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黒澤明からの影響も!『長ぐつをはいたネコと9つの命』監督&プロデューサーが語る、人気キャラクターの新たな見せ方

  • 2023.3.30
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『シュレック』シリーズの人気者、ネコの“プス”を主人公にした映画シリーズ第2弾『長ぐつをはいたネコと9つの命』(公開中)。前作『長ぐつをはいたネコ』(11)から11年、プスの新たな物語はどのように誕生したのか。ドリームワークス・アニメーションのマージー・コーン社長が「観客の期待するプスを描きながら人気シリーズの新章となるような革新的な映画にしてくれる」と期待を寄せたジョエル・クロフォード監督とプロデューサーのマーク・スウィフトの2人にインタビュー!制作プロセスや本作に影響を与えた日本の映画やアニメへの想い、再タッグの感想などを聞いた。

【写真を見る】ネコの変装をしたワンコ。そのインスピレーションは、黒澤明監督『七人の侍』から!

マントと長ぐつがトレードマーク!お尋ね者の賞金首ネコのプス [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
マントと長ぐつがトレードマーク!お尋ね者の賞金首ネコのプス [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

プスは帽子に羽根飾り、マントと長ぐつがトレードマークのお尋ね者の賞金首ネコ。剣を片手に数々の冒険をし、恋もしたが、気づけば9つあった命のストックは残り1つになっていた。急に恐怖がこみあげ、家ネコになることを決意するも、プスを狙う敵の襲来で平和な生活は続かない。そんな時、どんな願い事も叶う「願い星」の存在を知り、プスは命のストックを得るための旅に出る。

「ワクワクするような新しい作品にしなきゃという思いがありました」(クロフォード)

ーーマージー・コーン社長からの期待をどのように受け止めましたか?

クロフォード「少しプレッシャーを感じたのは確かだけど、それは逆にいいものでした。本当にワクワクしながら作ることができたので。どちらかというとストーリーテラーとしての自分たちにプレッシャーを与えていたという感覚です。『シュレック』シリーズから飛びだした『長ぐつをはいたネコ』は世界中の方々が愛してくれたキャラクター。そんな彼を改めてスクリーンに登場させるわけだから、僕らとしては『戻ってきたぞ!』ということをしっかりと示したかったし、ワクワクするような新しい作品にしなきゃという思いがありました」

スウィフト「僕らスタッフ自身が『シュレック』シリーズのファンであることが、作品作りにおいてすごく助けになったと思います。ちゃんと『シュレック』シリーズを観てきたし、愛してきた。そんな作品に関われることは、本当に名誉なことだと受け止めました」

ーークロフォード監督の長編デビュー作『クルードさんちのあたらしい冒険』(20)でタッグを組んだお2人。タッグの相棒としてお互いをどのように感じていますか?

ジョエル・クロフォード監督 [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ジョエル・クロフォード監督 [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

クロフォード「実は、お互いあまり好きじゃないんだけど…っていうのは嘘です(笑)。本当に大好きな人だよ(と肩を引き寄せる)」

スウィフト「ジョエルと会う前に『人柄がすごくいい』という評判をたくさん聞いていました。でも僕のなかでは、監督は自我の強い人が多いというイメージがあって。自我が強いことはクリエイターとしては大事なことだけど、本当にみんなが言うようないい人なのかな、大丈夫なのかなと半信半疑でした (笑)。でも彼に会ってすぐに『なるほど!』と納得。人柄がとても素敵で、寛大だし、忍耐力もあるし、監督としての腕もある。作品に関わるすべての人の最高の部分を引き出すことができる人物だったんです。本当にサイコー、大好きです!」

クロフォード「僕ら2人は人が大好き。特別なものってやっぱり1人で作ることはできません。コラボレーションを通してみんなで力を合わせれば素敵な作品が生まれます。それぞれがいいビジョンを持っていても、それを共有し把握していなければいいものには辿り着けない。そういう意識を会って話してすぐにお互いに理解できたことが、僕たち2人がウマが合うと感じた大きな理由だったと思います」

プロデューサーのマーク・スウィフト [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
プロデューサーのマーク・スウィフト [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

スウィフト「ジョエルはチームのみんなに『いつでもアイデアを持ってきていい』とオープンな状態でいてくれます。しかもいいアイデアは積極的に採用するんです。そういう環境を彼が常に作っていたことに僕はすごく共鳴しました。本当にすばらしい現場でした」

「アントニオとサルマの関係性も、作品にいい影響を与えてくれました」(スウィフト)

ーーアントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック。本作のおもしろさは2人の理解度によるところが大きかったとのこと。プス、キティを確立するうえで、お2人はどのようなお話をしましたか?

クロフォード「作品のアイデアを伝えた段階で、アントニオとサルマが僕らよりもはるかにキャラクターを理解していると実感しました。アントニオに関して言えば、プスを20年以上やっているから、むしろ彼の意見を積極的に取り入れながら作っていこうと考えていました。教えてもらうことはとても多かったです。レコーディングでもめちゃくちゃアドリブをやってくれて、そのなかから選りすぐりのアイデアを採用して作り上げていきました。プスをよく知るアントニオだからこそ生まれたアイデアがたくさんあります。アントニオ自身も“新しいプス”の表現に乗り気で、たくさんのアイデアをくれました。この作品ですばらしいケミストリーが生まれたのはアントニオをはじめ、役者自身から来ていると言っても過言ではありません」

ネコ好きも太鼓判の、毛の数や登場するネコの種類などにも注目! [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ネコ好きも太鼓判の、毛の数や登場するネコの種類などにも注目! [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

スウィフト「アントニオとサルマの関係性も作品にいい影響を与えてくれました。実際の2人は兄妹のような関係で、気軽にからかい合うこともできる間柄。今回のプスとキティはちょっと仲違いしているところから始まる設定で、映画の前半で馬鹿にしたり挑発したりする2人の小競り合いを、アントニオとサルマは遊び心を持ち、とても楽しみながら演じてくれました」

ーーアントニオ・バンデラスが20年関わってきたキャラクターですが、この作品においてのプスの見せ方、新しいプスの描き方は、どのようにアプローチしたのでしょうか?

クロフォード「アントニオ自身がプスの違った側面を映画で披露できることにすごくワクワクしていました。僕たちが今回一番見せたかったのはプスの“もろさ”。不屈なキャラクターで完璧に見えるプスにもみんなと同じように悩みもあれば不安もある。カッコいいヒーローにだってもろい部分があることを見せることが、大人にも子どもにもいいメッセージになると考えていました。自分の弱い部分、脆い部分を認めるのは『自分が強いからできること』というメッセージでもあるんです」

スウィフト「そんなメッセージに加えて、コロナ禍を経験している我々が、改めて命の大切さやその価値のようなものを感じられたうえで前向きになれる、そういう作品になることをアントニオ自身も願っていたし、ワクワクしながら取り組んでいるようでした」

ーーイベントやインタビューで日本語版吹替キャストから「トリビアに驚きがあり、おもしろい!」「ドリームワークスの本気度が伝わってくる」といった声をたくさん聞きました。お2人が好きなトリビアはありますか?

クロフォード「大好きな作品なので『全部!』ですね(笑)。でも、強いて挙げるならストーリーテラーとしての想いかな。いろいろな要素を詰め込むことでストーリーを重層的にし、キャラクターをより強いものとして見せたいと考えていました。だから実は隠れたメッセージというのはたくさんあるんです。ちょっとネタバレになるけれど、例えば金色の髪の少女ゴルディの賞金首のポスターが破れると『家族を求めています』というメッセージが出てきます。それは彼女がずっと家族を求めてきたから。でも、映画ではゴルディの周りに登場する木や石が、なにか意味のある形になっていたりします。実は最初から彼女の周りにはあったものだけど、気づかなかっただけ、という描写でもあるんですよね。そういうトリビアにあふれた作品になっています」

スウィフト「いままで8通りの死に方をしているプス。この死に方をセレクトする際には60以上のアイデアを出し合いました。残念ながら実現しなかったけれど、実は力士と対戦して潰されるというアイデアも最後の最後まで候補として残っていました。そんなふうに実現しなかった描写にもトリビアはたくさんあったなって、いまジョンの話を聞いていて思い出しました。採用に至らなくてもアイデアを出し合うこと自体をとても楽しみました」

「黒澤作品からはたくさんの影響を受けています」(クロフォード)

ーーウルフ役は黒澤明監督の『用心棒』(61)がヒントになったとのこと。また、ワグネル・モウラが独特のクセをつけて声をあてて誕生したキャラクターだそうですが、本作における日本の作品からのインスピレーションについて教えていただけますか。

ウルフのキャラクターには武士道、侍の要素を詰め込んだ [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ウルフのキャラクターには武士道、侍の要素を詰め込んだ [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

クロフォード「黒澤作品からはたくさんの影響を受けています。ウルフに関しては特に、武士道や侍という”概念”からインスピレーションを受けました。ウルフは偉大なるプスと互角に渡り合うことができ、恐怖を感じさせるようなキャラクターでなければならない。まず、視覚的な面では、ポンチョを着たマカロニウエスタンをイメージしました。そこに風が吹いてポンチョが揺れた時、ふと侍の姿が思い浮かんだんです。

さらにその内面には、武士道、仁義、名誉、侍の掟を持っているキャラクターにしたくて。そうすることで、2人の対峙シーン、答えを見つけたプスとウルフがお互いにリスペクトを持ちながら違った方向に歩いていく場面に重みが出ると思いました。今作で具体的にイメージしたものがあるとすればワンコ(ネコに変装したイヌ)です。『七人の侍』で三船敏郎さんが演じた菊千代を参考にしました。最初は侍っぽくなかった菊千代が最後は非常に名誉のある人物になって終わる。本作の核心、テーマを体現しているキャラクターでとても重要な役割を担っています。忠誠心を持ってみんなについていくところとか、そっくりでしょ?最終的にはワンコが周りのみんなを変える存在となるという意味で、とても大切なキャラクターでした」

【写真を見る】ネコの変装をしたワンコ。そのインスピレーションは、黒澤明監督『七人の侍』から! [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
【写真を見る】ネコの変装をしたワンコ。そのインスピレーションは、黒澤明監督『七人の侍』から! [c]2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ーークロフォード監督は、『AKIRA』(88)など日本のアニメーションも大好きだそうですね。最近刺激を受けた日本のアニメーションはありますか?

スウィフト「ジョンはたくさん知っているよね。たっぷりと答えてくれるはずだよ!」

クロフォード「僕の得意分野ですね(笑)。日本のアニメーションは大好きです。子どもの頃に『AKIRA』を観た時の衝撃はいまでも忘れられません。ビジュアルもすごいと思ったけれど、芸能山城組のスコアも本当にすばらしくて。僕が一番好きな劇伴です。アニメーションでできることの限界に挑戦し続けていることが日本のアニメーションの尊敬するところ。いまは14歳の息子と一緒に観ることが多いです。最近のおすすめは『ワンパンマン』、『モブサイコ100』、今年のアニメなら『TRIGUN STAMPEDE(トライガン・スタンピード)』がお気に入りです!」

取材・文/タナカシノブ

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