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すずきたもつさんの陶作品と植物、高橋理子さんディレクション「ROOT」展。

  • 2015.12.8
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「たくましく生きる植物が大好きです」。そう語るのはアーティストの高橋理子(ひろこ)さん。理子さんがディレクションする「ROOT」展が、高橋理子押上スタジオで12月13日まで開催されています。

このスタジオでも育てられている観葉植物「エメラルドウェーブ」と陶造形作家のすずきたもつさんの展覧会。会場構成にアーティスト/建築家の佐野文彦さんが関わっています。

Photo: Courtesy of TAKAHASHIHIROKO INC.

以前、スタジオ内で育てられている多くの植物を見せていただき、デスクの置かれたフロアの大半を植物園さながら数百という鉢が埋め尽くす環境に圧倒されてしまったことがありました。それらの植物が同じ建物の異なるフロアにどう展示されるのというのも、私が展覧会の開幕を楽しみにしていた理由のひとつです。

「大学の先輩でもあり、長く知っているすずきたもつさんの作品を紹介すると同時に、私の想いを伝える展覧会にしたいと思いました」と理子さん。

Photo: Courtesy of TAKAHASHIHIROKO INC.

理子さん、すずきさん、佐野さん各々の考えがあり、それが響きあっているのもこの展覧会の大きな特色。まずは理子さんとエメラルドウェーブの関係があります。

東日本大震災の後、生きていくために必要な『食』の背景に思いを巡らせ、都外に畑を借りて自ら野菜を育てたいと思っていたという理子さん。2014年にスタジオを現在の場所に移転すると同時に、スタジオ内で野菜や果物の栽培もはじめました。

「江戸東京伝統野菜に関わるプロジェクトにも関わっているので、それらの野菜も自分で育ててみなくてはと思いました。この展覧会で紹介しているエメラルドウェーブを含むアトリエ内の植物は、いまでは400株ほどに。野菜や果樹は時期によって約30種育てています」

築50年ほどの元鉄工所を改修した高橋理子押上スタジオ。ブルーボトルコーヒーの店鋪設計などで注目される長坂常さん(スキーマ建築計画)の設計です。Photo: Courtesy of TAKAHASHIHIROKO INC.

植物に興味を持っている理子さんとパートナーの中村裕介さんがまずひかれたのが、沖縄で出会ったシダ植物、オオタニワタリ。仕事で関わる沖縄ティーファクトリーの茶畑を訪ねたときのできごとでした。

「畑のなかで自分の背丈ほど大きく育ったオオタニワタリに出会い、魅了されてしまいました。沖縄の植物園にも多数のオオタニワタリを見に行っています。その後、育てている生産者さんからゆずりうけることができて、東京で育てることにしました。無事に東京の冬を越しています!」

「杉本神籠園の杉本さんを訪ねたとき、植物の枯れた葉っぱを見た杉本さんが『この色は、枯れているというよりも、葉の表情の変化。葉が茶や赤に色づくのも植物の魅力』と。その考えがとてもいいなあと......」

「私が手がけている手ぬぐいや浴衣を例に挙げると、古くなったからとすぐに処分することなく裂いて使ったり、長く着て生地がやわらかくなった浴衣は赤ちゃんのおしめに使うなどしていた時代がありました。時間の経過を劣化ととらえず、新しい視点で楽しんでいたと思います。共感できるところがたくさんあります」

左は30歳のエメラルドウェーブの母株、右はエメラルドウェーブの切葉。これまで以上に植物への興味は増すばかりという理子さん。イギリス コーンウェル州のエデンプロジェクトなど各国の植物園を訪ねています。Photo: Courtesy of TAKAHASHIHIROKO INC.

円と直線による表現に一貫して向かいながらも、実は「自然界に存在する有機的なかたちに強い魅力を感じていたわけではなかった」という理子さん。「有機的なかたち、表現の『味』をどうとらえるのがよいのだろうと考えていた時期がありました。考え方が変わったのはこのスタジオを準備するため、(長坂)常さんとやりとりしていたときです」

「40年以上前に建てられてゆがみやズレが生じている建物にどう手を入れるのか、状況をもっと大らかにとらえないといけないと思うようになりました」。オオタニワタリに出会ったのは、ちょうどそのときだそうです。

話をうかがうほどに伝わってくる想い。すずきさんとの展示の企画についても教えてもらいました。「自然体で、手からわきあがってきたかたちに感じ、二次元の表現を続けている私とは異なる世界です。自然界にそのまま存在していそうな作品を植物とくみあわせることで、見たことのない世界になるのではと思いました」

Photo: Courtesy of TAKAHASHIHIROKO INC.

「スタジオにある多くの植物を見せてもらっていたこともあり、企画を聞いて嬉しくなりました。いつも展示の場を選んでから作品を制作しているので、この空間で展示ができるのだ! と思ったんです」とすずきさん。

「具体的なモティーフではなく、『植物らしいもの』を想像して創作している」というすずきさん。展覧会タイトルの「ROOT(根)」のように「ショウガっぽく」植物からそのまま伸びた根を思わせる陶の造形も。どの作品もエメラルドウェーブとシームレスに連なり、全体でひとつの生物のように感じられるのは不思議です。

「エメラルドウェーブを目にしたうえでの新作が中心ですが、自分の作品が植物と組み合わせられるのは初めてのことです。作品が植物的なかたちで植物とのせめぎあいもあるので、植物に対しても気を使っています」

Photo: Courtesy of TAKAHASHIHIROKO INC.

そして会場構成。グリッドのステージが、展示されるもののフォルムをより明快に伝えてくれます。佐野文彦さんにも話をうかがいました。

「展示会場である空間のなかにちょうど半分ほどのステージが入った二重構造がおもしろいのではないかと考えました。グリッドとは異なり、決まりきった姿をしていないところが植物の魅力。そうした植物とすずきさんの作品のフォルムによって、整えられすぎていない間伐材の角材がよりよく見えることも感じています」

京都で数寄屋大工に弟子入りした後、設計事務所を経て独立。現在は建築からアートまで広く活躍する佐野さん。「普段は素材をふまえながら、全体から細かいところを形づくり、ディテールを積み上げる作業をしています。自分とは異なる表現方法のふたりとの展覧会であることが、今回の醍醐味です」

会場に入ったときに展示全体を目にできる角度でステージが配されています。使われている角材は今秋、森林保全団体more treesとのイベントの際に使用した間伐材を再利用。その発想もすばらしい。Photo: Courtesy of TAKAHASHIHIROKO INC.

「この展覧会は陶芸作家の陶芸展とも違います。外からの鑑賞だけでなく、両側から展示に囲まれるインスタレーションにしたかったので、ステージの中に入れるようにもしました。人が入ることができ、構造が成立するぎりぎりの寸法で構成しています」

「この展示の空間構成では空間としてだけでなく許容値としての"すきま"をあけているんですが、自分では用意できないものを"もちこまれる"感じがおもしろい。自分の世界とは違うし、他の人が植物や作品をどう配置するのか、こんな風に置かれるのか! と」

Photo: Courtesy of TAKAHASHIHIROKO INC.

三人それぞれに手にした状況を活かしながらも、予測できないものも楽しみながらつくっている。また、それぞれに「自分とは違う」と感じた表現者と一緒の展覧会を心から楽しんでいる。だからこの展覧会はわくわくするのだということがわかり、私の頭のなかのいろんなスイッチが「オン」になった気がしました。再び理子さんの言葉を引用しておきます。

「私が制作する着物では絹と桑畑の関係について、仙台箪笥のプロジェクトでは林業についてなど、制作は必ず素材と切り離せないのですが、ものの背景をこれまで以上に考えるようになりました。考えなくてはならないことがたくさんあって、それらを私たちの日常感にどう落とし込めるだろう? と考えているところです」

「また、私たちが知っている自然は大きな自然の一部。知らないことがたくさんありますが、知らなかったものとの距離が縮まると、ぐるぐるまわる輪のようにいろんなことがつながっていくように思います」

植物とひと、自然界とつくられるもの。目の前の土を手にとりながら地球環境に想いを巡らせることの大切さ。心地よい展示会場が、さまざまな問いかけに満ちていることを感じます。

左から、すずきたもつさん、高橋理子さん、佐野文彦さん。Photo: Noriko Kawakami

「ROOT」TAMOTU SUZUKI EXHIBITION - DIRECTED BY TKAKAHASHI HIROKO
12月13日(日)まで。木曜日定休、12:00〜18:00(月〜水)、11:00〜19:00 (金〜日)
すずきたもつさんの在廊予定日は12月8日、12日、13日。作品は販売も。
会場:高橋理子押上スタジオ
http://takahashihiroko.com

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