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建前力はオバさん化への第一歩?

  • 2015.12.19
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建前力はオバさん化への第一歩?

仕事に美容に恋愛に、女の人生ってけっこー大変! 私はこのままでいいのかな? 幸せになれるかな? そんなモヤっとした悩みを浄化し、毎日がもっと楽しくなる痛快エッセイを、毎週土曜日お届けします。30女ともなれば、調子のいい会話が妙に板についてくる。本音ゼロ。愛想笑いをつくって、このまま世間に埋もれてしまっていいのか、悪いのか? 建前の多い人生に幸は訪れるのか? 誰か答えを教えて!
【恋愛はしたいけれど1mmも傷つかずに生きたい】vol.20

「あ〜あぁ。いつの間に自分はこんな“こなれた女”になったのだろう」

タクシーにひとりで乗ると、私はいつも自己反省してちょっぴり凹む。その理由は、運転手さんにとてつもなく“いい大人な対応”をするからだ。

「今日は寒いねえ」なんて平凡中の平凡な振りがきたら、

「そうですねー(なんだよー、静かにしててよ)。今日は忙しいですか?」

「いやいや全然よ。先週はもっと混んでたんだけどね」

「そうですか(まあそうだろうよ。ていうか、混み具合じゃなくて、おじさんの技術の問題じゃない? カーナビ使ってる時点で、仕事出来なさそうだしさ)週末だからこれからかもしれませんよー……」

キッチリバッチリ調子よく会話を投げ返し、そのままスムーズに運転手さんの話したい話を気持ちよくしてもらう。別に私は会話がしたいわけじゃない。運転手さんの気分がよくなると、もれなくお釣りをオマケしてくれたり、近道で進んでくれたりするからだ。

超小さいラッキーをもらうために、私はいつも“建前力”を最大限発揮し、そのたび「わたし、都会の絵の具に染まっているわ…」と消えてしまったウブさに嘆くのだ。

建前×建前=いい友達関係?

そんなわけで、女人生30年。自分の建前スキルはもはや条件反射レベルなのである。

先日は、地方に住まう子持ち友人が、「12月から東京に戻ります」とSNSに投稿していた。思わず「お帰り! 東京に戻ったらみんなでご飯行こう!」と反射的にコメントしたが、ふとその直後冷静になり、たしかに会えたら楽しいかもしれないが、バリバリ働く独身と子持ち専業主婦が再会したとて、話題を探すのに苦労して疲れる可能性が高いかも…と、無意識に建前力を発揮したことを後悔した。すると友側もそれは同感といわんばかりに、「12月の予定がわかったらみんなにメールするね♪」と、とても優しく返事をくれた。連絡はもちろんまだない。

美しい大人の対応で留めた友情関係。とはいえ、こんなに本音を言わず、ただ波風立てないよう綺麗に建前力を使う生き方を、私はいつのまに身につけたのだろうか。都会の絵の具に染まり続ける自分に妙な乾きを感じ、ふと本音重視の人に目を向けてみたら、その答えがわかってきた。

あ〜本音で生きるってツライ(泣)

それは私より少し年上のB子を見ていたときである。

彼女のポリシーは「私は、言いたいことは言います」と尊敬するくらい本音思考。「私の意見に同意できないなら、友達やめてもらってケッコーよ!」という強気なスタンスである。

「そういう生き方を少しだけ参考にしてみようかな」なんて前向きに彼女を見ていると、結構、本音と言う名のグチや政治系主張をネットに投稿している。その結果、当然のようにどこかの誰かと定期的に燃え上がっているではないか。

グチについて励ましのコメントをもらっても、「そういう曖昧な言葉って、ちょっと違和感あるかも」と優しい建前コメントに真っ向本音返信。政治のお話への細かい突っ込みに対しても、「それも1つのお考えだと思いますが…」と、かなり熱心に返信している。

おそるべし本音女子。私、政治と野球と宗教の話は、チキンなので1ミリも触れられない。というか、触れたら最後、馬鹿がバレてしまうもの!

しかし、言いたいことを言ってさぞ気持ちいいであろう本音女子だが、見ているとどうもそうではないらしい。言葉の端々に「私をわかって! 話を聞いてくれ!」という無言のパワーが溢れている。しかもそのパワーは大体が消化不良でフワフワとその辺をただよっている感すらある。

そんな彼女をただただ見つめる性格の悪い女が私なのだが、ポロリと誰にも聞こえないよう本音を漏らす。「ああ、これ、知ってる。自信ない人がやりがちな奴だ」

それは本音という名の自己主張

「本音を言う」という行動には、勇気があって潔いイメージがある。だけど最近はネットのせいか、本音の質が少しずつ変わってきている気がする。ネット上での話は、大体が一方通行の発信。誰に伝えたいでもない本音には、言うことの勇気よりも「みんな俺の話を聞いてくれ!」の自己主張がうんと詰まっているんじゃないだろうか。

学生の頃、友達同士では大声で話せるのに、先生に当てられると急に声の小さくなる人がいたけれど、あの自意識過剰な感じにこれはちょっと似ている。周りに言っているふりをして、本当は「そうだね!」が欲しくて言っているから、同意をくれない先生の前では、本音は小声になってしまうのだ。

そんな、人を選ばなくちゃ言えない本音なら、笑って常に建前力で涼しく切り抜けられるほうが、ずっとオトナでカッコいい。

建前ばかりの人生は、自分が汚くなったようで嫌になることもあるけれど、本音は勇気のある強者にしか使えない。だったら私のようなチキンは特に、色々デリケートな問題が噴出するアラサー時代に、建前力をうんと磨くしかないのだ。

「そうだよね、建前が言える私って、オトナの証拠!」

そんな結論に至りながら、久しぶりに美容院の予約を取った。半年も間が空いてしまったサロンへ行くと5年来の付き合いである辛口美容師が、開口一番唸る。

「ちょ、え!? そんなに太ってどうした!?」

うわ!この人、勇気ある本音使いだっ! って、ちょっと、失礼じゃないっすか?

おおしま りえ/雑食系恋愛ジャーナリスト・イラストレーター

10代より水商売やプロ雀士などに身を投じ、のべ1万人の男性を接客。20代で結婚と離婚を経験後、アップダウンの激しい人生経験を生かし、現在恋愛コラムを年間100本以上執筆中。そろそろ幸せな結婚がしたいと願うアラサーのリターン独女。

HP:http://oshimarie.com

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