますから。その焦点さえ定められれば、あとは相手に質問しながらその話を中心に聞き、少し方向性がずれてきたときにだけ軌道修正として言葉を挟むようにしました。

この対話法は英語の出来ない私にとって楽でもあります。相手の使った単語を繰り返し使用することで会話が成立するので、そんなに英語が話せなくてもいいのです。また、そして聞きとれなければ尋ねればいいのです。いらないことを話しすぎて後悔することも少なくなります。基本的に人って聞くより話したい生き物なように感じます。例えばこちらはほとんど何も話していなくても、相手の話を傾聴して良いツボさえ押してあげられたら「今日はとても楽しかった!」と言われますよね。よくよく考えれば、これって仕事でいろんな方々を取材してきた方法と同じです。そこで気づけば少しずつではありますが、昔よりもワケのわからない状況になることが減ってきました。けれどもなにが相手にとって必要な情報でなにが不要なのかが見えてくるにつれて、どんどん自分の感情を誰にも吐き出すことが出来なくなってもきました。だから本を読んだり音楽を聴いたりとひとりで過ごす時間が増えました。少し寂しいですがそんなとき、私はここに自分の思いを書くことが出来る。読んでくださるみなさんの傾聴力に、とても感謝しています。

漢字テストに「売春」?

初めて頂いたホリデーシーズンにぴったりのプレミアムカカオの入ったデザートワイン。カリフォルニアのJeremy Wine Co.というブランドのものです。ダークチョコレートの香りがします。オシャレ! この間学校帰りのBART(こちらの電車)のなかで、真面目そうな会社員男性が一生懸命携帯電話を片手に日本語を勉強していました。微笑ましく眺めていると彼が暗記しようとしている言葉はまさかの「売春」! 思わず「あの、私は日本人なのですが、失礼ですがその単語の意味をご存知でしょうか?」とたずねると、にっこり微笑み「No」と言います。金融詐欺のアナリストなのだけれど、3か月後にNYに移住した折に日本語の漢字テストを受けてみるんだそうです。ふむふむとお話を聞きながら、その単語、絶対テストに出ないよ…。これは伝えなければと意味を伝え、なぜ売ると春という言葉を掛け合わせるとそういう意味になるのかを説明すると「わ、私に日本語を教えて下さい!!!!!!!3か月後にテストがあるのです!!!!!!」。いえいえ、私は日本語を教えるトレーニングを受けたこともありませんし、無責任なことは出来ませんからとお話しながらも、涙目で懇願されます。語学習得の辛さは痛いほどわかるから力になってあげたい。私にとっても、日本語をアメリカ人に英語で説明するうちにまた新しいアメリカ人とのコミュニケーションのヒントを得られるかもしれない。一体どうなるでしょうか…。また報告します!

See You!

期末試験も終わり、ゆったりと過ごす日々。そろそろまた勉強せねば…。 【関連記事】

「土居彩の会社を辞めて、サンフランシスコに住んだら、こうなった。」まとめPROFILE 土居彩

編集者、ライター。14年間勤務したマガジンハウスを退職し、’14年12月よりサンフランシスコに移住。趣味は、ヨガとジョギング。ラム酒をこよなく愛する。目標は幸福心理学を学んで、英語と日本語の両方で原稿が書けるようになること。

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