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ミュージカル界の申し子・浦井健治「翼をいただけた作品」

  • 2023.3.30
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『仮面ライダークウガ』(2000年)の敵役でデビューしたあと、ミュージカルの世界で頭角を現し、多数の主演舞台を抱える人気俳優となった浦井健治。そんな彼の礎となった作品のひとつが、初めて主演をつとめたミュージカル『アルジャーノンに花束を』だ。

ミュージカル『アルジャーノンに花束を』で、9年ぶりに主演チャーリイ・ゴードン役をつとめる俳優の浦井健治

2006年の初演で「菊田一夫演劇賞」、2014年の再演でも「読売演劇大賞最優秀男優賞」を受賞した役に、なんと9年ぶりに返り咲く。久々に演じるチャーリイ役への思いや、ミュージカルだからこそ描ける表現などを、じっくりと語ってもらった。

■ 「主人公は大変な目にあっても『変わらない』」

──原作は、幼児並みの知能の青年が、手術によって天才に生まれ変わるというSF的な設定ながらも、人間の業や幸福について深く考えさせる、永遠のベストセラー小説です。初演のときは、なにを感じながらチャーリイ役を作り上げていましたか?

2023年に入ってからは、ミュージカル『キングアーサー』で名だたる舞台俳優らとともに最強の騎士・アーサー役を演じた浦井健治

無我夢中でしたね。でも(脚本&初演版演出の)荻田(浩一)さんが、もう1人のチャーリイ・ゴードンとして存在して、チャーリイが2人いるぞっていう状態だったのは覚えています。そんな状況でしたので思い入れも強くて、みんなで作ってきた作品でした。

──当時荻田さんから、特にアドバイスをされたことはなんでしたか。

「演じすぎない」ということ。チャーリイは本当に最初から最後まで、ずっと同じなんですよ。小説だと(チャーリイの日記の)文体は変わっていくけど、彼は最初から最後まで、ただ友だちが欲しかったり、家族に認められたいと思っていただけ。でも周りの人の方が変化して、1人ひとりの人間性や業があぶり出される様が描かれていくわけです。

──とくに家族の真実が暴かれていく部分は、相当キツイですよね。

愛も感じられるけど、実は怖くておぞましい物語でもある。でも同時に、いつの時代も変わらない問題を提示しています。(原作者の)ダニエル・キイスさんが描いた「人間ってこうなのかな」という思いを、それぞれのお客さまが、それぞれの価値観で持ち帰れるというのは、演劇的にすごく有意義な時間になると思います。

丁寧に、言葉を選びながらインタビューに答える浦井健治

──そのためにチャーリイは「演じすぎない」というのが重要だと。

アニメでも当てはまるヒーローとかいますけど、周りがどんどん変化したり、大変な目にあっても、彼自信は変わらない。だからこそ正義であり得るし、かっこよく見えると思うんです。

チャーリイも演じすぎないことによって「変わらなかった」というのを表現したいし、お客さまにとっては「チャーリイは最初から最後まで同じ人でしたが、あなたはどう観ましたか?」という、問いかけになると思っています。

■ 「9年という歳月で、自分が感じることが多くなった」

──その一方で、チャーリイの知性の変化は表現しなければいけないという、矛盾をはらんだ状況ではあります。でもミュージカルだと、音楽をシンプルで明るいものから、複雑でシリアスなものに変化させることで、それをあざやかに表現していますよね。

ミュージカルが表現できる「可能性」について話す浦井健治

そうなんです。ストレートプレイやドラマだと、そこがすごく難しいと思うんですが、ミュージカルだと「変わっていない」とセリフで言いながらも、歌が変わっていくことで、他者からはチャーリイが変わったように見えることが表現できる。音楽によって彼の二面性を同時に表現できるのが、ミュージカル版の強みです。

──それ以外にも「これ、ミュージカルだからこそだな」と思う見どころは?

ダンスの使い方ですね。動物実験のマウス・アルジャーノンを、ダンスで表現するというシーンもあるし、視覚的にすごく楽しめるところが多いんじゃないかと。

──そのアルジャーノンが、チャーリイと等身大で登場するというのが、演劇的な仕掛けのおもしろさでもありますが、実験体の宿命と悲しみを背負うもの同士のつながりが、より強く見えてくるという効果もありました。

しかもアルジャーノンを表現している役者に、チャーリイの子どもの頃や、死が訪れる姿を投影して、直面させることもできる。人間が必ず向き合うべき時間・・・それはかけがえのない時間かもしれないし、赦しの時間かもしれないし、最大の学びかもしれない。それをアルジャーノンを通して向き合わせることができるのは、舞台の強みだと思います。

舞台『アルジャーノンに花束を』の日本初演は2006年、17年という月日が流れてもなお同作に挑む浦井健治

──そんな世界に帰還するわけですが、9年ものブランクを経て同じ役を演じるというのは、めずらしいことですよね。

確かにそうですね。再演のときの最後に(共演した)安寿ミラさんが「ライフワークにするべきなぐらい、この役はあなたに合っている」という、表彰状みたいな言葉をくださって、またトライできる時があればとは思っていましたが、今回このタイミングでやらせていただくことになり、怖くもあるけれど光栄です。

──「怖い」というのは?

9年という歳月で、自分がいろいろ感じることが多くなっているんじゃないか? という怖さ。どんな単語を1番大切にしたいかも変わってると思うし、お客さまになにを伝えたいかという、心の花束の色もどう変わってくるか。あるいは時代が変わってきているので、色とりどりのどんなものをギフトにしても自由だ、という解釈もできるかもしれない。

■ 「お声がけをいただいてナンボの存在なので」

──初演が17年前ということは、浦井さんもミュージカルに関わって、それ以上の歳月が流れたことになります。これほど長く一線で続けるとは想像してなかったのでは。

ミュージカル界での絶え間ない活躍に関して、「感謝」と語る浦井健治

そういうビジョンでは見てなかったというか、まずミュージカル自体に疎かったというか、それまで観たことがなかったので、スタートから知識量が極端に少なかったし、「自分の価値をどう見せるか? 」を頭で整理することをせずに、よくここまで来たなあとは思います。

僕は自分で舞台を企画するわけではないし、お声がけをいただいてナンボの存在なので、それがずっと続いている状態には、本当に感謝ですね。

──そのなかでもこの作品は、初主演ということで、やはり浦井さんにとってはエポックメーキングだったのでは?

劇団☆新感線も、新国立劇場のシェイクスピアも、東宝のミュージカルも、全部エポックですよ(笑)。でも確かに、この作品の初演と再演は、歌唱法やセリフや身体の使い方とか、自分のひとつの軸として学んだことは多かったと思います。翼をいただけた作品ですね。

──9年の歳月を経てのチャーリイ役は、特にコロナ禍の3年間をはさんだということもあるので、何か違うものをもたらしてくれる予感はありますか?

僕自身は(もたらされるものは)変わらないと思うんですが、9年の間にこの作品がもはやSFではなくなっている感があるので、今の時代の問いかけとしての演劇を作っていく・・・というのは心掛けてます。やはりコロナ禍の3年間で、世界の情勢も含めて、環境や生活が変わっているのは、見て取れる気がしているので。

──なかでも特に「ここが大変だ」と思っていることはありますか?

んー・・・国民への負担。

──めちゃくちゃズバッと。

でもそんな状況で生きていくときにも、エンタテインメントにはきっと勇気をもらえると思っています。ありがたいことに、コロナ禍でも舞台にずっと立たせてもらったなかで、それをすごく感じてきましたから。

──そのなかでもこの舞台は勇気だけでなく、自分のなかの偏見や社会のとらえ方などを、もう一回考え直してみては? と呼びかけられるような舞台じゃないかと思います。

でもそれは、人それぞれですね。ただ「よかったー」と思うだけでもいい。エンタメはね、自由! 本当にそう思います。

同作品の受け取りかたは人ぞれぞれ、そこが作品の持つパワーとも表現する浦井健治

──ちなみに・・・チャーリイが「賢くなりたい」と思ったように、ちょっと痛い目に遭ってもいいから、こういう風になりたい! と思うものってありますか?

「こんな人物になりたい」というのは、役者をやってると実際にいろんな者になれるんで、特にないですね。能力的なことでいうと、記憶力かな? 大竹しのぶさんみたいに、1回脚本を読んだだけで全部覚えるみたいなことができたら、最高です。楽だし、自由な時間が増えますしね(笑)。

ミュージカル『アルジャーノンに花束を』は、5月13日・14日に「COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール」にて上演。チケットは1万3500円、現在発売中。

取材・文/吉永美和子 写真/バンリ

ミュージカル『アルジャーノンに花束を』

会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール(大阪市中央区大阪城3-6)
期間:5月13日(土)〜14日(日)
料金:1万3500円

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