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「急行の止まらない駅から徒歩20分」出口戦略のないマイホーム購入で結婚早々不良資産を抱えた30代女性の苦悩

  • 2023.3.29
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マイホームは高額な買い物だけに失敗すると、その後の人生設計が狂いかねない。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「とくに20代、30代はライフスタイルが変わりすい時期。出口戦略もしっかり考えた上で購入を決断すべきです」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

カーテンを開けて朝日を浴びる女性
※写真はイメージです

20代、30代は結婚、出産、キャリアの転換など、ライフスタイルが大きく変わりやすい時期ですよね。私自身、この世代の時に結婚、出産、会社の立ち上げと、怒涛どとうの日々を過ごした経験があります。そんな、挑戦とゆらぎの多い時期に新築物件を買ったシングル女性が、数年のうちに家を手放す決意をするに至った顚末てんまつをお伝えします。

SNSのタイムラインに流れてきた不動産広告がきっかけに

医療関係で働く赤塚千恵さん(仮名/当時37歳)は、15年間交際している彼氏のいるシングル女性。新型コロナウイルスの影響で仕事は激務を極め、この数年、気の抜けない日々を過ごしてきました。

彼氏とは結婚の話が出たこともありましたが、なんとなく立ち消えになったまま月日が流れてしまい、赤塚さんも仕事の忙しさから自分の将来に向き合えずにいたと話します。

年収は600万円。コツコツしていた貯金が1000万円近くになった時、たまたまSNSのタイムラインに流れてきた不動産広告が目に留まりました。都心のワンルームで長らく一人暮らしをしていた赤塚さんは、窓の外から畑が見える郊外の新築マンションの広告が新鮮に見えたそうです。

ものの勢いで内覧を申し込んだ赤塚さん。埼玉県の郊外、急行の止まらない駅から徒歩20分の距離にできたそのマンションは、広々とした間取りが“ウリ”。新型コロナの影響でリモートワークが根付いてきた中、通勤の便より広さを重視した物件なのです。

内見で即決。住宅ローンの審査を申し込み

赤塚さんが狙いをつけた55平米で2LDKの間取りの部屋は、一人暮らしには十分すぎるほど。長い廊下やデッキチェアの置けるバルコニー、濃い緑の匂いや鳥のさえずり・虫の音が聞こえる環境は都会の賃貸アパートにはなかったもので、赤塚さんの胸は高鳴りました。

「夏は近くで行われる花火大会が見えるそうです。デッキチェアでビールを飲みながら花火なんて最高でしょうね」

営業の人の言葉は赤塚さんに明るい未来を想像させるには十分で、内見後すぐにローンの審査書類を銀行に提出していました。この新築物件、値段は3500万円。頭金として500万円を払い、3000万円を35年ローンで借りると、月の返済は約7万円。

彼女の収入と今のライフスタイルなら返済は問題なく、銀行の審査もするっとクリアし、内見からわずか1カ月半後、赤塚さんは人生初の自分の城を手に入れたのです。

家を買ってわずか3カ月後にプロポーズを受ける

そんな中、彼女の人生にまた大きな決断の時が訪れます。「結婚」です。15年交際し、ずっとのらりくらりだった彼が、家を買ったわずか3カ月後にプロポーズしてきたのです。

結婚式の指輪交換
※写真はイメージです

「なんで家を買う前にもっと話し合わないんだ……」と思いますよね。赤塚さん自身はすでに結婚への期待はなく、ずっとシングルで生きていく覚悟で、広さと自然に癒やしを求め、郊外の家を買ったのです……が、マイホーム購入直後に彼が会社から転勤を言い渡されてしまい、それに伴って赤塚さんにプロポーズ……ということだったのです。

この機会を逃せばもう結婚のチャンスはないかもしれないという危機感と、医療関係の仕事だったこともあり、彼の転勤先でも転職の目処が立つであろうことから、赤塚さんは意を決して彼についていくことに。

懸案のマイホームについては、買ったばかりで愛着もあることから、家賃13万円で賃貸に出すことにしました。

賃貸に出すも、借り手がつかないまま1年経過

「賃貸に出したのに、借り手がつきません」

赤塚さんがそう言って私の元にやって来たのは、マイホームを賃貸に出して1年が経過した頃でした。

ここで赤塚さんが貸し出したお家をいま一度思い出してみましょう――立地は、埼玉県にある「急行の止まらない」駅から「徒歩20分」。「55平米2LDK」で家賃が「13万円」――。大変酷なことを言えば、彼女のお家はすべてが「中途半端」で、私的には、借り手がつかないのも仕方ないよね……と思ってしまいました。

立地も広さも中途半端な物件は難しい

まず、都内にお勤めの方は、急行の止まらない不便な駅から歩いて20分もかかる家を賃貸物件の候補にしません。そんな環境にありながら、広さがあるので家賃も格安というわけでもない。かといって、3人家族が暮らすには55平米では若干物足りず、一人暮らしには広すぎるという中途半端さ加減。まさに「帯に短し襷に長し」です。

赤塚さんは、自分が住むこともできず、利益も生まないこの家に毎月7万円のローンと修繕積立金や管理費、固定資産税、不動産会社への管理費などを含めて毎月10万円以上を払っていました。

不幸中の幸いと言うべきか、新婚生活はとても順調らしく、お子さんもまもなく産まれるご予定ということで、これを機に処分するか、なんとしても借り手を見つけたいということでした。

結果的には、基盤が埼玉にある賃貸に強い不動産会社に乗り換えたことで借り手が見つかりましたが、家賃は希望額とはいかず、現在、9万円で貸し出しているということです。利益が出ない金額なので今は売却を検討していますが、先ほどの中途半端さゆえに、売却も苦戦が予想されます。

家を買いたくなったときに確認すべきこととは

今回私が赤塚さんのエピソードをご紹介しようと思った理由は、20代、30代という「若年層のライフスタイルの変化」と「資産形成」についてお伝えしたいと思ったからです。男女問わず結婚や同棲などが現実的になってきた場合、生活が大きく変化する可能性があるので、まずはパートナーと将来設計についてきちんと話し合いましょう。

「当たり前でしょ?」と思うかもしれませんが、学生時代のノリのままお付き合いをしている中、赤塚さんのように突然、自分好みの物件に出会ってしまうこともあります。その時、互いが希望するライフスタイルとのすり合わせなしに購入してしまっては、維持が難しくなります。

加えて、家を買うときは「この家が売れるか?」「借り手がつくか?」も一緒に考えること。つまり、「出口戦略」を持って臨むことが必須です。たとえば狭いワンルームでも都心の駅から徒歩数分なら借り手がつきやすいですし、郊外であっても学園都市はファミリー層に人気なので売れやすい、といった感じです。

新築物件には約2割の宣伝費などが上乗せされている

さらに付け加えれば、本連載でも何度かお伝えしている「新築プレミアム」も気をつけなくてはいけません。新築物件の場合、物件を完成させるまでにかかった宣伝費などの費用が「新築プレミアム」価格として売値にプラスされているため、市場価格より割高です。

だいたい、物件価格の2割くらいが新築プレミアムとして乗っているといいますから、3500万円で購入した赤塚さんの家の場合、売却の際には2800万円が実際の価値となる、ということです。これは大きいですよ。

あとは、赤塚さんのように日々の生活でとにかく忙しく疲れている時に大きな買い物、特に家を買ってはいけません。気持ちが前向きで、冷静に物事を比較・ジャッジできる状況で物件を探しましょうね。

構成=小泉なつみ

高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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