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住吉智恵のART HOLIC【悩める日本人の文化外交史 編】。

  • 2015.11.30
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© 2015「FOUJITA」製作委員会/ユーロワイド・フィルム・プロダクション

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日本人は昔から外国人に誉められたり叱られるのが大好き。戦後70年の節目に各所で取り上げられた藤田嗣治をはじめ、海外留学で西洋の薫りと自由な気運を学んだ日本の美術家たち。その近代洋画の系譜を紐解き、現代の美術教育に問いを投げかける若き画家。ペリー来航と開国の歴史を日米双方から見直すアメリカ人作家。西洋に倣い育まれた日本人の目覚めと悩みとは?

時代の価値観に断ち切られた画家フジタの生き方。

戦後70年の今年、引き裂かれた画家・藤田嗣治の再評価に注目が集まった。第1次大戦前に渡仏、ピカソやモディリアーニらと異邦人芸術家同士の交流を深め、真珠のような乳白色の肌合いの絵画はパリの画壇で名声を高めた。やがて凱旋帰国するも第二次大戦勃発により戦争画家として東南アジア戦線に従軍。圧倒的な画力を発揮したが、敗戦後は戦争責任を問われて逃げるようにパリへ戻り、2度と日本の地を踏むことはなかった。小栗康平監督の映画ではその2つの時代を1時間ずつに断ち切り、きっぱりと併置して見せる。オダギリジョー扮するフジタが“モンパルナスのフジタ・ナイト”と呼ばれた狂乱の宴で見せるアンニュイな軽妙さ。妻・君代と疎開した村で粛々と制作に励む寡黙な生まじめさ。このコントラストに「共同社会の構成員」と「自由闊達な個人」が1人の人間に共存する不思議さを思う。

 一方、小沢剛の個展ではフジタをモデルとした架空の画家Fの生涯を、晩年はパリでなくバリに骨を埋めたという設定に置き換えて描く。同じ美術家として小沢が問いかけるのは、時代の価値観が揺らぐ中で試される「個人」の表現や良心や克己心の危機か。キナ臭い現代だからこそフジタの生き方は大事な何かを囁きかける。

映画『FOUJITA』

2015年11月14日 角川シネマ有楽町ほか公開中

http://foujita.info/

小沢剛展「帰ってきたペインターF」

会期/〜2015年12月27日(日) 

会場/資生堂ギャラリー

https://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/

「MOMAT COLLECTION 特集:藤田嗣治 全所蔵作品展示」

会期/〜2015年12月13日(土)

会場/国立近代美術館

http://www.momat.go.jp/am/exhibition/permanent20150919/

Photo: 「帰って来たペインターF Chapter 5(2015年)」

画家の身体に憑依して現れる、近代美術の子羊たち。

ふわふわとナイーヴそうなルックスのビジュアル系バンド好きの青年は、翳りない色彩と震えるような点描の美しい自画像でデビューした。これがまた彼の他の作品より何倍も完成度が高い。姿見のような自画像と向き合う、強靭な自意識の持ち主だった。

実はその絵は、近代洋画の礎を築いた黒田清輝の師、ラファエル・コランの代表作を、彼自身のアンドロジナス的な裸像に置き換えたものだ。昨年の個展では、黒田清輝の「智・感・情」を同様にアップデートした4枚組の絵画で注目される。

10年が経って、ラム(子羊)からマトン(羊)へ成長し、筋金入りの鋭敏な自意識の有り様もまた変容した梅津。日本の近代洋画史をシミュレーションするだけでなく、特異な美術教育の制度や美大受験のテクニックにより受け継がれる画風の痕跡をテーマとして研究している。さらに私塾であり予備校である理想共同体〈パープルーム〉を主宰。夜間は介護施設で働く梅津の自宅で、二十歳前後の生徒5名が共同生活を送りながら日夜制作活動に励み、活発な議論や批評が交わされているという。

本展では1900年のパリ万博で、黒田清輝の「智・感・情」と共に展示されていたスイス人画家フェルディナント・ホドラーの「昼」を下敷きにした大作を発表。作家自身の身体を借り、皮膚感覚をともなって立ち現れる、歪んだ近代美術史の子羊たちは、出合うたびに逞しさを身につけていく。梅津庸一 「ラムからマトン」

会期/2015年11月14日(土)〜 12月26日(土)

第一会場/ARATANIURANO

http://www.arataniurano.com/

会期/2015年11月20日(金)〜2016年1月11日(月・祝)

第ニ会場/NADiff gallery

http://www.nadiff.com/gallery/umetsuyouichi.html住吉智恵(Chie Sumiyoshi)
アートプロデューサー、ライター。東京生まれ。アートや舞台についてのレビューやインタビューを執筆の傍ら、アートオフィス&レーベル「TRAUMARIS」を主宰。ほか各所で領域を超えた多彩な展示やパフォーマンスを企画している。今秋、アーティストEKKO初の作品集を出版。2011年より横浜ダンスコレクションで審査員を務める。

http://www.traumaris.jp

日本と欧米とのこじれたかけひきを紐解く試み。

日本の近代化の歴史を紐解くと、欧米列強国と日本の関係がまるで色恋のかけひきのように見えることがある。アメリカ人アーティスト、サム・デュラントは本展で1853年のペリー艦隊の来航、1905年の日露戦争での日本の勝利という歴史的瞬間に着目した。窓の外に明治神宮の借景が広がるその会場もまたL.A.拠点のアメリカのギャラリーだ。

のっけから日本兵がロシア兵を後ろから襲っている絵が出迎える。先勝を祈願する「勝ち絵」だったという春画をもとにしたこの作品は、侵略と陵辱という行為を暗示すると共に、大国が初めてアジアのちっちゃな国に敗れたショックと、日本の帝国主義の誇大妄想的膨張を想起させた。

またペリー提督に同行した画家ハイネが記録したシーンと、日本人の視点から描かれた同じシーンを交互に見せる一連の絵巻では、攻撃を仄めかし強制的に貿易協定を結ばせようと幕府との交渉に臨む様子が描かれる。天狗のように鼻が誇張されたアメリカ人、怯えたり歓迎したり大慌ての江戸っ子たち、長閑な江戸の風物詩。そこではマッチョな強国にむりやりこじ開けられた形の開国とその後今日に至る日米の関係性を思わざるを得ない。ほんわかしたユーモアに空恐ろしさが潜む展示だ。サム・デュラント「Borrowed Scenery」展
会期/2015年11月28日(土)〜2016年1月16日(土)

休廊日/日・月・祝日(※冬期休廊: 2015年12月20日〜2016年1月4日)

会場/BLUM & POE 東京

http://www.blumandpoe.com/住吉智恵(Chie Sumiyoshi)
アートプロデューサー、ライター。東京生まれ。アートや舞台についてのレビューやインタビューを執筆の傍ら、アートオフィス&レーベル「TRAUMARIS」を主宰。ほか各所で領域を超えた多彩な展示やパフォーマンスを企画している。今秋、アーティストEKKO初の作品集を出版。2011年より横浜ダンスコレクションで審査員を務める。

http://www.traumaris.jp

参照元:VOGUE JAPAN

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