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「エイジズム」って何? 話題の言葉を専門家が解説

  • 2023.5.19
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近年、日本でも「エイジズム(年齢差別)」という言葉が知られるようになってきた。

その背景には、若手論客の高齢者に向けたさまざまな発言が問題視されてきたことがある。たとえば、『文學界』2019年1月号に掲載された作家・古市憲寿さんとメディアアーティスト・落合陽一さんの対談は、財政健全化のために「終末期医療を保険適用外にする」ことを肯定的に論じて賛否を呼んだ。

その後も、お笑い芸人・たかまつななさんの投稿した「若者よ、選挙に行くな」と題した動画や、経済学者・成田悠輔さんの「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹をすればいい」という発言が「世代間対立を煽っているのではないか」と注目を集めてきた。

これらの発言を批判する際、よく使われるのが「エイジズム」だ。しかし、この言葉は英語圏から輸入されてきた新語で、多くの辞書にはまだ記載がない。

2023年5月1日に邦訳が発売されたアシュトン・アップルホワイトさんの著書『エイジズムを乗り越える 自分と人を年齢で差別しないために』(ころから)では、このエイジズムという言葉の由来や意味が詳しく解説されている。

名付け親は精神科医

エイジズムという言葉は、1969年、アメリカで生まれたという。名付け親は、精神科医のロバート・バトラーさんで、その意味は「年をとっているという理由で高齢者たちを組織的に一つの型にはめ差別すること」を指した。この時代には日米ともに介護や認知症、福祉といった「老人問題」が社会問題として浮上してきていて、たとえば1972年には認知症老人の介護を描いた有吉佐和子さんの小説『恍惚の人』がベストセラーとなっている。

『恍惚の人』には、認知症となった義父を介護する若い主人公による「長い人生を営々と歩んできて、その果てに老耄(おいぼれ)が待ち受けているとしたら、 人間はまったく何のために生きていることになるのだろう」という有名な一文がある。社会の近代化が進み、平均寿命が伸びたことによって、高齢者は下の世代から「高齢になっても生きる意味」を改めて問われるようになった。

エイジズムの概念は、この問いに対する一つの回答となっている。自身も1952年生まれの高齢者である作家のアップルホワイトさんは、「エイジズムを壊滅させる」ためには、「エイブリズム(能力差別)、レイシズム、セクシズム、 同性愛恐怖症、その他の全ての差別主義を壊滅させること」が必要だとする。つまり、1人の人間である高齢者が、年齢を理由に「生きる意味」を問われることは、人種や性的指向や能力の高さによって命を脅かされるのと同じ構造による差別である、ということだ。

アップルホワイトさんは、本書の日本版発売にあたって日本の読者へ向けてコメントを寄せている。それによると、日本は「社会の高齢化」という変化の最前線、「新しい長寿世界をリードする位置」に立っている国であり、その日本が「私たちに立ち塞がるエイジズムを乗り越え、この長い人間の一生をフルに活用しながら世界をリードしていくため」に、本書やエイジズムという言葉が役立つことを願っているという。

■アシュトン・アップルホワイトさんプロフィール
1952年米国生まれ。作家でアクティビスト。エイジズムの専門家としてニューヨーク・タイムズをはじめ多くのメディアに記事やコメントを寄せている。2019年に本書(原題:This Chair Rocks: A Manifesto Against Ageism)をセラドン・ブックスから刊行。国連が提唱する「健康な高齢化の10年」において2022年に「世界をより良い高齢化社会へと導くリーダー(Healthy Ageing 50)」に選ばれた。

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