1. トップ
  2. 恋愛
  3. アデルのニュー・アルバム『25』について

アデルのニュー・アルバム『25』について

  • 2015.12.17
  • 2003 views

■ 2015年で最も売れたアルバムに。

アデルのアルバム『25』が売れています。11月20日の発売直後に英米のアルバムチャートで共に第1位に輝いたのをはじめ、ロイターの記事によれば、発売から2週間ほどで全米での売り上げが519万枚と過去最高を更新、早くも2015年で最も売れたアルバムとなってしまったそうです。

1988年、サウス・ロンドン生まれのアデル。もともと顔立ちがはっきりしていましたが、すっかり美人になりました。

アデルはレディー・ガガやテイラー・スウィフトなどのように、自ら何かニュースを発信するタイプではありません。それよりかプライヴェートを公に曝すことを頑に嫌い、オンとオフをきっちり分けている人。ゆえに前作の、3100万枚売れた記録的な大ヒットアルバム『21』以降は映画『007スカイフォール』の主題歌をリリースしたくらいで、人前に登場する機会も最小限にしていました。なので約5年ぶりとはいえ、こんな多くの人たちに待たれていたとは本人も予想しなかったと思います。

アデル「スカイフォール」映画の冒頭のシーンに突然流れてきて、とても印象的でした。

私も実際に会ってみてわかったようにアデルは人としても魅力溢れる女性で(お喋り好きでチャーミング、裏表のない誠実な性格)、しかも彼女は自身が目立つことよりも、「歌」や「曲」がきちんと受け取られるように、そこに全てを注いできました。そして実際に最新シングル「Hello」を10月23日にミュージック・ヴィデオを公開したところ、24時間以内で最も視聴されたVevoのミュージック・ヴィデオのそれまでの最高記録、テイラー・スウィフトの「Bad Blood」を更新するほどに。しかもテイラーのヴィデオには彼女の友人である豪華キャストが出演していましたが、「Hello」は歌詞の世界を純粋に反映した映像作品。しっかりと歌に焦点を当てていたので、純粋に曲の魅力だけでチェックした人たちが多かったわけです。

最新ヒット曲「Hello」

■ 過去の2枚と比較してみると......。

その曲が収録された最新アルバム『25』には、これまでもプロデューサーとして参加していたポール・エプスワース(フレンドリー・ファイアーズ、フォスター・ザ・ピープルなどプロデュース)やライアン・テダー(ワン・リパブリックのフロントマンで、プロデュースも多々)に加え、ブルーノ・マーズやマックス・マーティン(ブリトニー・スピアーズをはじめとする大ヒットメイカー)、デンジャー・マウス(exナールズ・バークレイ、ブロークン・ベルズ他、プロデュース作品多数)、グレッグ・カースティンなど錚々たる顔ぶれが参加。ボーナストラックにはリンダ・ペリー(クリスティーナ・アギレラ、P!NKなどプロデュース)の名前もあります。

父はウェールズ人、母はスペインとトルコの血を引くといい、実際に会うとエメラルドグリーンの瞳が印象的です。

聴いてみて思ったのは、一番インパクトのある楽曲は自らのザ・バード・アンド・ザ・ビーをはじめ、リリー・アレンやシーア他、多くのアーティストを手掛けてきたグレッグ・カースティンとの「Hello」。全体的にじっくり聴き込めるアルバムになっていると思います。もっとチャレンジした楽曲があるかと思ったのですが、奇を衒ったものはなく、耳に馴染みやすい曲がほとんど。デーモン・アルバーン(ブラー、ゴリラズなど)とコラボレーションしているという情報もありましたが、『Rolling Stone』誌に語ったアデルの発言によれば「うまくいかなかった」そうです。

『19』はアデルがブリット・スクール在学時に課題で書いた3曲が収録されているように、原石らしさを感じさせる珠玉のアルバムでした。歌はもとより、サウンドも彼女の繊細な世界観を手作りの音色で彩るかのようにアコースティックギターやグロッケンシュピールなどの楽器で奏でられ、アデルの心の部屋で佇んでいるかのような親密さもありました。

学生時代に作った曲の1つ。「Hometown Glory」。私がアデルを知った最初の曲でもあり、すぐに繰り返し100回ほど聴いた曲です。

一方『21』は、前のアルバムで楽曲よりも歌唱力ばかり評価されたアデルが、曲作りに強くこだわった一枚。世代も時代も超えて愛され続けるカントリー音楽など、アメリカのルーツミュージックを研究し、前作同様に自分の失恋を歌にするのでも、ストーリーテラーとして、もっとリスナーの心に届くことを意識した作品でした。歌詞を丁寧に綴った分、彼女の感情の波がほどよく楽曲に表れ、バラエティに富んだ曲調も画期的でした。このアルバムについては以前記事にしていますが、「信憑性のあるリアルな歌こそが共感を持って聴いてもらえるし、歌う意味のある楽曲であるの」と意識しているアデルだけに、大スターぶらない飾らない性格がさらに歌の真実味を強めているのだと思います。

アデルの人気を決定づけた代表曲「Rolling in the Deep」。

■ 過去を償い、自分を知るためのアルバム。

アデルは『25』を発表した際に公開書簡をしているので、その内容を一部抜粋します。
「前作はブレイクアップ(別れ、破局)についてのアルバムだった。このアルバムにもそうした肩書きを付けなければならないとしたら、メイクアップ(仲直り、償い)のアルバムとでも言うべきかしら。自分自身との関係を修復し、失った時間の埋め合わせをしているの。これまでやってきたことと、してこなかったこと、すべてに対して償っている。でも、今までみたいに、過去の断片にしがみついている時間は今はもうない。だって過ぎたことだもの。(中略)『25』というアルバムは、気づかない内に自分がどんな人間になっていたかを知るためのアルバムなの。こんなに時間がかかってしまったけれど、でもね、人生ってそういうものなのよ」

『25』より「When We were young」。

『25』には派手さはありません。今思うと『21』がチャレンジのアルバムで、その作品が第54回グラミー賞で主要3部門を独占、最多6部門を受賞するなど、圧倒的な評価を受けてしまったので、今回はコラボレーションする人々含め、もっと多くの人に聴いてもらうことを意識し、中庸の音楽(middle of the road)を目指してしまったのかもしれません。自分の曲をアデルに歌わせてみたい、アデルの曲をプロデュースしたいと望む人は多々いると思うし、コラボできるチャンスがあるのなら、彼女の歌声で名曲を残したいと願う人も少なくないはず。ゆえにバラード調のナンバーが増えてしまったのかな、と思います。

正直、最初にこのアルバムを聴いた時は、万人受けするであろうことから、また歌唱力の素晴らしさから"21世紀のセリーヌ・ディオンのよう"と感じてしまったほど。でもアデルはセリーヌと違って曲作りもしているわけで、聴き惚れるほど歌も素晴らしいけれど、今回は特に歌詞にグッと引き込まれてしまいました。これまで自分の失恋をテーマに曲を作ってきた彼女は、現在は結婚し、1児の母として幸せな日々を送っています。そんな彼女が選んだテーマは、過ぎ去った時間をより良い思い出にするためにも、また傷つけ合った恋人との関係を少しでも良い方向に持っていこうとするかのような、償いの歌。もちろん過去を悔やんでいるリスナーの心も温かく包むような思いが綴られています。

最新アルバム『25』。

「思い立ったが吉日」という諺があるように、別にアデルと同い年の27歳でなくても、何歳でもあっても明日がやってくる限り、気持ち新たに生きていきたいもの。そういう意味でも、『25』は過去に対して新たなヴィジョンを与えてくれるアルバムであり、明日に進みやすくしてくれる歌が多く収められていると思います。

シンプルなステージに映える圧倒的な歌唱力。来日公演、実現してほしいです。

アデルは、「自分の年齢をアルバムタイトルにするのはこれが最後」と公言しているそう。『19』と『21』と『25』、3部作として聴いてもバランスの取れている名盤なのではないでしょうか。

*To Be Continued

の記事をもっとみる