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『VOGUE JAPAN』2月号、編集長からの手紙。

  • 2015.12.22
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「歌うたい」の男たちがエンジェルになるとき。

去る11月の初め、何年ぶりかに渋谷のライブハウスに出かけました。今月号の男性ミュージシャン特集(「なぜ、彼らは50歳で輝くのか──」 p.094)に登場していただいた浜崎貴司さんが主催するアコースティックライブイベント「GACHI」を見るためです。昔から浜崎さんの大ファンである特集担当編集者に連れられて行ったのですが(「アコースティックだから立たなくて大丈夫ですよ」と言われ……笑)、素直に、気持ちよく、心が高揚しました。浜崎さんのほかには、同じく特集に出ていただいた斉藤和義さんや若手男性ミュージシャンたちがそれぞれに披露する歌や演奏を聴いて、青い切なさや、うっとりする気持ちや、荒削りな情熱など、最近普段の生活では思い出すことが少なくなった感覚を刺激されて大変うきうきしたのですが、それと同時にもうひとつ感じたことがありました。「この男性たちは、なんて幸せなんだろう」ということ。実生活でどうのこうの、ということではありません。それぞれの悩みは当然あるでしょう。しかし、「好きな歌を歌いながら」ずっと生きていけるなんて!(昔から、女性の心を虜にするミュージシャンは男性にとって永遠の憧れの職業ですよね)。なかでも、1年差でともに50歳になる浜崎さんと斉藤さんの、年輪を重ねた歌の自由さと豊かさと渋さは、深く心に響く何かがありました。ムーミン谷の音楽を愛する旅人スナフキンはこう言っています。「長い旅に必要なのは大きなカバンじゃなく、口ずさめる一つの歌さ」

そしてもうひとつ、私の心を捉えたのは、聴衆の女性たちの姿です。その夜、満員の会場を埋めていた9割以上が女性で、20代から50代くらいまで幅広い年齢層が皆、アップビートの曲では楽しそうに腕を振り、ラブソングに涙ぐみ、大げさに言えば、自分の心の中のいちばん大切な何かを彼らの歌に共鳴させ、励まされているような感覚を覚えました。そのとき、ステージ上の男性ミュージシャンたちは、まるで彼女たちのエンジェルのような素敵な輝きを放っていたのはひとつの真実と、私には思えたのです(これがライブの魔力ですね)。

こじつけのように聞こえたら恐縮ですが……、春のファッションをスタートさせる今号のテーマは「エンジェル」(p.080)です。春夏のランウェイをピュアに舞った天使のような白い服たちは、まずシーズン最初に注目したいテーマでした。

世界中で悲惨なニュースが耐えない不安な昨今、人々は、天使が見守ってくれるやさしい安心感や澄明で平和なものに心惹かれていると言えるかもしれません。いくら強く見える人でも、その姿勢を貫くためには何かの支えが必要です。いやむしろ、支えがあってこそより強くなれる、とも言えるでしょう。今月号でインタビューをお届けする、女優兼プロデューサーとして「最も影響力がある100人」(米タイム誌)にも選ばれたリース・ウィザースプーンは、女性たちに必要なものとして「愛、共感、励ましというセーフティネットね」と語っています(p.050)。そして、「勇敢にふるまうには、自分を支え、守ってくれる人たちの存在が欠かせないのよ」と。

また、毎年恒例の占い企画(別冊付録)では、初の試みとして人気の占い師しいたけさんに、それぞれの人が持つ守護エンジェルを占ってもらいました。しいたけさんによれば、それはなにも人間だけでなく、動物や自然界のものでもあるそう。「歌」や「歌うたい」が自分のエンジェルでもおかしくありませんよね。斉藤和義さんは自身の曲「歌うたいのバラッド」でこう語りかけてくれます。「ほんとうのことは歌の中にある」さあ、「歌うたい」の男たちよ、闘い、時には傷つく女性たちのために、今日も歌を歌っておくれ。あなたたちの羽がたとえ傷ついても、歌とそれを聴く女性たちがきっと癒やしてくれるだろうから。天使には年齢はない、と言われますが、挫折や傷つくことも知っているOver 50の天使たちも乙なものですね。

参照元:VOGUE JAPAN

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