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「店奥の生理用品の棚に追いやられて…」デリケートゾーン用商品を開発する女性社長を取材

  • 2023.3.30
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最近、「フェムケア」という言葉を耳にするようになりました。生理やデリケートゾーンの悩みは、なんとなく「恥ずかしい」「話しにくい」と思われがちですが、多くの女性が抱えている悩みでもあります。

2021年の新語・流行語大賞には「フェムテック」という言葉がノミネートされ、大手ブランドであるユニクロやワコールが積極的にフェムケア商品を販売するなど、ここ数年で女性の悩みにアプローチする動きが広がってきています。

女子SPA! 株式会社lojus(ロフス)の代表・田中麻里奈さん

株式会社lojus(ロフス)の代表である田中麻里奈さんは、女性の悩みに寄り添うためのボディケアブランド『MAPUTI』をプロデュース。デリケートゾーンケアアイテムは、日本最大級のコスメ・美容系サービスアプリ「LIPS」でベストコスメ入りするまでに注目されています。

しかし、フェムケアアイテムを世に広めるまでに苦労したそうです。田中さんに、フェムケア市場を開拓するまでの道のりや、女性の身体の悩みに対する考え方の変化などについて話を聞きました。

「デリケートゾーンケア」への意識が今より低かった

――デリケートゾーンケアアイテムを販売しようと決めたきっかけは何ですか?

田中:私は2歳から6歳まで中国、小学3年から中学2年までシンガポール、中学卒業までマレーシアに在住し、高校から日本で過ごしていました。社会人になり美容系の仕事をするなかで、自分で美容品メーカーを始めたいと思うようになりました。

2015年当時、VIO脱毛をしていたことで、デリケートゾーンの黒ずみや乾燥を気にしていました。デリケートゾーンケアアイテムの必要性を感じましたが、日本で探すことは難しかったんです。そこで、自分でデリケートゾーンケアアイテムを開発しようと決めました。

――デリケートゾーンアイテムが珍しい状況で、商品を開発することはチャレンジングなことだったのでは?

田中:2015年当時、デリケートゾーンケアアイテムはほぼ店頭に並んでいない状況でネットで調べていると、表参道ヒルズにあるエステサロンで販売されていた、アンティームホワイトクリームという商品を見つけました。

価格は約3000円と少し高額でしたが、調べた限りではそれ以上安いデリケートゾーンケアアイテムがありませんでした。しかし、Amazonで週に約2000個も売れていたんです。当時見つけたアンティームホワイトクリームはイタリア製だったので、日本製で安全かつ手頃な商品を開発すれば、需要はあるのではないかと考えました。

――日本では、海外に比べてデリケートゾーンをケアしようという意識が低いように感じます。

田中:主に美容に関心のある人や脱毛やサロンに通う人が、デリケートゾーンケアアイテムを購入していましたが、そのほかの人たちは、「ケア」という概念自体がなかったと思います。

実際、2016年からは、アメリカ発の「サマーズイブ」やフィリピン発の「PH care」など、デリケートゾーンに特化したアイテムがドラッグストアで見かけるようになりましたが、店頭の奥にある生理用品コーナーに置かれていたこともあり、認知度はまだまだ低かったです。

日本では思うより広がらず、市場を中国へ

女子SPA! MAPUTI「オーガニックフレグランスホワイトクリーム」(100ml)/2200円(税込)

――田中さんが販売しているデリケートゾーンケアアイテム「オーガニックフレグランスホワイトクリーム」と「オーガニックフレグランスインティメイトソープ」が、2022年にLIPSベストコスメ1位、2位を獲得しました。販売当初からベストコスメを獲得するまでの6年間、どのような試行錯誤をされましたか?

田中:2016年に販売を始め、大手化粧品問屋に商品について話しを持ちかけたところ、「世にはないものだから提案を受けられるかわからない」と言われることが多かったです。珍しいからという理由で試しに受け入れてくれる会社もあったのですが、なかなか売れず……。

一方で、当時「爆買い」という言葉がよく使われ、銀座や新宿では日本の商品を買う中国人観光客を多く見かけたんですね。そこで中国市場に可能性を感じ、2018年から中国での販売にシフトチェンジすることにしました。結果、中国ではホワイトクリームは年間100万個を販売することができ、安定した立ち位置を得ることができました。

女子SPA! MAPUTI「オーガニックフレグランスインティメイトソープ」(120ml)/2420円(税込)

――先に中国で販売し、そこから日本へ進出したという流れですか?

田中:そうですね。ただ、国内で営業を始めてすぐ、2019年にコロナが流行し外国人観光客が減ったことから、商品を置くことができなくなってしまいました。ですが、ちょうどそのとき、雑誌で「フェムケア」という言葉が使われるようになり、SNSではTikTokが流行り出したんですね。

この流れに便乗し、私たちもデリケートゾーンケアアイテムを広めようと、インフルエンサーの方に依頼してTikTokで発信してもらったり、ハッシュタグをつけて投稿する「ハッシュタグチャレンジ」をしたりしました。その結果、現在国内では約4500店舗で商品を取り扱っていただいています。

フェムケアの話は“タブー視”されていた

女子SPA! MAPUTIシリーズ

――営業をしていた頃、日本ではデリケートゾーンケアアイテムに対してどのような反応が見られましたか?

田中:営業担当の話によると、営業当初の2019年はバイヤーの方から「最近メディアで話題になっているけど、実際に売れるかどうかはわからない」「生理用品の横の棚15cmだけなら置いてもいいよ」と言われたこともあったそうです。

ただ、日本では生理が「恥ずかしいもの」「隠すべきもの」と考える人が多いので、生理用品コーナーと一緒にデリケートゾーンケアアイテムもお店の奥に追いやられてしまいます。目につかない位置にしか置いてもらえなければ売れないので、大きな広告を打つ代わりに、たとえば「2週間だけでも人目のつく棚に置かせてもらいたい」と提案することもありました。

――デリケートゾーンケアがタブー視されていたのでしょうか?

田中:そうですね。当時は今よりも性の話が表で語られることが少なかったので、デリケートゾーンケアについてもあまり公にされてきませんでした。当時の営業担当とバイヤーの方は男性だったので、当事者不在で女性のデリケートゾーンケアについて話す状況があり、お互いに直接的な言葉は避けていたようです。

女性に寄り添うというより、売れるかどうかで店頭に置くかが判断されていたので、ほとんどのバイヤーが男性である状況で営業するのは難しかったです。一方で、ドラッグストアなどの店舗に行くと女性スタッフさんに営業をする機会もあり、関心をもってもらえることもありました。なので、全国の店舗に足を運んで営業することは多くありました。

――最近では少しずつですが、女性の身体や性の悩みについてオープンに語られるようになってきてますよね。

田中:2021年の新語・流行語大賞では、「フェムテック」という言葉がノミネートされました。少しずつメディアも性の話題を取り上げるようになったので、ここ数年は男性バイヤーの方たちも話を聞いてくださることが増えました。逆にこの2年で競合商品が増えていて、商品をどう差別化するかが求められています。

意外と身近なデリケートゾーンの悩み

――競合商品が増えているなか、どのように差別化を図ったのでしょうか?

田中:口コミのなかでも、8割の方が香りを高く評価してくださっています。弊社では商品を独自に開発し、調香師と一緒にオリジナルの香りをつくっています。女性だけでなく、老若男女に愛されるような香りになっている点は、一つの差別化ポイントだと思います。

――チームで話し合って開発まで進めていたのですか?

田中:開発当初は社員がいなかったので、私1人で企画からデザインまで担当していました。現在は営業や店頭のスタッフさんに、どのようなケアアイテムが流行っているのかを聞き、商品の開発を進めています。あとは、20代から40代の友人100人にもヒアリングしました。

――ヒアリングするなかで、デリケートゾーンに関する悩みもありましたか?

田中:100人を対象に「あなたの美容に関する悩みは何ですか?」という質問でアンケートを実施したことがあります。2016年の結果によると、1位のダイエットに続き、2位にはデリケートゾーンの黒ずみやニオイに関するお悩みが多くありました。当時、VIO脱毛が流行っていたこともあり、デリケートゾーンを気にする人が増えていたことが背景として挙げられます。

悩みが生まれるのは、解決できないからだと思うんです。特にデリケートゾーンケアに関しては、当時は調べてもあまり情報が出てこなかったので、自分で改善する策がなかったんですよね。それが調査の結果として現れていると実感しました。

まだまだフェムケアアイテムを使ったことがない人ばかり

――日本のフェムケア市場の動向について教えてください。

田中:世の中にフェムケア市場に関連する調査は出ていますが、フェムケアと一言で表しても、美容や医療など幅広く含まれるため、さらに細かく分析する必要があります。

健康・美容業界でいうと、全国から店舗が集まる日本一規模の大きいドラッグストアショーという展示会が毎年開催され、今年初めてフェムケアゾーンがつくられました。このことは、たくさんの企業がフェムケアに注目していることを示していると思います。

――世間の関心も高まっていると感じていますか?

田中:メディアに取り上げられるようになり、フェムケアに興味をもつ人が増えています。一方で、生理日・排卵日予測アプリ、ラルーンが2022年に行った「フェムテック・女性用品に関する調査」(回答者 2323名)によると、フェムケアに高い関心をもつ回答者が集まっているにもかかわらず、約40%の人がフェムケアアイテムを利用したことがないと回答しています。

――フェムケアアイテムに興味があるけど利用していない人が多いのは、なぜでしょうか?

田中:個人的には、したいけど一歩を踏み出すほどではないと考える人が多いのかなと。たとえば、ニキビができてしまっても放置することもできるじゃないですか。デリケートゾーンケアに関しては、わざわざいろんな商品と比較して購入するまでに至らない人が多いと考えられます。あとは、フェイスケアやボディケアなど、ほかのケアを優先してる人も多い印象です。

――デリケートゾーンケアには、どのような人たちが興味をもっていますか?

田中:私たちの商品の利用者の平均年齢は30歳で、20代前半から40代中盤の利用者がみられます。20代前半の方はおそらく恋愛において「(ニオイで)パートナーに嫌な思いをさせたくない」「清潔でいたい」という人が多いのかなと。30代から40代の方は、女性ホルモンの減少により、乾燥といったリアルな悩みが増えることから、ケアに力を入れたい人は増えているといえます。

デリケートゾーンをきちんとケアすることは、女性の心身を健全に保つことにつながりますし、ぜひもっと多くの方に関心を持ってもらいたいです。

フェムケアが当たり前になる未来を目指して

女子SPA! 店頭に並ぶMAPUTIシリーズ

――これからのフェムケア市場はどのように変化していくと考えていますか?

田中:私は5年、10年以内に、現在のドラッグストアでボディケアの棚の半分ほどのサイズでデリケートゾーン用ケアアイテムの棚が確立すると思います。

実際、アメリカではスーパーやドラッグストアなど、さまざまな店舗でシャンプーやコンディショナーと並んで、デリケートゾーンケア商品の棚があります。日本でもフェムケアアイテムが一般的な消耗品として認知され、お客様が自分に合った製品を選べる時代がくるのではないかと期待しています。

――今後、MAPUTIとしてチャレンジしたいことはありますか?

田中:もともとMAPUTIは、タガログ語で「白」を意味します。女性の深い悩みを「黒」とたとえ、それを「白」にしたいという思いから立ち上がりました。女性のお悩みを解決するため、今後は頭から足の先まで、幅を広げて商品をつくっていきたいです。また、今後は女性だけでなく、男性の悩みにも寄り添う『MAPUTI MEN』もできたらいいんじゃないかと考えています。

<取材・文/Honoka Yamasaki>

【Honoka Yamasaki】

ライター、ダンサー、purple millennium運営。Instagram :@honoka_yamasaki

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